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不死身の王子 ~死を拒まれた少年の旅路~  作者: ミミ
第二章『神聖国家アルカディア』
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31.一緒に笑いましょう

「もう一度、一緒に笑いましょう。」


ティシアが手を差し伸べる。

ノアは、その手を見る。


今までなら、迷っていた。

聖女として正しい道を選ばなければならないと思っていた。


でも――。


ノアは小さく拳を握った。


「ティシアさん。」


「はい?」


「私に……貸しがありますよね。」


ティシアは少し考える。

「……はい。収納袋をいただきました。」


「なら、その貸し……今返してくださいです。」


ノアは顔を上げる。

「私を、一緒に連れて行ってくださいです!」


ノアはティシアへ駆け寄り、その手を握った。


「聖女様!」

デルトの声が響く。


ノアは振り返る。

そこには、傷だらけになりながらも自分を守ろうとするデルトの姿があった。


「……ごめんなさい、デルト。」


「私、ずっと聖女でいなきゃいけないと思っていました。」


「でも……」


ノアはティシアの手を強く握る。


「私、もう一度……心から笑えるようになりたいんです。」


そして、優しく笑った。

「さようならです!」


ノアはティシアと共に、塔の外へ飛び出した。


「え、ちょっとノアさん!?」


ティシアの声が響く。


普通なら、何十メートルもの高さから落ちれば無事では済まない。


しかし――。


「大丈夫です。」


ノアは静かに目を閉じる。


詠唱はない。


言葉すら必要ない。

次の瞬間、二人を包み込むように強い風が吹き荒れた。


二人の周囲に渦を巻くように風が集まり、落下速度を奪っていく。

まるで、空そのものが二人を受け止めているようだった。


「ノアさん! 無詠唱魔法できるんですか? 高度な技術って聞いたことがありますけど……」


ティシアが驚いた声を上げる。


ノアは少しだけ笑った。

「それより……敬語なんていらないですよ。」


「え?」


「ノアって呼んでほしいです。私もティシアって呼ぶので」

一瞬だけ、聖女ではなくただの少女の顔になる。


「それと、簡単な魔法なら無詠唱で使えるです。」


ノアは少し得意げに胸を張った。

「だてに聖女として勉強してないですよ。」


周囲を見ると、騎士たちと過激派が激しくぶつかり合っていた。


まだ街の混乱は収まっていない。

(恐らく門は閉まっている……)


でも、西門には門番さんがいる。

(もし事情を話せば、開けてくれるかもしれない。)


ティシアは周囲を確認する。

まだ騎士と過激派の戦いは続いている。


「ノア、西門に行こう。」


「え?」


「協力してくれる人がいる。」


ティシアの言葉に、ノアは頷く。

「分かったです、ティシア!」


二人は西門へ向かって走り出す。


しかし――。

その姿を見逃さない者がいた。


集団の中から、一人の女が姿を現す。

フードの奥から、冷たい視線が向けられる。


「待ちなさい。」


女はゆっくりと歩き出す。


「聖女の首は――」


フードの女、ベータが笑う。

「私がもらうわ。」


ベータは詠唱すらせず、指先に小さな火球を生み出した。


「……小さいです!」


ノアが驚いた声を上げる。


「でも……込められている魔力が多すぎます。気を付けて!」


火球が放たれる。


その瞬間、ティシアは理解した。


(避けきれない。)


小さいからこそ速い。


一直線に迫る火球は、瞬く間に距離を詰めた。


ティシアは迷わない。


「……っ!」


左手を前に出す。


回避ではなく、受ける。


──ドォォン。


凄まじい爆発音が響く。

火球が直撃し、ティシアの左腕が吹き飛んだ。


「ティシア!」

ノアが思わず足を止める。


「止まらないで!」

ティシアは残った右手で剣を握り直す。


「僕の手は大丈夫。すぐに再生する。」


失った左腕から、少しずつ肉が戻り始める。

「理由は……みんなが助かってからでいい。」


「今は、前に進んで。」


「フフ……」

ベータが笑う。


「仲がいいのね。」


その手には――五つの火球が浮かんでいた。


「なら、もっと苦しめてあげる。」


ベータの手から、五つの火球が放たれる。


同時に。


逃げ道を塞ぐように、全方向から迫ってくる。


(防げない……!)


