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不死身の王子 ~死を拒まれた少年の旅路~  作者: ミミ
第二章『神聖国家アルカディア』
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29.聖人の儀

聖人の儀、当日。


ティシアは宿を出る。


(聖人の儀が行われるのは夜。)


(それまでにアギアの塔へ入り、見つからない場所で待機する。)


(ノアさんと、もう一度話すために。)


ティシアは穴だらけになった修道服を脱ぐ。


そして、アストが直してくれた服へ着替える。


血の跡も残っていない。まるで、何もなかったかのように。


ティシアは腰の剣を見る。


何度も戦いに使った剣。


しかし、刃には傷一つなかった。


剣を握る。


ティシアはアギアの塔に向かう。


────────

アギアの塔、中間階。

ノアは聖騎士の男と話していた。


「デルト?聖人の儀を早めるんですか?」


「はい。」


男は静かに答える。

「最近、過激派の活動が激しくなっていますから。」


「王からの伝令です。儀式を早め、被害が出る前に終わらせろと。」


ノアは少し不安そうに目を伏せる。


「……そうですか。」


男は微笑む。

「ご安心ください。」


「聖女様は、私がお守りします。」

────────

ティシアはアギアの塔へ着いた。


塔の周囲には、多くの人が集まっていた。


聖人の儀を控え、修道士や聖騎士たちが慌ただしく動いている。


(……人が多い。)


昨日までとは違う。警備が明らかに増えている。


塔の入り口には、二人の聖騎士が立っていた。

(正面から入るのは無理か。)


ティシアは周囲を見渡す。


すると、昨日まで共に掃除をしていた修道女を見つけた。


「すみません。」


修道女が振り返る。


「あら……確か、聖女様に褒められていた方ですよね?」


「はい。」


ティシアは頭を下げる。

「実は……アギアの塔の中に、掃除道具を置き忘れてしまって。」


「今日の儀式前に確認しておきたくて……中へ入ることはできますか?」


修道女は少し考える。


「本来なら、儀式前だから関係者以外は入れないんだけど……。」


修道女は小さく笑う。

「聖女様が直接お声をかけた方ですものね。今回だけ特別ですよ。」


そして――。


アギアの塔の中へ入った。

しかし、すぐに違和感を覚える。


(……騒がしい。)


塔の中では、騎士たちが慌ただしく動いていた。


「どうしました?」


ティシアは近くにいた騎士へ声をかける。


「ん?」


騎士は一瞬だけティシアを見る。


「今忙しいんだよ。儀式を始めるから、下の警備に人を集中させろって指示が出てる。」


ティシアの表情が変わる。


「……始める?」


その瞬間――。


背後から、重い足音が響いた。


「何事だ!」


振り返ると、一人の聖騎士が速足で塔の中へ入ってくる。


その姿を見た瞬間、ティシアの動きが止まった。

「……デルト聖騎士。」


しかし、デルトはティシアに気づいていない。


周囲の騎士へ問いかける。

「なぜ急に儀式を始める話になっている?」


騎士が慌てて答える。

「デルト様の命令です。儀式を前倒しにするため、最上階の警備を減らし、下層へ人員を回せとのことでした。」


「……何?」


デルトの表情が変わる。

「俺はそんな命令を一言も出していない。」


「どういうことだ。」


周囲がざわめく。


その時――。


デルトの視線がティシアへ向いた。

「……お前は。」


一瞬、沈黙。

「確か、あの時……殺したはずだな。」


ティシアが構える。


その瞬間――。


デルトの姿が消えた。


「……っ!」


次の瞬間、背中に衝撃が走った。


ティシアの身体が壁へ叩きつけられる。

「がっ……!」


(見えなかった……!)


