39.遺跡の奥
ティシアたちは、遺跡の奥へと進んでいく。
しばらくすると、開けた場所に出た。
そこは、まるで礼拝堂のような場所だった。
壁には古びた装飾が施され、部屋の中央には一つの台座が置かれている。
ロートは剣に手をかけ、周囲を警戒する。
「……叫び声が聞こえたのは、ここだったよな。」
「はいです。」
ノアは辺りを見渡す。
「誰かー! 助けに来たですよー!」
声が礼拝堂の中に響き渡る。
「…………。」
しかし、返事はない。
「誰もいないのか?」
スロンが周囲を見渡す。
ティシアは中央の台座に目を向けた。
「……待って。」
「どうした?」
「あの台座……何か置かれていたんじゃないかな。」
台座には、何かを置いていたような跡だけが残っていた。
そして、その周囲には――
黒い染みのようなものが広がっていた。
そこからは、獣臭さが漂っている。
ロートがしゃがみ込み、黒い染みを観察する。
「黒い何か……影狼のあれに似てるかもな。」
カーナもじっと染みを見つめる。
「魔力的にも影狼のもので間違いないわ。ここが影狼の住処だったんじゃないかしら。」
その時――
「キャァァァァァ!」
壁を調べていたノアの悲鳴が響いた。
「ノア!」
ティシアが駆けつける。
「どうしたの!?」
ノアは壁を指差しながら、震える声で答えた。
「……これ……。」
ティシアが壁を見る。
そこには、無数の傷跡が残されていた。
そして、その下には――
人間の装備がいくつも落ちていた。
「……これ、調査員のものじゃないか?」
ロートが拾い上げる。
剣、弓、杖。
新しいものもあれば、苔がついている古いものもあった。
スロンが周囲を見渡す。
「……これ、最近来た調査員だけのものじゃないんじゃないか?」
ロートが古びた剣を見つめる。
「そうみたいだな。」
「じゃあ、この遺跡では昔から人が……。」
カーナが言葉を止める。
ティシアは、床に落ちている装備を見つめる。
「……これ、何年前のものだ?」
ノアが不安そうにティシアの服を掴む。
「ティシア……。」
ティシアは顎に手を当て、遺跡の奥を見つめる。
(影狼からは、サーナトスの力を感じた。今も……ほんの僅かだけど感じる。)
ティシアは周囲を見渡す。
(でも、この遺跡からはサーナトスの力を感じない。)
(……影狼が死んだときに、一緒に消えたのか?)
ティシアは少し考える。
(いや……それなら、今感じているこの力は何なんだ?)
「……。」
ティシアは無意識に、自分の胸へ手を当てた。
「もう少しここを調べましょう。もしかしたら、隠し通路があるかもしれない。」
ロートが頷く。
「そうだな。結局、あの叫び声がどこから聞こえたのかも分かってねぇからな。」
五人は遺跡の中を隅々まで探索した。
しかし、隠し通路や調査員の姿を見つけることはできなかった。
「……今日はここまでにしよう。遺跡の調査は別の人に任せよう。」
ロートがそう言い、五人は遺跡を後にした。
その後、冒険者ギルドへ戻り、影狼を討伐したことと遺跡で起きた出来事を報告する。
受付嬢は報告を聞き終えると、深く頭を下げた。
「本当にお疲れさまでした。皆さんが無事に戻ってきてくれてよかったです。」
「まあ、かなり危なかったけどな。」
ロートが苦笑する。
「それなら今日は、俺の奢りで打ち上げといこうぜ。」
「いいですね。」
スロンも笑う。
「私も賛成。」
カーナが手を上げる。
「ノアも行くです!」
ノアも嬉しそうに頷いた。
ティシアはそんな四人を見て、小さく笑う。
「じゃあ、行こうか。」
こうして五人は、討伐の疲れを癒すため、街へ繰り出した。
────────
五人は居酒屋の六人掛けの席に座っていた。
「ティシア~お前も酒飲めよ~」
顔を赤くしたロートが、ティシアの背中にもたれ掛かる。
「僕は未成年なので飲めませんよ。」
「いいじゃねぇか~。ちょっとくらい~」
「ロート、あんた飲みすぎよ。」
カーナがロートの肩を掴み、自分の席へ戻す。
「ほら、ちゃんと座って。」
「うぇ~……。」
ロートを座らせたカーナは、そのままティシアの左側に腰を下ろした。
カーナも少し顔が赤い。
「ティシアちゃんは、ジュースとかの方がいいわよね~。」
「はい。そうしておきます。」
ティシアは苦笑しながら、ジュースの入ったグラスを手に取った。
スロンも酒を飲んでいるが、酔っている様子はない。
その隣では、カーナがティシアの腕に寄りかかる。
「ねぇ、私たちのパーティーに入らない?」
「え?」
「絶対に後悔はさせないわ。」
ティシアは少し困ったように笑う。
「……ごめんなさい。僕たちは、やることがあるので。」
「え~。こんなイケメンを見逃すなんて、私はできないわ。」
カーナはそう言って、ティシアの顎に手を添える。
「ちょ、カーナさん……。」
その瞬間――
「ティシアは私と一緒に行くんです!」
右側からノアがティシアの腕を引っ張る。
「だから、諦めてください!」
「あら~?」
カーナがニヤリと笑う。
「ノアちゃん、もしかして嫉妬してるの?」
「してないです!」
「顔、真っ赤よ?」
「お酒のせいです!」
「ノアは飲んでないだろ。」
スロンが淡々と突っ込む。
「…………。」
ノアが黙り込む。
ティシアは二人に腕を引っ張られながら、困ったように笑った。
その後、ロートが完全に酔い潰れたことで、打ち上げはお開きになった。
「まったく……飲みすぎだろ。」
スロンはため息をつきながら、ロートを背負う。
「今日は楽しかったわ。ありがとうね、二人とも。」
カーナが手を振る。
スロンも静かに手を振った。
「楽しかったです! ありがとうです!」
ノアも嬉しそうに手を振る。
「僕も楽しかったです。皆さん、ありがとうございました。」
ティシアも笑顔で手を振り返した。
「じゃあ、またな。」
そう言って、ロートたちは宿へ向かって歩いていった。
ティシアとノアも、その背中を見送る。
「……いい人たちでしたね。」
「うん。」
ティシアは小さく笑った。
ティシアたちも宿に戻り、明日の準備をして休むことにした。
────────
スロンはロートを背負いながら宿へ戻ってきた。
「まったく……お前が酔い潰れたせいで、僕が金を払う羽目になったじゃないか。」
ロートから返事はない。
スロンはため息をつきながら、ロートを部屋のベッドへ寝かせる。
「カーナも、相談なしにティシアたちを誘うなんて……。」
スロンは呆れたように呟く。
「あとでちゃんと話して――」
ふと、部屋を見渡す。
「……あれ?」
カーナの姿がない。
「カーナ?」
部屋の中にも、廊下にもいない。
スロンは眉をひそめた。
「……どこに行ったんだ?」
────────
ティシアは部屋のベッドで横になっていた。
(二日も連続で襲われたから、まともに寝れてなかったな……。)
ティシアは目を閉じる。
ようやく眠れそうになった、そのとき――
コン、コン。
「……?」
ドアを叩く音が聞こえた。
(誰だ?)
ティシアは身体を起こす。
念のため、横に置いていた剣と明かりを手に取った。
そして、ゆっくりとドアを開ける。
「……カーナさん?」
扉の前に立っていたのは、カーナだった。
「こんばんは、ティシアちゃん。」
「どうしたんですか? こんな時間に。」
「実は、見てほしい場所があるの。」




