54.勅命
『流石は王女様・・・素晴らしい見識をお持ちですね』
「そういう貴女こそ大したものよ・・・」
「私の理論に此処までついてこれた人なんて
これまで一人もいなかったわ」
コロシアムの観客席で2人の術師の魔法談義は
大いに盛り上がった。
神竜の知識を以て尚、感嘆するほどの理論を
展開する王女に思わず素直な言葉を溢した。
『王女様は、今まで一体どれ程の努力を積み
重ねられてこられたのでしょうか・・・?』
『本当に、本当に素晴らしい事だと思います』
「え・・・」
魔術の天才ともてはやされ続け、人知れず裏で
名前ですら真っ赤に染め上げてしまう程の
血の滲む努力を重ねて続けていた王女は初めて受けた
その称賛の言葉に少しだけ次の言葉を詰まらせた。
「でも、これはちょっと」
自信無くしちゃうわね・・・
ぐっと続く言葉を血の王女は飲み込んだ。
こんな子供に自身の誇る魔法において
劣勢に立たされている。
どうしても無意識に自分が手加減して
しまっていることは自身で解っている。
でもそれは仕方のないことだ。
王族である以上、この国に住まう民は、
おまけにそれが子供であるのだとしたら
私にとっては本来は全力を持って
保護するべき対象であって害意を与えるはず
のものでは無いからだ。
それにしても、これ
古代魔法よね・・・?
マグが血の王女の取り巻きごと
焼き尽くさんと広範囲に放った魔法を全て
障壁で受け止めながらその衝撃に顔を歪ませた。
「くっ・・!!」
その刹那、この王女様を仕留めなければ
埒が明かないと一気に剣で勝負を決めようと
距離をつめたマグの間に割り込む様に
剣閃が走り、その剣を弾き飛ばした。
そこには剣を構えながら柔和な笑みを浮かべる
眉目秀麗な男が立っていた。
「この子は僕が相手をするよ、姉さん」
「ちょっと、貴方・・!!」
姉の必死な言葉を弟は遮る様に言葉を続けた。
「少なくとも・・・」
「優しい姉さんよりは僕の方が勝ち目があると思う」
「僕は・・・」
第2王子はマグに目線を移した。
「僕は姉さんほど優しくないからね」
その笑みがスッと消えるとそのまま冷酷な殺気を
孕んだ剣をマグに向けた。
いけない!あの子だけじゃ・・・
弟を護ろうと前に出ようとした足が止まった。
『それでは、私たちは昨日の様に』
『互いに魔法の見識を深め合いませんか?』
いつの間にか、何故かこの場に相応しくない
申し訳なさそうな表情を浮かべたヴィーが
行く手を遮っていた。
「兄さん!兄さんっ!!」
「んあ?」
弟に揺り動かされて覇王子は意識を取り戻した。
ぼんやりとした意識のまま、それでも頭に残る
鋭い痛みに気が付くと
・・・ああ、負けちまったか
「兄さん、申し訳ありません」
「我らの方は全て失敗に・・・」
「あ~、気にすんな」
「俺もだ」
ふと目線を移せば、弟たちもその周りにある
兵士たちも只ならぬ気配を纏っている。
極度の緊張と恐怖に支配されていているのが解る。
ん?と不審に思い周囲を見渡せば、なるほど。
ここは、まるで見たこともない空間だ。
影に異空間に引きずり込まれたものたちは
その異質な空間の光景を前にただ陣形を
固くすることしかできなかった。
「ん、いいか」
いてて、と頭を撫でながら覇王子は立ち上がった。
「こーゆー時はビビったら死ぬだけだ」
「術師が何か感じ取ったようです」
覇王子と言う絶対的な精神的支柱を得たことで
幾分か落ち着きを取り戻した部隊から
報告が入った。
「おう、んじゃそこ行くぞ」
「え?」
「そ、そんな、いきなり・・・」
「ずっとここにいても、しゃーねぇだろ?」
この異常な事態をまるで意に返さぬ様に
いつも通りに振る舞う覇王子の姿を
誰もが心強く思った。
「なんだぁ?こりゃ・・・???」
悲鳴をあげながら、あるいは精神が壊れてしまった
のか異様な笑い声を上げながら自らの影に
切り刻まれて苦悶の言葉を放つ者たちの姿があった。
「こんな・・・」
「こんな、恐ろしい責め苦を・・・」
自分たちも受けるのだろうか?
その恐怖に顔を歪ませて、最後の言葉は
声にならなかったが部隊の誰ともなく
呟やかれた言葉に覇王子は答える様に言った。
「まぁ、確かに趣味が良いとは言えんわな」
まるで気にせず、まだまともそうな悲鳴を
上げ続けている一人の男にボリボリと
頭を掻きながら近づいた。
「おう、お前・・・俺が解るか?」
「だ、だから・・・」
「何度も言っているじゃないですか!」
「俺たちは頼まれただけなんです」
「この国の王族に・・・」
「あん?」
「こ、これが証拠なんです・・・!」
「何度も、何度も見せているじゃない
ですかぁっっ!!」
―――!?
男が必死に差し出したその書状を目にした瞬間に
覇王子の頭を掻く手が止まると眼を細めた。
それには確かに覚えがある。
その特殊な便箋と血の様な蝋に逆さまに捺された
その王印は間違いなくこの国の王家が秘中の
厳命を下す際だけに用いられるはずのものであった。




