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不死身の王子 ~死を拒まれた少年の旅路~  作者: ミミ
第二章『神聖国家アルカディア』
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24.穏やかな食卓

「……ここですか。」

ヴァレンは崩れ落ちた洞窟を見上げた。


「はい。ここでゴブリンキングと戦いました。」

アストは額の汗を拭う。


「なるほど。」


ヴァレンは崩落した入口へ視線を向けた。

後ろから騎士がひし形の水晶を持ってきた。

「では、洞窟の中にある魔力を探知しますね。」


「はい。いくらでも調査してください。」


「そういえばアストさん、聞きそびれていました。」

ヴァレンは洞窟の奥を見ながら尋ねる。


「ゴブリンキングの魔石はどこに?」


その言葉に、アストの表情が一瞬だけ固まった。


「……魔石、ですか。」


「はい。」


ヴァレンは振り返る。

「ゴブリンキングほどの魔物なら、通常の魔物とは比べ物にならない魔石を残すはずです。」


後ろにいた騎士が水晶を確認しながら続ける。

「魔力反応も調べますが、討伐者が魔石を所持しているなら、それが一番確実です。」


アストは拳を握る。

「……すみません。戦闘後、洞窟の崩落が起きました。その混乱で回収できませんでした。」


ヴァレンはしばらくアストを見る。

「……そうですか。」


短い返事。

しかし、その目は何かを探っていた。


────────


ティシアは少女に連れられ食卓へと座る。


「そこで待っててくださいです。今から料理するので。」

「僕も手伝います。何もせずいただくなんて申し訳ないですから。」


ティシアと少女はキッチンへ行き準備を始める。

「そういえば……店主さん?」

「ノアで良いですよ。お客さんの名前も聞いていいですか?」


「僕はティシア……ティシア・ベルです。」


「ベル……ですか?」


ノアは少し首を傾げる。

「聞いたことのない家名ですね。東の方の貴族様ですか?」


「えっと……そうですね。小さな家なので、知られていないと思います。」


「なるほどです。」


「貴族様がこんな店まで来るなんて、何か事情が――」

そこまで言って、ノアは慌てて口を閉じる。


「あっ……すみませんです。お客さんの事情を勝手に聞くのは失礼でした。」


「いいんですよ。」

ティシアは笑う。


「怪しまれるのは当然ですから。」

そう言いながら、ふとノアの手元を見る。


料理の準備をする彼女の手には、白い手袋がつけられていた。


「……手袋してるんですね。」


その瞬間。ノアの動きが一瞬止まる。

「あ……。」


すぐにいつもの笑顔を浮かべた。

「えっと〜……これは〜。」


少し考えるように目を泳がせる。

「えっと〜これは〜そう!やけど、やけどしたので隠してるんです!」


ティシアはノアの手を見る。


(……?)


