56.即位
『わからない・・・』
『もう、私じゃ本当にわかんないんだよ・・・』
『仇は貴女なんでしょう?次世代の女王サマ・・・』
『皆、きっと解りきっていることなのに・・・』
『何で、どうして誰も何も言わないの・・・??』
『・・・どうして仇を討たないの?』
喜ばしいことではある。
我が子たちは揃いも揃って国を担うに足る
器量を持って生まれてくれた。
だが、お前たちは何ていうかもう本当に全員
優秀すぎて本当にごめんだけど凡庸な我では
決めかねるのよ・・・
悪いけど次代の王はお前たちで決めてくれないかな~
と国力を無駄に強力に疲弊させるこの不毛な
王位継承戦を黙認していたツケが回ってきたようだ。
その子供たちが軍を総動員する異様な気配に
王は何事か!?と尋ねてみてもはぐらかされていた
数日後――
長女と長男の連名でそれに同意する他の子供たちの
署名を沿えて末の娘の冊立を上申された王は目を
白黒させていた。
えぇっ!?そこいく???
予想外すぎる子供たちからの次代の王の人選に
狼狽を露わにしていた。
確かに末子は王から見ても可愛すぎる存在で
民にも熱狂的に慕われている。
だが、それでもやっぱり外腹の子とあって流石に
王位の正当性を疑われかねない。
だが、正当な王位継承権を持つ全員が正式に
上申してきたのであればそれは当代の王としても
無視できるものでは無かった。
「あらあら・・・?」
「ひっ・・・!?」
王は思わずビクッとその身体を跳ね上げた。
その肩越しから女王がその上申書を覗き込んでいた。
――不味い
自らの一時の不義によって授かった子ではあるが
それでも王にとってはかけがえのない大切な娘だった。
しかし妻にとっては我が子を差し置いてあの娘が
この国の王座に就くことなど許されるはずが―――
「あの子たち、やっぱり私たちの子だけあって・・・」
「見る目ありますわね」
・・・あれっ?
「ええ、確かにあの娘なら立派な王になれるはずです」
いきなり一つの書類を目にして狼狽えだした
旦那の姿が気になってその書類に目を通してみれば
何だ、そんなことか。
「私もあの娘のことは大好きですもの」
唐突に行われた王の正式な王位継承者の布告に
国中は歓喜に沸き立った。
その継承者は誰も予想どころか考えもしなかった
人物であるだけにその衝撃は歓迎を以て受け入れられた。
それはこの国に根付いたありとあらゆる派閥意識を
あっさりと越える人選と言えた。
2大派閥の旗手である【血の王女】と【覇王子】が
揃ってそれを自ら上申、つまりは新たな女王を
全力で支える覚悟を示したのだ。
そして滅びたはずのあのディーエル家が女王の
最側近として控える。
あの民のためだけに全身全霊を尽くしすぎていた
奇妙で珍妙な貴族がこの国の中枢を担うのだ。
歓迎されないはずがなかった。
熱烈に国中の民からあげられた歓声に応えるために
国を挙げたパレードが行われることとなった。
「おっし・・・」
「これならどこの誰にも舐められねぇだろ!!」
「お兄さま・・・」
「う、動けないです・・・」
覇王子から強引に着せられた立派な鎧のその重厚な
重量に次代の女王はただただ押しつぶされていた。
「まぁ、パレードなんてただ座ってればいいだけだし?」
「動く必要なんてないだろう?」
「本当にかっこいいよ・・・」
無責任に兄たちから続けられる言葉にちょっとこれは・・
という否定の言葉を放つ前にバァンとパレードの控室とも
いえる絢爛な部屋の扉が開け放たれた。
「や~~っぱりねっ!?」
「まぁ、あんた達ならやるとは思っていたわ」
「やっぱり救い難いアホね、あんたたち」
「姉さん・・・兄さんたちだってこの娘の
ことを思ってやったことだから・・・」
「あんたあっちの肩を持つの?」
いや、流石にそれは無いですけど・・・
と第2王子は苦笑しながら肩をすくめた。
「あん?」
「何か問題あんのか??」
「しかないわよっっ!!」
この国を治める王が身につけるその重圧に
押しつぶされて手を振ることすら敵わないなんて
一体、何の見世物をするつもりっ!?
「まったく・・・」
「私がちゃんと用意してあげたから」
眩いばかりの絢爛豪華なドレスが運び込まれた。
「「「「・・・??」」」」
「華美なだけで何の実用性もないそんな服に
何の意味があるんだ?」
「だからこそ、あるんでしょうがぁあッッ!!!」
もう、こいつらには説明することすら面倒だ。
口喧嘩を始めて、いがみあいながらも溢れてやまない
家族の絆しか見えないその姿に次代の王からは
思わず笑みが零れ落ちた。
ああ・・・私が求めて止まなかったものは
これだったんだ・・・
大好きな家族たちがいがみあう姿では無くて――
こうしてくだらない事で喧嘩して笑いあう姿・・・
思わず目頭が熱くなって思わずその顔を覆った。
その様に今度はオロオロと狼狽え始める家族の姿に
眩しい程の笑顔を王は向けた。
「あなた一人じゃ着られないでしょう・・・?」
心配する姉にとびっきりの笑顔を見せて
「やっぱり、もしそうなった時は
お姉さまが手伝ってくださいね?」
と言う妹の姿にやれやれと最愛の姉はため息を漏らしつつも
嬉しそうだった。
誰もいなくなった広い控室で次代の王はそのドレスを
身につけようと躍起になっていた。
「お姉さまのドレスを着てお兄さまの剣を携えれば・・・」
その姿を目にしたあの大好きな家族たちは本当に
喜んでくれることだろう。
――その時だった
誰もいないはずの控室で不意に漂った気配に、
そしてその気配の元を辿ってみれば、姿を隠すこともなく
こちらを見据えて呆然と立ちすくむ、
そのどうしようもない困惑にまるで不死者の様に顔を
青ざめさせた一人の少女の姿があった。




