表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死身の王子 ~死を拒まれた少年の旅路~  作者: ミミ
第一章 『孤独な王子の再生』
PR
19/24

18.アスト

「起きてーーー!!」


頬を小さな指でつつかれ、ティシアはゆっくりと目を開けた。


「……おはよう、グレンくん。」


目の前には満面の笑みを浮かべたグレンがいる。


「この起こされ方も、久しぶりだね。」

「おはよう、ティシア兄ちゃん! ご飯できてるよ!」


昨日の出来事が夢だったかのような、いつもの朝。


あの後、僕とグレンは疲れ果て、そのまま眠ってしまったらしい。

気がつけば、村のみんながアストさんの家まで運んでくれていた。


「おはよう、ティシア。」


食卓ではアストが温かな湯気の立つ鍋を運んできた。


「今日は鳥のスープだ。」


三人は食卓を囲み、穏やかな朝食を楽しむ。すると、グレンが身を乗り出した。


「ねえ、ティシア兄ちゃん! 本当にゴブリンキングを倒したの!?」


昨日までの怯えた表情はどこにもない、純粋な好奇心で目を輝かせている。


「そうだよ。」


ティシアは少し照れくさそうに笑った。


「最後は自分で火だるまになって、ゴブリンキングにしがみついたんだ。」


「えぇっ!?」


グレンは目を丸くする。


「それって、すごく痛かったんじゃない?」


ティシアは苦笑する。


「そうだね。もう二度と、あんな経験はしたくないよ。」


グレンは心配そうにティシアを見る。


「……体は大丈夫なの?」


ティシアは自分の手を握ったり開いたりする。


「うん。もう大丈夫。」


「傷も全部治ったよ。」


「……1日もあれば、僕の体は完全に戻るみたい。」


食事を終えると、アストが立ち上がった。


「ティシア、斧の直し方を教えてやる。あとで山の墓まで来い。」


その言葉を聞いた瞬間、ティシアははっとする。


(……そうだ。)


ゴブリンが村を襲う前、アストと交わした約束を思い出した。


「……忘れてたな。」


アストがぼそりと呟く。ティシアは思わず視線をそらした。


「い、いや、その……。」


「図星か。」


アストは呆れたようにため息をつく。


「命懸けの戦いの後だから仕方ねぇとは思うが、約束は忘れるな。」


ティシアは苦笑しながら頭をかく。


「……ごめんなさい。」


―――――――――


ティシアは山の墓へ向かい、アストから斧の直し方を教わっていた。

金槌の音だけが、静かな山に響く。


しばらくして、アストがぽつりと口を開いた。


「……お前が村を出ていく後ろ姿を見て、リナを思い出した。」


ティシアは手を止める。


「リナさんを……ですか。」


「ああ。」


アストは少し離れた場所にある墓へ目を向けた。


「あいつも、自分の命より他人を優先する奴だった。八年前、盗賊が村を襲った時も、みんなを逃がすために一人で残った。」


「俺が駆けつけた時には……もう遅かった。」


アストは小さく息を吐く。


「あの時、俺は何もできなかった。だから、お前が森の中へ飛び込んでいく姿を見た時……。」


「また同じ結末になるんじゃないかって、怖かった。」


ティシアは黙って話を聞いていた。

「……でも、お前は帰ってきた。」


アストは小さく笑う。


「正直、救われた気がしたんだ。改めて言う。ありがとう、ティシア。」


ティシアは首を横に振る。


「お礼を言うのは、僕の方です。」

「アストさんは、崩れかけた洞窟から僕を助けてくれました。」


「それに……。」


ティシアは少し照れくさそうに笑う。


「僕に帰る場所まで、用意してくれました。」


(僕にとって家族は、お母様だけだった。だけど今は――。)


(家族と呼べる人が、少しだけ増えた気がする。)


