10.ゴブリン襲撃(1)
ティシアは迫ってきたゴブリンへ向かって斧を振るった。
「グギャッ!」
鈍い音と共に、斧がゴブリンの頭へ食い込む。
ゴブリンはその場に崩れ落ち、動かなくなった。
(数が多すぎる……。)
ティシアは周囲を見渡す。
(これほどの数が一斉に村を襲うなんて……。おそらく、群れを率いる存在がどこかに生まれたんだ。)
そう考えた瞬間だった。
「――っ!」
肩に鋭い痛みが走る。
見ると、一本の矢が深々と突き刺さっていた。
「矢……?」
そこには弓を構えたゴブリンが一匹、棍棒を持ったゴブリンが二匹いた。
普通のゴブリンとは違う。
まるでこちらの動きを理解しているように、不敵な笑みを浮かべている。
ティシアは肩に刺さった矢を掴む。
激痛が走る。
それでも歯を食いしばり、一気に引き抜いた。
すると傷口から黒い力が溢れ、ゆっくりと肉が繋がっていく。
「ギャ……?」
ゴブリンたちは動きを止めた。
目の前の光景を理解できていない。
その隙を、ティシアは逃さなかった。
(まずは遠距離から……!)
ティシアは斧を弓を持つゴブリンへ投げる。
斧はその腕に食い込み、弓を落とさせた。
「ギャッ!?」
ティシアはそのまま駆け出す。
近づいてきた棍棒を持つゴブリンの攻撃をかわし、落ちていた矢を拾う。
そして――
心臓へ突き刺した。
近くにいたゴブリンが、ティシアへ向かって棍棒を振り上げる。
「っ……!」
ティシアは咄嗟に振り返った。
しかし、避けるには遅い。
その瞬間、ティシアの手が動く。
弓を持つゴブリンの肩に刺さった斧を引き抜き、その勢いのまま振り抜いた。
斧はゴブリンの首元へ届く。
ゴブリンはその場に崩れ落ちた。
ティシアは一瞬、動きを止める。
(……これが、命を奪うということか。)
だが、立ち止まる暇はない。
守らなければならない人たちがいる。
ティシアは再び斧を握り直した。
その時――
「助けて――!」
切羽詰まった声が響く。
ティシアは考えるより先に走り出していた。
声の先には、先ほど野菜をくれた老婦人が倒れている。
その目の前には、鋭く尖った骨を握ったゴブリンがいた。
「おばあさん!!」
ゴブリンが骨を振り下ろす。
ティシアは迷わず、その間に身体を滑り込ませた。
次の瞬間――。
ズブッ。
鋭い痛みが背中を貫く。
骨がティシアの身体へ深く突き刺さった。
「っ……!」
あまりの痛みに息が詰まる。
それでもティシアは倒れなかった。
「このっ……!」
ティシアは残った力を振り絞り、ゴブリンの頭へ斧を叩き込む。
ゴブリンはその場に倒れた。
しかし――。
「っ……。」
ティシアは膝をつく。
背中から伝わる痛みは消えず、呼吸をするだけでも激痛が走る。
(深い傷だと……再生に時間がかかるのか……。)
ティシアは歯を食いしばる。
(傷が治るまで、戦えないわけじゃない。)
それでも、まだ村には戦っている人たちがいる。
ティシアは痛みに耐えながら立ち上がった。
「ティシア、大丈夫かい?」
老婦人が心配そうに駆け寄る。
「僕は大丈夫です。」
ティシアは痛みを隠すように、少し笑みを浮かべた。
「それより、早く避難所へ行ってください。」
「でも、あなた背中が……。」
「大丈夫です。僕はまだ戦えます。」
老婦人は不安そうな顔をしながらも頷く。
「ありがとう……。絶対に無事でいるんだよ。」
「はい。」
老婦人は避難所へ向かって急いで行った。
────────
その頃、村のはずれでは、
「怖いよ……。」
グレンと遊んでいた子どもたちは、小さな物置の陰に身を寄せ合っていた。
「大丈夫だって。」
一人の子が無理に笑顔を作る。
「ここ、ティシア兄ちゃん以外には誰にも教えてないんだから。」
「……みんな大丈夫かな。」
別の子どもが涙を浮かべながら呟く。
「きっとアストおじさんが何とかしてくれるよ。」
「そうだね! あの人ならクマだってゴブリンだって倒せるもんね!」
その時だった。
ガサッ。
草むらが揺れる。
「……え?」
子どもたちの笑顔が凍りつく。
物置の入口から、一匹のゴブリンが姿を現した。
ゴブリンは子どもたちを見つけると、歪んだ笑みを浮かべながら一歩、また一歩と近づいてくる。
「こっちに来るな!」
子どもたちは石や木切れを必死に投げつける。
しかし、ゴブリンは意にも介さず歩みを止めない。
「いやだ……。」
「まだ死にたくないよ……。」
ゴブリンが棍棒を振り上げる。
ゴッ!
石がゴブリンの後頭部に命中した。
「ギャッ!?」
ゴブリンが振り返る。
そこには震えながらも石を握るグレンが立っていた。
「こっちだ!」
声は震えていた。
それでもグレンはもう一つ石を投げる。
「みんな、早く逃げて!」




