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不死身の王子 ~死を拒まれた少年の旅路~  作者: ミミ
第二章『神聖国家アルカディア』
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23.魔素材商会アルカ

ベルン村近くの、かつてゴブリンが住み着いていた森。


薄暗い森の中を、一団の騎士たちが進んでいた。

先頭を歩くのは、王国騎士団長――ヴァレン・クロディウス。


その後ろには、数十名の騎士たちが続いている。

ヴァレンは足を止めると、隣を歩くアストへ視線を向けた。


眼鏡の奥の瞳には、相手を値踏みするような冷たさが宿っている。

「アストさん。いったいいつになれば着くのですか。我々にも時間というものがあることをご存じでしょう?」


「いやぁ、すいませんね。あの時のこと、あまり覚えていなくて」


アストは軽く笑いながら答える。

そして突然、わざとらしく膝をついた。


「……少し休憩しませんか? 片腕を失ったばかりで、まだ万全ではないもので」


後方の騎士たちがざわめく。


「団長、このままでは次の予定に間に合いません」


「本当にこの男を信用してよろしいのですか?」


そんな声が聞こえる中、ヴァレンだけは表情を変えなかった。

ただ、口元に薄い笑みを浮かべる。


「……面白い方ですね、アストさん」


ヴァレンは眼鏡を押し上げる。

そして、近くにいた騎士の一人へ顔を近づけ、小声で告げた。


「この男が単独でゴブリンキングを討ったとは、私には到底思えません」


騎士は静かに耳を傾ける。

「ゴブリンキングは、ただの魔物ではない。相当な実力者でなければ勝てる相手ではありません」


ヴァレンはアストの背中を見つめる。

「……少なくとも、彼には協力者がいるはずです」


「では、どうされますか?」


「貴方は何人かの騎士を連れて村へ戻りなさい」


ヴァレンの声は穏やかだった。


しかし、その瞳には疑念が宿っている。

「ベルン村で何が起きたのか。彼が何を隠しているのか……調査してください」


「承知しました」


騎士が去っていく。


ヴァレンは再びアストへ視線を戻した。


「私は彼を泳がせます」


小さく呟く。


「魚は自由に泳がせた方が、より大きな獲物を連れてくるものですからね」


──────


門の休憩室を出たティシアは、空を見上げる。太陽はすでに傾き始めていた。


「……夕方か。」


腹の奥から小さな音が鳴る。

(正午から夕方まで……大体五時間くらい気を失ってたのか。)


(まずは、ご飯……。)


そう思ったが、すぐに首を振る。

(いや、その前に魔素材商会アルカへ行こう。ホーンラビットの角も売らないと。)


ティシアは商会へ向かう。

やがて、見慣れた看板が見えてきた。


『魔素材商会アルカ』


扉へ手を伸ばした、その時だった。


「……」


中から声が聞こえる。

聞き覚えのある少女の声。


そして、もう一人。


男の声。


ティシアは思わず動きを止める。


「────としての役割を……あなたは、────の……」


「分かっています。もうすぐで────は……」


しかし、声は小さく、ところどころしか聞き取れない。


(……何を話してるんだ?)


ティシアは迷う。


盗み聞きするつもりはなかった。


ただ、いつものように店へ入ろうとしただけだ。

少しだけ間を置き、ティシアはゆっくりと扉を開いた。


「いらっしゃいませ。」


いつもの明るい声。


 しかし、今日の少女はどこか違って見えた。

いつもの笑顔なのに、どこか緊張している。


 そして店の奥には、もう一人。

フードを深く被った男が立っていた。フード越しでも分かるほどの大柄な体格。


ティシアは警戒する。


(この人……。)


男はティシアを見る。

しばらく沈黙した後、小さく呟いた。


「……あの時の男か。」


その言葉に、ティシアの身体がわずかに強張る。

しかし男は、それ以上何も言わなかった。


「……。」


ただ一言だけ残し、男は店を出ていった。


扉が閉まる。


「……。」


ティシアはしばらくその背中を見送っていた。


「今日はどうされましたか。」


少女が声をかける。


いつもの明るい声。


いつもの笑顔。


……のはずだった。


しかし、何かが違う。いつもなら、もっと無邪気に近づいてくる。

けれど今の少女には、商人としての落ち着きと、どこか人を導くような雰囲気があった。


「魔素材の買取でしょうか。それとも、何かお探しのものがございますか。」


その言葉遣いに、ティシアは戸惑う。


(……別人みたいだ。)


「ホーンラビットの角と皮、それから肉を売りたいです。12匹分あります。」


「かしこまりました。」


少女は丁寧に頭を下げる。


ティシアが袋を渡そうとした時、違和感に気づいた。


(……あれ?)


袋の中を確認する。


そこには、確かにホーンラビットの素材が入っていた。


しかし――


(6匹分しかない。)


疑問に思っていると、奥から小さな紙が落ちてきた。拾い上げる。


そこには見覚えのある文字が書かれていた。


『これは俺の残業代だ(^^)/』


「……。」


ティシアはしばらく紙を見つめる。


(門番さん……。)


ティシアが紙を見つめていると、


「あの……?」


困惑した声が聞こえた。

顔を上げると、少女が不思議そうにこちらを見ている。


「あっ……すみません。」


ティシアは慌てて袋を差し出す。


「やっぱり、6匹分でお願いします。」


「かしこまりました。少々お待ちください。」


少女は丁寧に頭を下げ、店の奥へ向かう。

ティシアは待っている間、店内の商品を眺める。


そこで、一つの商品に目が止まった。

「……これ。」


棚に置かれていたのは、一見普通の革袋。

しかし、説明書きにはこう書かれていた。


『収納袋――内部空間拡張済み』


(収納バッグだ……!見た目以上に物が入るやつ!)


ティシアは思わず手に取る。


(大きなカバン、欲しかったんだよな。)


しかし、値札を見た瞬間。


「……。」


銀貨30枚。


(高い……。聖人の儀までに稼げる金額じゃない。)


ティシアはそっと商品を戻した。

(今は我慢するしかないか。)


店の奥から少女が戻ってくる。


「お待たせいたしました。こちら、銀貨一枚のお返しとなります。」


丁寧に銀貨を差し出す。

「またのご来店をお待ちしております。」


「ありがとうございます。」


ティシアは銀貨を受け取る。


(……やっぱり、違う。)


いつもの明るい少女のはずなのに。

言葉遣いも、表情も、どこか遠い。


そう感じた瞬間――


────グゥゥゥゥ。


静かな店内に、大きなお腹の音が響いた。

「……。」


ティシアの顔が一気に熱くなる。

「あ、えっと……これは……。」


「昼食を食べ損ねていただけで、その……。」


言い訳を探していると、


「──プッ。」


少女が吹き出した。


「す、すみません。でも……。」


少女は口元を押さえながら笑う。

その瞬間、少女の雰囲気が変わる。


先ほどまでの丁寧な口調ではなく、いつもの明るい少女に戻っていた。


「じゃあ、私の家で食べていって下さい!もちろん、お代はいりません!」


「え? でも……。」


ティシアは戸惑う。

「迷惑になるでしょうし。」


少女は首を横に振った。

「いいんですよ。」


「食事は、人が多い方がおいしいですから。」

先ほどまで感じていた違和感は、いつの間にか消えていた。目の前にいるのは、いつもの明るい少女だった。


ティシアは少し戸惑いながらも、少女に連れられて店の奥へ向かう。

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