アストは何かを思い出したように懐へ手を入れた。


取り出したのは、淡い紫色の光を放つ拳ほどの大きさの魔石だった。


「ゴブリンキングの魔石だ。」


アストは魔石をティシアへ差し出す。


「この中には、魔物の動力源ともいえる魔力が詰まっている。」

「武器や防具の素材としても一級品だ。王国で使われているものより、いい武器が作れるだろう。」


「これは、お前のものだ。」


ティシアは両手で魔石を受け取った。


「……ありがとうございます。」


紫色の輝きを見つめながら、小さく息を吸う。

そして、決意を固めたようにアストを見つめた。


「実は僕、ウラノス王国の第二王子、ティシア・バシレウスなんです。」


「そうか。」


アストはあっさりとうなずいた。ティシアは目を丸くする。


「……え、それだけですか?」


「もう少し驚くところじゃないですか。」


アストは呆れたように鼻を鳴らすと、傍らに置いてあった包みをティシアへ放り投げた。


「うわっ!」


慌てて受け取ると、中にはベルン村へ来た時に着ていた服が入っていた。


「そこに刺繍されてるのは王家の紋章だ。」


「しかも名前は『ティシア』。」


「そのまんまじゃねぇか。」


ティシアは服とアストの顔を見比べ、苦笑する。


「僕、皆さんに川で見つけてもらう前――。」


ティシアは静かに語り始めた。


母ノミアのこと。


成人の儀の日、父と兄に裏切られ、王国を追放されたこと。


そして、神アルジャと対峙し、サーナトスと出会ったこと。


不死の呪いのこと。


話し続けるうちに、ティシアの声は次第に震え始める。


「僕は……お母様みたいな人になりたかった。」


「みんなを幸せにできる人に。」


「なのに、王国から追われて……。」


「自分で選んだはずなのに、この力が怖くなることもあって……。」


ティシアは唇を噛み締める。


堪えていた涙が、ぽろりと膝へ落ちた。


やがて一粒が二粒となり、止まらなくなる。


アストは何も口を挟まなかった。


ただ静かに、ティシアの話を最後まで聞き続けた。


「……よく、一人でここまで生きてきたな。」


アストが静かに口を開く。


「お前が望むなら、このままずっと村にいてもいい。」


「村のみんなで、お前を守る。」


ティシアは俯き、しばらく黙っていた。この村で過ごした日々が頭をよぎる。


アスト。


グレン。


そして、「おかえり」と迎えてくれた村人たち。


一瞬だけ、その言葉に甘えたいと思った。


しかし――。


ティシアはゆっくりと首を横に振った。

「……いえ。もう少ししたら、この村を出ます。」


「ここにいたい気持ちはあります。でも……これ以上、皆さんを巻き込みたくない。」


ティシアは手の中の紫色の魔石を見つめる。


「ゴブリンキングの件で、そのうちウラノス王国の騎士団も調査に来るはずです。」


「僕がここにいると、きっと皆さんまで巻き込んでしまう。」


「……それだけじゃないだろ。」


アストは、ティシアの目を真っ直ぐ見つめた。ティシアは一度目を閉じ、小さく息を吐く。


「……はい。」


「僕は、お母様のように、たくさんの人を幸せにできる人になりたいんです。」


「そのためにも、サーナトスの力を理解しなければならない。」


「サーナトスは、自分の力は世界中に散らばった破片に封じられていると言っていました。」


「まずは、その破片を見つけます。それが、今の僕にできることです。」


「なるほどな。」


アストは腕を組み、少し考え込む。


「力の破片ってやつは、どこにあるのか見当はついてるのか?」


「いえ。」

ティシアは首を横に振る。


「場所どころか、どんな形なのかも分かりません。」


「んー……。」


アストは顎に手を当てる。

「"破片"って呼ぶくらいだ。もともと何か一つだったもんが欠けたってことじゃねぇのか?」


その言葉に、ティシアはサーナトスと出会った時の姿を思い返す。

暗闇の中で見た、あの神の姿。


「……そういえば。」


「サーナトスには、片方の翼がありませんでした。」

少し間を置いて、もう一つ思い出す。


「それと……心臓も。」


「翼と心臓か……。」


そして、何かを思い出したように顔を上げた。


「翼なら、一つ心当たりがある。」


「本当ですか?」


ティシアの表情が変わる。


「それは、何ですか?」


アストは静かに答えた。


「場所は――ここから西にある神聖国家アルカディアだ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