少しだけ違和感があった。

しかし、ノアが隠したいことなら無理に聞くべきではないと判断し何も聞かなかった。


「そうなんですね。」


「はいです!」


ノアは安心したように笑った。


その後、二人は料理の準備を終え、向かい合って食卓を囲む。

出来上がった料理から、ほのかな湯気と温かな香りが漂ってくる。


「おいしいです!」


ノアは一口食べると、ティシアの料理の腕前に驚いたように目を輝かせた。

「貴族の人って、料理なんてしないイメージだったので驚きです!」


「……一人で旅をしているからね。」

ティシアは少し苦笑する。


「料理する機会はたくさんあったよ。」

「それに、ノアさんの料理もすごく美味しい。よく料理するの?」


ノアは嬉しそうに頷く。


「はい、昔はお母さんの手伝いを毎日してたので」

ノアは続ける


「元々、このお店はお母さんのお店だったです。」


ノアは店の方を見る。


「お母さんが亡くなって……それに、隣に大きな魔材商会ができてから、お客さんも少なくなりました。」

少し寂しそうに笑う。


「でも、今はアルカ商会のおかげで……名前は変わりましたけど、何とか続けられているです。」

ノアは笑顔を浮かべていた。


しかし、その笑顔の奥にある寂しさは、ティシアにも伝わった。


食卓に少しだけ静かな空気が流れる。


「……大変だったね。」

ティシアが静かに言う。


ノアは少し驚いたように顔を上げた。

「ありがとうございますです。」


短い返事の後、ティシアは少し間を置いて口を開く。

「実は……僕も母を亡くしてるんだ。」


ノアの表情が変わる。


「僕が十歳の時にね。」


ティシアは遠くを見るような目をした。

「誰にでも分け隔てなく接する、優しい人だった。」


「身分や立場なんて関係なく、困っている人がいたら必ず手を差し伸べるような人だった。」


「僕はそんなお母様の優しさを尊敬していた。」


ティシアがそう言うと、ノアは食べる手を止めた。

そして、少しだけ微笑む。


「私も、お母さんを尊敬してました。私のお母さん、結構抜けているところがあって……。」


ノアは少し笑う。

「魔材の買取をするときも、間違えて多めに硬貨を渡しちゃうんです。」

「商人なのに、そこはしっかりしてないんですよ。」


「でも……。」


ノアの表情が少し柔らかくなる。

「私がやりたいことを話した時は、いつも応援してくれました。」


「お父さんが亡くなってからも、自分のことより、私のことを優先してくれて。」


「自分の食事が少なくなっても、私には『いっぱい食べなさい』って笑ってくれたんです。」


ノアは懐かしむように微笑んだ。

その表情を見て、ティシアも自然と笑みを浮かべる。


それから食事が終わった後も、二人の会話はしばらく続いた。


旅の話。


故郷の話。


昔の思い出。


互いに話せないことを抱えながらも、少しずつ言葉を交わしていく。

気づけば、ティシアは久しぶりに穏やかな時間を過ごしていた。


────────


「……話しすぎちゃったですね。」

ノアは少し照れたように笑う。


「今日はありがとうございましたです。ティシアさん。」


「こちらこそ。」


ティシアは立ち上がりながら微笑む。

「ノアさんのこと、少し知れてよかったよ。また来るね。」


ノアは少し驚いたように目を開いた。

そして、嬉しそうに笑う。


「はいです。いつでも待ってるです。」

ティシアは店を出る。


(今日はあまり情報を得られなかったな……。次に来た時、ノアさんに聞いてみるか。)


そう考えながら歩いていた、その時。


突然、腕を掴まれた。


「――っ!」


次の瞬間、ティシアの身体は裏路地へ引き込まれる。


「おい。」


低い声が響く。

そこには、一人の騎士が立っていた。


「……あの店には近づくな。」


ティシアは警戒しながら距離を取る。


「どうしてですか?」


騎士は魔素材商会アルカの方を見る。


「あの店は……普通じゃない。関われば、ろくな目に遭わないぞ。」


ティシアは黙り込む。


(ノアさんのことを言っているのか?)


確かに、彼女には謎が多い。

突然雰囲気が変わったこと。フードを被った人物が店にいたこと。


手袋で隠しているもの。


(……でも。)


ティシアは先ほどの食卓を思い出す。

母親の話をしてくれた時の表情。料理を作りながら笑っていた姿。


(あの人が、悪い人には見えなかった。)


「ご忠告ありがとうございます。」


ティシアは頭を下げる。

「気を付けます。」


それだけ言うと、騎士の横を通り過ぎようとする。


しかし――。


「あそこの娘は、過激派と繋がっているんだぞ。」


その言葉に、ティシアの足が止まる。


「ノアさんが?」


騎士は険しい表情で頷く。

「ああ。あの店は危険だ。あんな店に近づいて、巻き込まれたくはないだろう?」


ティシアは振り返る。


「じゃあ……。」


少し低い声で言う。

「どうして、さっさと捕まえないんですか?」


騎士が黙る。


「あなたは騎士でしょう。」


ティシアは騎士を真っ直ぐ見る。

「本当に罪を犯しているなら、証拠を集めて正式に裁くべきじゃないですか。」


「それをしないで、ただ近づくなと言う。」


ティシアは少し目を細める。

「それは……あなたが本当は騎士じゃないからなのか。」


「それとも、ただノアさんの店に人を近づけたくないだけなのか。」

騎士はわずかに後ずさった。


「あなたは……ノアさんの何を知って――」


その瞬間。


ティシアの視界が、大きく揺れた。


(……え?)


視界が大きく傾いた。地面が迫ってくる。


ドサッ。


(……何が?)


少し離れた場所に、自分の身体が立っている。


首元から血が噴き出している。


(……斬られた?)


そう理解した瞬間、ようやく痛みが追いついてきた。


音すら感じなかった。


「余計なことを知る必要はない。」

背後から声が響く。そこにいたのは、店にいたフードの男だった。

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