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不死身の王子 ~死を拒まれた少年の旅路~  作者: ミミ
第二章『神聖国家アルカディア』
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20.神聖国家アルカディア

三日間、特に大きな問題もなく旅を続けていた。


ティシアの視界には、巨大な城壁に囲まれた都市が広がっていた。

城壁の門には、アルジャの紋章がある

その中心には、太陽の光を受けて金色に輝く一本の塔がそびえ立っている。


「あれが……アルカディアの名所、アギアの塔か。」


遠くからでも分かるほどの存在感。


「聞いていたよりも、ずっと大きいな……。」


ティシアは思わず息を漏らした。

城壁の入り口には、多くの人々が行き交っていた。


商人が荷車を押していく。


その横を、上質な服を着た貴族が通り過ぎた。二人の後ろには護衛が三人。


一人が周囲を見回すたび、視線が鋭く動く。


(……強い。)


ティシアは無意識に足を緩めた。


ウラノス王国で何人もの騎士を見てきたからこそ分かる。

あの護衛たちは、ただの兵士ではない。


ティシアも列の最後尾へ並ぶ。石畳を踏む感触がティシアにとっては懐かしかった。


懐から聖印を取り出し、じっと見つめる。


(そういえば……これでどうやって身分を証明するんだろう。)


ただの首飾りには見えない。


リナが大切に持っていたもの。


それほど重要なものなら、何か特別な仕組みがあるはずだ。


ティシアは前方を見る。


すると、入門を待つ人々が次々と何かをしていた。門番の前に置かれた水晶へ、聖印をかざしている。


すると――。


水晶が青く光った。


(聖印に込められた何かを読み取っているのか……?)


ティシアは水晶を見つめる。


(確か、ウラノス王国でも似たような魔道具を使っていたな。)


ティシアの番になる。懐から聖印を取り出し、水晶へ当てる。


すると――。


水晶が青く光った。周囲と同じように認証が終わると思った、その瞬間。


「待て。」


門番の声が響く。


ティシアは顔を上げた。


「何か問題がありましたか?」


門番は水晶を見つめたまま、眉をひそめている。


「……お前、その聖印はどこで手に入れた。」


「どういうことですか? これは私の聖印です。」


門番は水晶に映し出された情報を見る。


「この聖印の登録者は……リナ。」


ティシアの表情が変わる。


「10年前、アルカディアで修道女をしていた人物だ。」


門番はティシアの姿を見る。


「しかし、お前は年齢も性別も違うように見える。」


ティシアの顔が引きつる。


(え……?)


(アストさん、これ知らなかったの……!?)


冷や汗が背中を伝う。

何か言わなければ。

何か自然な説明を――。


「私の名前は……リナです。」


口に出した瞬間、自分でも無理があると分かった。


「南の寒冷地帯へ足を運んだ際に、その……性転換の呪いを受けてしまって……。」


「……。」


門番の表情が変わらない。


ティシアの額から汗が流れる。


(何を言ってるんだ僕は……!)


門番は小さな水晶を取り出した。


「……もう追い出してもいいんだが、一応確認しよう。これは審判晶って呼ぶ。」

「この中には精霊が入っている。」


「精霊は、人の言葉にある偽りを感じ取ることができる。真実なら青、嘘なら赤だ。」


ティシアの顔が青ざめる。


(終わった……。僕、さっきから嘘しか言ってない……。)


必死に言葉を整理する。

(これは真実……これは、本当のこと……。)

ティシアが恐る恐る水晶に手を添える。


すると――。


水晶が青く光った。


「……は?」

門番の口から、思わず声が漏れる。


「ちょっと待て。もう一回だ。」

門番は水晶を隅々まで見る。

「赤く光るはずなんだよ。」


ティシアは言われるまま、もう一度手をかざす。

しかし――。


水晶は再び青く輝いた。


門番は水晶を持ち上げ、裏側を確認する。

「……故障か?」

「いや、精霊の反応自体は正常なんだが……。」


門番は困ったように首を傾げる。

「エルフの技術は、こういう時よく分からないんだよな。」

門番はしばらく水晶を見つめる。


「……。」


何度確認しても、結果は変わらない。やがて門番はため息をついた。


「んー……まあいい。

 精霊が通している以上、俺にはこれ以上判断できん。」

門番はティシアを見る。


「ただ、その呪いは早めに教会で見てもらえ。」

「姿が変わるほどの呪いなら、放置していいものじゃない。」


ティシアは苦笑いを浮かべる。

「……はい。」


(まさか、本当に信じられるとは……。)