ティシアは剣を抜く暇すら与えられなかった。


────────────


アギアの塔、最上階。


「もう、儀式を始めてもよいのですか?デルト。」

ノアは手袋を外して神翼の羽(しんよくのはね)を握っている。


「はい。ノア様の準備ができ次第、いつでも。」

聖騎士の男は静かに答える。


ノアはしばらく黙っていた。


「……デルト。」


「はい。」


「剣を抜いて、振ってください。」


一瞬。


偽デルトの動きが止まる。


「……なぜでしょうか?」


「確認したいことがあります。」


ノアは静かに彼を見る。


「……いいでしょう。」

聖騎士の男は剣を抜く。


そして――。


振り下ろす。


その一撃は重かった。空気を震わせるほどの力。


まともに受ければ、鎧ごと砕かれるほどの威力。

しかし、ノアの表情は変わらなかった。


「……違います。」


「何がですか?」


「デルトは、そんな振り方をしません。」


聖騎士の男の動きが止まる。


ノアは静かに続ける。


「私の知っているデルトは、その体格からは想像できない速さで剣を振ります。」


「力で押し潰すような戦い方はしません。」


男は黙ったまま剣を握る。


「それに……。」


ノアは彼の顔を見る。

「デルトは、私のことを『聖女様』と呼びます。」


「あなたは先ほど、私を『ノア様』と呼んだ。」


「答えなさい。」

ノアは男を指さす。声が低くなる。


「あなたは……誰ですか?」


聖騎士の男は、しばらく沈黙した。


そして――。


「……私ですか?」


男はゆっくりと笑う。

「あなたたちが過激派と呼び、恐れている者です。」


「ウラノス王国を正すために選ばれた者。」


男は静かに笑う。

「私の名は――アルファ。」


「神の意思を受け、この国をあるべき姿へ戻す者です。」


アルファは剣を構える。


「さあ――。」


「ウラノス王国に関わる異端には……。」


「死を。」


アルファが剣を振り上げる。


その瞬間――。


神翼の羽。


聖女だけが扱うことを許された神聖な道具。


ノアはそれをアルファへ向ける。


「……ごめんなさい。」


小さく呟く。


まばゆい光が塔の最上階を包む。


「────ッ」


アルファは目を覆う。


「くっ……!」


その隙に、ノアは階段へ走った。


「待ちなさい!」


アルファが追う。


「神聖な道具を……目くらましなどに使うなんて。」


「あなたは、本当に聖女なのですか?」

────────

デルトはティシアを壁へ押し付ける。


「これはお前が仕組んだのか?」

首にかかる力が強くなる。


「違……う。」

ティシアは苦しそうに答える。


デルトはしばらくティシアを見る。


「だが、理由は関係ない。お前は許可なくアギアの塔へ侵入した。」


「聖女様の安全を脅かした以上、拘束する。」


その時、最上階から、まばゆい光が降り注いだ。


デルトの表情が変わる。


「……これは。」


白い光。


神聖な力。


「神翼の羽の光……!」


デルトは即座に判断する。

「聖女様の身に何か起きている。」


デルトはティシアの首から手を離す。そして、階段を駆け上がった。

残された騎士たちがティシアを囲む。


「動くな。」


「抵抗すれば拘束する。」


一人の騎士が近づく。


しかし――。


「う、うわああああ!」


塔の外から、叫び声が響いた。


一つではない。


二つ、三つ――。


次々と悲鳴が重なっていく。

「何だ……?」


騎士の一人が窓へ駆け寄る。

「……そんな。」


ティシアも窓の外を見る。


そこには、街を埋め尽くすほどの人影があった。


フードを被った者たちが、至る所で人々を襲っている。


「「異端には死を――!」」


叫び声が街に響く。

彼らは周囲の人々へ襲いかかっていた。


逃げ惑う人々。泣き叫ぶ子供。


祭りを待っていた街は、一瞬で混乱に包まれる。


「外に出るぞ!」


騎士の一人が叫ぶ。

「国民を守れ!」


騎士たちはティシアから視線を外し、門の外へ駆け出した。

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