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不死身の王子 ~死を拒まれた少年の旅路~  作者: ミミ
第一章 『孤独な王子の再生』
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9.ゴブリン

アストの横に座ったティシアは、少し離れた場所にある小さな墓に気づいた。

「あの墓は……?」


ティシアが尋ねると、アストは手を止めずに答えた。

「俺の妻リナのものだ。」


アストはティシアの斧を直しながら、静かに話し始める。

「まさか……ゴブリンに……。」

アストはゆっくりと首を横に振った。


「8年前だ。グレンが生まれたばかりの頃だった。盗賊に襲われたんだ。」

アストの手が一瞬止まる。


「そいつらは腕に蛇の印を刻んでいた。……ただ金を奪うだけじゃない。人を傷つけることを楽しむような奴らだった。」


「俺や、今ここにいる村のみんなは、この山に隠れてどうにか生き残った。」

「だが……。」

アストの手が止まる。


「リナは……守れなかった。」


「あいつは、俺たちを逃がすために……。」


アストは拳を強く握る。


「気づいた時には、もう……。」


「だから、俺は誓ったんだ。

「二度と同じ思いをする人間を出さない。この村を、命に代えても守るってな。」


「アストさん……。」


ティシアは何も言えなかった。

自分もまた、大切な人を失った痛みを知っていたからだ。

ノミアのことを思い出し、胸の奥が締め付けられる。


しばらく沈黙が続いた後、アストは直した斧をティシアへ差し出した。

「斧は糸がほつれていただけだった。これならもう使える。

 明日にでも直し方を教えてやる。」


ティシアは斧を受け取る。

「ありがとうござ――」

その瞬間。

「アストさん!!」


山の下から、切羽詰まった声が響いた。

声の方向を見ると、そこには息を切らしたグレンが立っていた。


「どうした!」

「ゴブリンが……30匹も! 村に!

いつもは3匹くらいなのに……!」


「何だと……。」


アストの表情が険しくなる。

「グレン、ティシアはここにいろ!

 俺は村の様子を見てくる。」


「待ってください。」

ティシアが立ち上がる。


「僕も行きます。」

「ティシア、お前は……。」


「これでも、幼い頃から騎士の訓練を受けてきました。

 剣の扱いや、身を守るための戦い方くらいは身につけています。」


「少なくとも、足手まといにはなりません。」

アストは少し考え込む。


「……分かった。」


「ティシア、お前は村に着いたらすぐ門の中へ入れ。

 俺は門の周りにいるゴブリンを食い止める。」


「ですが……。」


「門の中にゴブリンが入ってるかもしれない、お前に守ってほしい」


アストは真剣な目でティシアを見る。


「俺はもう、大切なものを失うのはごめんなんだ。」


「だから、無茶はするな。」


ティシアとアストは、急いで村へ向かって走り出した。


村へ近づくにつれて、嫌な光景が目に入る。


木の柵の前には、すでに大量のゴブリンが集まっていた。


「邪魔だ!!」

アストは勢いを落とさず、門前に群がるゴブリンへ突っ込む。


巨大な体から繰り出される一撃で、数匹のゴブリンがまとめて吹き飛んだ。


「門番! アストだ! 早く門を開けろ!!」

声を聞いた門番は、慌てて木の門を開ける。


「ティシア、先に入れ!」

「アストさん!?」

次の瞬間、アストはティシアの体を軽々と持ち上げ、村の中へ投げ込んだ。


「ぐっ……!」

ティシアは転がりながらも立ち上がる。


「アストさん!!」

「お前は村を守れ!」


その瞬間、重い音を立てて門が閉じる。

ティシアは門の向こうにいるアストを見る。


「……30匹?いや、それ以上いる。」

アストは森の方へ視線を向ける。

「森からまだ来てやがる……。

 ティシア、村のことは任せるぞ。」

そう言うと、アストは再びゴブリンの群れへ向き直った。


ティシアは周囲を警戒する。


その時だった。


「……っ!」


5メートルほどある木の柵の上に、何匹ものゴブリンがよじ登っているのが見えた。

本来なら簡単には越えられないはずの壁を、奴らは数で押し破ろうとしていた。

「村の中に……!」


ティシアは息を飲んだ。


ゴブリン。


知能は人間の子どもほどで、身体能力も少し高い程度。

単体であれば、訓練を受けた者なら脅威になる相手ではない。


しかし――。

ゴブリンは群れることで、その本当の恐ろしさを発揮する。


数で押し寄せ、周囲を囲み、弱い者から狙う。

一匹では敵ではなくても、数十匹集まれば村一つを滅ぼす脅威になる。


「子どもたちや村の人たちを……。」


ティシアの脳裏に、母ノミアの姿が浮かぶ。


『皆を幸せにできる人になるんだ。』


幼い頃に交わした約束。

それは今でも、ティシアの心に残り続けていた。


「……僕は。」


ティシアは斧を強く握り直す。


「この村を守る。」


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