52.模倣
――何もかもがめんどくせぇ
覇王子は難しく考えるのを止め、目の前で
癇に障る不敵な笑みを浮かべる不死者らしきその者の
首を刎ねようと繰り出した一閃は即座に大剣によって
阻まれた。
「今日は負けませんよ・・・」
実際のところその剣閃を受けたところで
祖父はピンピンとしているだろう。
だからって大事な祖父が傷つけられるのを
アイルが黙って見ていることは無かった。
「おう、お前か・・・」
すぐさま覇王子と聖女の間からは
鋭い剣戟が轟いた。
不死者――ならば
血の王女は直ぐに高速に詠唱を始め、
全てを焼き尽くすその超高熱の魔法を
放ったその瞬間にその魔法は異空間に
封じ込められた。
え・・・?
その原理は至高の魔術師であるはずの
私の知識や魔力を持ってしても解らなかった。
ただ自分とは全く違った異質な力を
この子が持っていることは理解できた。
「これは興味深いわね・・・」
もはや極めたと思っていた魔法に
私でもわからないことがまだあるんだ。
「王女様でも」
「じいちゃんを傷つけるなら許さないぞっ!!」
「ふふっ」
「悪い子ね・・・」
血の王女からは冷酷な微笑みが漏れた。
・・・・・・暇だな
周囲の剣戟や魔法の音など耳に入らない様に
モンショは押し黙り、ただふぅ~っと
深く息を吐き出していた。
孫や娘たちを守護するために出張ってきた
はずだったが、出番がなかなか回ってこない。
回ってくる気配ですら無い。
まぁ、それはそうであろうな・・・
血の王女の魔法はマグが全て打ち消しているし
覇王子の剣閃もアイルに阻まれて自身に
届かない。
2人の援護をするはずのその近衛たちも
今はその翼やしっぽ、鱗ですら隠す気のない
3人の竜の娘に簡単に阻まれている。
2人の孫だって額の宝石を隠蔽を解いて全力を
振るっているのだ。それはそうなるか・・・
ふむ、さすがは我が一族といったころか・・・
もうこうなったらとっくに決着のついている
のであろう館に戻って研究でも再開するか?
いやいや慢心は禁物だ。
館に戻ろうとしたその瞬間にでも
家族の誰かに毛ほどの傷でもつけられたら・・・
まあ、自身の傷など気にしない戦い方を選ぶ
アイルは既に血まみれにはなってはいるが
これはいつものことだ。
とは思うがそれにしたって随分と
手持無沙汰だ。
しかし・・・孫たちも娘たちも
随分と強くなったものだ。
だが、それでもその気になれば直ぐにでも
つきそうな決着もなかなかに訪れない。
そうしないのは――
『ああ』
『どうやらワシがやれることはあったようだな』
キィンッとモンショは術式を展開した。
―――ッッ!!!
その感覚に血の王女は一瞬相対するマグから
不死者に目を移した。
その展開された魔法には覚えがあった。
殺し合いながらも互いに殺すことをさせない
矛盾を孕んだその防御術式は、その魔法は
幾重にも複雑に術式を張ったコロシアムの
中だけで発動するはずのものだ。
そしてそれは自分だけにしか扱えないはずの
ものであった。
その戦いと同様にそれを護るその術式を含めて
この国が誇る一大たる見世物になるが、
それでもそれはコロシアムという幾重にも
術式の張られた一種の閉鎖された空間である
コロシアムでしか展開できないはずのそれを
この開けた場所で・・・?どうやって???
「すっげぇ、さすがじいちゃん!!」
「ありがとう」
「よっし」
「今度はこっちからいくぞ!!」
その竜眼はおろかその四肢に美しい鱗を躍らせ
頭部からは小さな角を生やす額に宝石をはめた
少女の剣は昨日のコロシアムとはまるで違い
その剣術の基本ごとまとめて切り裂くように
鋭く振るわれていた。
「まさか、バケモンだったとはな」
「失礼ですね!!」
「私はこの姿、すっごく気に入っているんですから」
化け物呼ばわりされてアイルはむっとなった。
「かつて神竜ヴィーヴルに認められた王女が
竜となって国を救った」
「誰だって一度は聞いたことのある
英雄譚でしょう?」
「マグみたいな男の子はともかく」
「同性の私はその加護の影響をすっごく
受けちゃうんですけど・・・」
「私の今の姿は、その英雄と一緒なんですよ!!」
「は、単なる与太話かと思っていたんだがな・・!!」
確かに大した力を持っているようだが
それでも自身には及ばない。
冷たくその殺気とともに覇王子は瞬間的に
地を蹴ってその間を詰めた。
少女の剣はその速度に反応出来ていなかったが・・・
迫りくるその剣に一瞬驚きの表情を浮かべたが
それでもそれを意にも返さぬ様に少女は微笑んだ。
「確かに昨日はあなたに負けました」
「でも・・・」
「昨日と違って今の私は独りなんかじゃありません!!」
覇王子のその神速すらをも越える速度で振るわれた
その剣をその背後から現れたヴィヴィが事も無げに
素手で受け止めた。
『ふぅ・・・』
『だから、それでも油断はするなと・・』
「油断なんてしてないもんっ!!」
『それでは、貴女はこの男には勝てないと?』
再びむっと口を尖らせるアイルの後ろで
術式が展開されたのが解った。
『これは・・・さすが、モンショ様』
『ああ、でもこれは好都合・・』
『そんな顔してないで貴女がどれほど
強くなったかを見せてください』
覇王子ごとその剣をいとも簡単に弾き飛ばして
距離を取るとスタスタと二人のもとから歩き出して
手近な岩に腰をおろした。
「ふんだ!!」
「ちゃんと見とき・・・」
あれ!?
そういえばヴィヴィは何でこの場に・・・
まさか私に油断すんなって言っておいて――
『違いますよ?』
『私達が請け負った向こうはイヴィ―だけで
十分すぎでした』
ヴィヴィは優雅に脚を組むと微笑んだ。
『それにこうなってあの子も手加減する必要すら
要らないのであれば』
『別に私が戻る必要もないでしょう』