ティシアは一瞬で判断する。


剣では間に合わない。


避けることもできない。


なら――。

ティシアは両腕を交差させ、頭と心臓を守る。


(ここだけ無事なら……再生できる。)


次の瞬間。


五つの火球がティシアを包み込んだ。


──ドォォォン!!


爆炎が周囲を覆う。


熱風が辺りを駆け抜ける。


しかし――。


その炎の中から、一人の男が現れた。

ウラノス騎士団長。


ヴァレン・クロディウス。

彼は何事もなかったかのように立っていた。


「おやおや。」


ヴァレンは眼鏡を押し上げる。


「これはこれは……第二王子、ティシア・バシレウス君じゃないですか。」


「ヴァレンさん……なぜ、守ったんですか。」

ティシアは警戒しながら尋ねる。


ヴァレンは小さく笑った。

「守った?違いますよ。」


「死体が残っていないと、後の処理が面倒になるでしょう?」


「は────」


その瞬間。


一閃。


ティシアの胸を、剣が貫く。


「ふぅ……間に合いましたか。」


ヴァレンは周囲を確認する。


「聖女様。」


「あなたは保護対象です。ご安心を。」


「ティシア!」

ノアは叫び、ティシアの元へ駆け寄ろうとする。


その刹那――。


「……!」


ベータが放った火球が、ノアへ向かって飛ぶ。


避ける暇はない。


しかし。


「させませんよ。」

ヴァレンが一歩踏み出す。


キィン――。


鋭い音が響いた。

ヴァレンの剣が、火球を真っ二つに斬り裂く。


二つに分かれた火球は、ノアの横を通り過ぎて消滅した。

「……あなた、すごいわね。」


ベータは楽しそうに笑う。

「火を斬るなんて初めて見たわ。」


「ねえ、私の彼氏にならない?」


ヴァレンは一瞬だけベータを見る。

「……お断りします。」


「即答?」


「生憎ですが、私は仕事一筋なもので。」


ヴァレンは剣を構える。

「それに、今は場所を移した方がいい。」


ヴァレンは周囲を観察する。


「ここでは聖女様を守る必要がありますから。」


「いいわよ。」

ベータは肩をすくめる。


「聖女を殺すのは、また次の機会でいいわ。」


「私はそこまで信仰熱心じゃないもの。」


ベータは小さく笑う。

「神に人生を捧げてるのは、アルファとガンマくらいよ。」


「私はただ……面白い相手と戦えれば、それでいいの。」


「そうですか。」


ヴァレンは興味なさそうに答える。

そして、二人は別の場所へ消えていった。


残されたのは、ティシアとノアだけだった。

「ティシア!」


ノアは倒れたティシアへ駆け寄る。

「ティシア! ティシア!」


震える声で何度も名前を呼ぶ。


「死んじゃいやです……!」


「ティシアが死んじゃったら、私……もう……」

言葉が続かない。


「……大丈夫。」


ティシアがゆっくり目を開く。


「生きてるよ。」


ティシアは苦笑する。


「体は……かなり痛いけどね。」


「ティシアァァ……!」


ノアは涙を流しながら、ティシアに抱きついた。

「本当に……よかったです……!」


その時、ノアの手にあった神翼の羽が、ティシアの身体に触れた。


――ピキッ。


小さな音が響く。


神翼の羽に存在していた三つの羽が、ゆっくりと浮かび上がる。

「え……?」


ノアが驚きの声を漏らす。


三つの羽は光の粒子となり、ティシアの身体へ吸い込まれていく。


ティシアの意識が、深い闇へ沈んだ。

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