門番はティシアの服を見ながら続ける。

「あと、その服も変えろ。」


「修道士なら、修道服でも着ろ。ここを出る時に、また別の門番に止められたくはないだろ。」


ティシアは門番に頭を下げた。


「ありがとうございます。」


そして、街の中へ歩き出す。まず必要なのは、旅を続けるための資金だった。

ティシアは懐を確認する。


(ゴブリンキングの魔石は……まだ持っておこう。)


アストさんが僕に託してくれたものだ。簡単に売るものじゃない。

代わりに取り出したのは、いくつかの小さな魔石とゴブリンの素材だった。

ゴブリンの討伐で得たもの。


これなら売っても問題ない。


しばらく歩くと、二つの店が目に入った。


『魔素材商会アルカ』


『魔材商会』


どちらも魔石や魔物の素材を買い取る店らしい。


(魔材商会は聞いたことがある。ウラノス王国にもあった商会だ。)

(もし系列店なら、僕の情報が伝わる可能性がある。)

ティシアは少し考える。


そして、『魔素材商会アルカ』の扉へ手を伸ばした。


「ここなら……。」


扉を開く。


「いらっしゃいませーー!」


明るい声が店内に響いた。


そこにいたのは、長い白髪を揺らす少女の姿だった。

年齢はティシアより少し下に見える。少女は笑顔のまま、ティシアへ近づいてきた。


「お客さんなんて久しぶりです! よく来てくれました!」


あまりにも勢いのある声に、ティシアは一瞬固まる。

(……近い。)


王都では、相手の顔色や立場を読むことばかり求められていた。

しかし、目の前の少女にはそんな計算が一切ないように見えた。


「さあさあ、魔石の買取ですね! 見せてくださいです!」


少し変わった語尾をつけながら、少女は両手を差し出す。

ティシアは懐からゴブリンの魔石を十個取り出し、机の上に並べた。少女は目を輝かせる。


「おおっ! ゴブリンの魔石が十個も!」


しかし、次の瞬間、少女は不思議そうに首をかしげた。

「……これだけですか?」


「……? はい。それだけですが、何か?」


「その服、かなり仕立てが良いので。てっきり貴族の方かと思いまして。」


少女は照れ笑いを浮かべる。

「もっとたくさん持ち込まれるのかと思っただけです!少々お待ちくださいです。」


少女は早歩きで店の奥へと消えていった。


暇になったティシアは、店内を見て回る。

店の中は隅々まで掃除が行き届いており、棚に並ぶ素材も丁寧に整理されていた。


(……きれいな店だ。)


ティシアがゆっくりと息を吸う。


ふわりと、石鹸のような清潔な香りが鼻をくすぐった。

(隣に有名な商会がなければ、もっと客が来てもおかしくないのに。)


「お待たせしましたー!」


少女が笑顔で戻ってくる。


「ゴブリンの魔石十個ですね。こちら、銀貨二枚です!」


そう言って、少女は銀貨を二枚差し出した。ティシアはそれを受け取る。


(……これくらいが相場なのかな。)

王宮にいた頃は、お金の価値を気にすることなどなかった。

「ありがとうございます。また来てもいいですか?」


少女は一瞬きょとんとした表情を浮かべる。

だが、すぐに満面の笑みになった。

「もちろんです!いつでもお待ちしてるです!」

この世界の通貨について

・通貨種類 銅貨<銀貨<金貨<白金貨

銀貨=銅貨100枚

金貨=銀貨100枚

白金貨=金貨100枚(王侯貴族向け)


・生活費の目安

パン1個:銅貨2~3枚

一食:銅貨8~15枚

安宿1泊:銅貨30~50枚

普通の宿:銀貨1枚前後

剣(鉄製):銀貨10~20枚

修道服:銀貨2~5枚

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