表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死身の王子 ~死を拒まれた少年の旅路~  作者: ミミ
第一章 『孤独な王子の再生』
PR
16/22

15.ゴブリンキング(3)

ゴブリンキングは、ゆっくりとティシアへ歩み寄る。


その足取りに、迷いはない。


ティシアは動けない。


ただ、自分より遥かに巨大な怪物が近づいてくるのを見ていた。


「こっちに来るな……!」


ティシアは左手を伸ばす。


近くに転がっていた小石を掴み、力の限り投げつけた。


石はゴブリンキングの身体に当たる。


――しかし。


カツン、と音を立てて地面へ落ちた。

ゴブリンキングは止まらない。


「……無駄ダ」


次の瞬間。


巨大な手が、ティシアの首を掴んだ。


「ぐっ……!」


身体が持ち上げられる。足が地面から離れた。


首を締めつける力が、少しずつ強くなっていく。


息ができない。


視界が、徐々に暗くなる。


(……力が……違いすぎる)


抵抗しようにも、右手は使えない。

左手だけでは、この腕を振りほどくことすらできない。


その時。


霞む視界の端に、何かが映った。


壁に掛けられた松明。


揺れる炎を見つめる。


(……火)


残された力で、ティシアは左手を伸ばした。

指先が松明に触れる。


掴んだ。


「……?」

ゴブリンキングが僅かに目を細める。


次の瞬間。


ティシアは、松明をゴブリンキングの腕へ押し当てた。


ジュッ――。


肉が焼ける音がした。


「ッ!」


ゴブリンキングの腕が跳ねる。

反射的に、ティシアの身体が投げ飛ばされた。


「ぐっ……!」


背中から地面に叩きつけられる。


ゴブリンキングは、自分の腕を見る。


そこには、僅かに炎が残っていた。


しかし――


「……」


ゴブリンキングは腕を振った。


炎は、あっという間に消える。

焼け跡すら、ほとんど残っていない。


「コノ程度ノ火……スグニ消セル」


ゴブリンキングは、何事もなかったかのようにティシアを見る。


「ソノ程度デ、ワレヲ倒セルナド思ッタカ」


ゴブリンキングは、倒れたティシアを見下ろす。


「貴様モ……弱キ者ダッタナ」


ゆっくりと、足を上げる。


狙いは――


ティシアの胸。


ドンッ――。


巨大な足が、ティシアの胸を踏み抜いた。


骨が砕ける。


肺から空気が押し出される。

ティシアの身体から、力が抜けた。


動かない。


呼吸もない。


ゴブリンキングは、しばらくティシアを見下ろしていた。


やがて興味を失ったように背を向ける。


「弱キ者ハ……死ヌ」


「ソレガ自然ダ」


ゴブリンキングは玉座へ戻ろうと歩き出した。


だが――


その時。


「……待て」


ゴブリンキングの足が止まった。


ありえない。


聞こえるはずのない声だった。ゆっくりと振り返る。


そこには――


本来なら死んでいるはずの人間が、立っていた。


「……」


ゴブリンキングの目が見開かれる。


「ナゼ……生キテイル」


今まで、理解できないことなどなかった。


強者は生き残る。弱者は死ぬ。

それが世界の理だった。


だが――


目の前の人間は違う。


一度死んだはずなのに、傷ついた身体を引きずりながら、また立っている。

ゴブリンキングの目に、初めて恐怖が浮かぶ。


「アリエナイ……」


ゴブリンキングは、ティシアへ襲いかかった。

「死ネ!」


拳が振り下ろされる。

ティシアの身体が床へ叩きつけられた。


動かない。


だが――


やがて、ティシアの指が動く。


「……」


ゴブリンキングの表情が歪む。


再び拳を振り下ろす。


一度。


二度。


三度。


それでも、ティシアは立ち上がる。


「ナゼ……」


ゴブリンキングの声が震えた。


理解できない。


自分の力なら、人間など一撃で殺せる。


なのに。


目の前の人間だけは、死んでも終わらない。


ティシアの瞳が開く。


まただ。


また、生きている。

ゴブリンキングの拳が止まった。


「ナゼ……」


初めてだった。


自分の力が通じない相手を見るのは。


ティシアは、まだ不完全な身体を起こす。


ゴブリンキングが一歩下がった。


その一瞬。


ティシアは、初めて気づいた。


こいつは強い。


自分とは比べものにならない。


だが――


(こいつは……自分が死ぬことを知らない)


死を恐れている。

だからこそ、死なない相手を前にして怯えている。


ティシアは、自分の身体を見る。


傷だらけだった。


痛い。


怖い。


何度死んでも、その感覚だけは消えない。


それでも。


(俺は……死なない)


そして、壁に掛けられた松明へ手を伸ばした。


「……」


炎が揺れている。

先ほど、この火をゴブリンキングの腕へ押し当てた。


だが、傷をつけることすらできなかった。


(小さな火じゃ……意味がない)


ティシアは、松明を握り締める。

炎が、指先を焼く。


「……っ」


痛い。


それでも手を離さない。


(なら――)


ティシアは、炎を見つめる。

(火を……大きくすればいい)


その瞳に、決意が宿った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