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51.守衛


『あら・・・』

『どうかなさいましたか?お客様・・・』


バンシー!?

と認識した瞬間に呪いの絶叫を浴びせられまいと

その息をスゥっと吸い込んだ女の前で咄嗟に

身をかがめる様にして誰もが耳を塞いで

その訪れるはずの魔法の衝撃に備えた。


そのあの世から泣き叫ぶ声はいつまでも訪れず

かけられた言葉を追うようにその姿を見てみれば

そんな思わず晒した無様な様をまるで

嘲笑うかのように愉しそうに微笑んでいる。


「くそっ・・・」


今この前線に魔法障壁を張れるような術師はいない。

元々、そっち方面が得意なものは脳筋な

覇王子の軍隊にはそもそもが数が少ない。


その数少ない術師も今は第4王子の護衛に

出向いている。


『そんな道端でその様に無様に這いつくばられては』

『あまりにも品位にかけております・・・』


冷ややかに言葉は続いた。


『そんな様では到底、我が主の御顔を拝することなど

 叶う訳がありませんわ・・・』

『お引き取りを』


その挑発にグッと腹から沸き立つものを感じたが

かといってどうすることもできない。

相手が不死者であれば単純な物理では

倒すことが出来ない


そう、単純な物理であれば――


『へぇ・・?』


前線に割り込む様に上がってきたその部隊を前に

興味深そうにランカは声を漏らした。

その白銀の甲冑、厳かな法衣――

聖騎士、修道士、僧侶・・・

 

そのいずれも不死者にその消滅を齎すことが

出来るかも知れない者たちだった。


『さすがに人は揃っておるようですが・・・』

『その力が私に通用するのかどうか

 試してみましょう』


次の瞬間に今度こそバンシーからは泣き叫ぶ声が

死の森に木霊した。




僕たち私たちの縄張りから出ていけッッ!!


そう言いたい様に激しく吠えたてる2匹の獣の姿に

第4王子の部隊は総崩れとなった。

まるで優秀な牧羊犬が羊の群れをそう追い込む様に

その羊の群れから、ただの一匹がそこから

外れる事すら許さず、驚異的な速度でまとめ上げて

追いつめていった。


たまらず撤退しながらも術師たちからは

幾つもの強力な魔法が放たれたが、

それらはエスとビーに掠ることも無かった。


確かに本来であれば俊敏すぎる獣型の魔物には

近接部隊がその動きを封じてから後衛から

魔法を放つのがセオリーだ。


それでも・・・


「気を付けろっ!!」

「こいつら普通じゃない・・・」


いくらフェンリル・ウルフとは言え、王国屈指の

術師の魔法の全てが当たらないなんてことは

本来はありえない。


それでも2匹の獣はいとも簡単に

その全てを外すとまるでゲームを楽しむ様に

事実、しっぽを振り回しながら部隊の全てを

一方向に追い立てていった。


モンショやその孫はおろか神龍たちと

一緒に過ごしてその狩りや散歩に大喜びで

付き合って遊んでいるうちに知らず知らず

いつの間にか、もはやその総称たる名から

ウルフが零れ落ちるほどの神獣たる力を

身につけ始めた2匹からすればこれは

ただのごっこ遊びだった。


何だってこの獲物たちは群れでこんな思い通りに

動いてくれるんだろう?

いつも主人様が投げてくれるボールみたい・・・??


もはや狩りとすら言えない様子で

主たちといつも遊んでいるかのように

尻尾をブンブンと振ってボールたちを追った。




『ふふっ・・・』

『本当に・・・』

『本当に、どうなされたのです?』

『お客様方・・・?』


ランカは必死に魔法障壁を張り巡らし

それでも訪れるであろう衝撃に備える様に

身を固くし、障壁があっても尚、

安心できない様に思わず身を思わず屈める

その者たちの姿を愉しそうに見つめながら

ランカは固く閉ざされていた門を開け放った。


『うら若き私はあなた方のあまりに野蛮な姿が

 恐ろしくて、ただ思わず悲鳴をあげてしまった

 だけですのに・・・』


その発したその悲鳴に魔法は込められていなかった。


『お客様方は余程、地べたがお好きなのですね』


このアマ・・・っ!?

思わずぶっ殺すと第3王子は青筋を立てたが

その行動の意図は量りかねた。

どうぞお入りくださいと言う意味であるはずが無い。


その数舜の静寂から間を置いて作戦の秘中の中の秘

であったこの館を抑える役目を受けた作戦の

ド本命であった第4王子が部隊と共に飛び出してきた。


「ひぃぃぃ・・・!!」

「バケモンだ・・・・」


口々に恐怖に悲鳴を上げながら恐慌状態で

飛び出てきた部隊は残らず味方と合流することで

僅かに安堵の表情が現れていても、それでも

底なしの恐怖の色をその目に宿していた。


グルル・・・


獰猛な、だけど何でか楽しそうな

うなり声を上げる2匹の獣が最後に

その門から姿を現した。


『ふふっ・・・』


バンシーがこれまでとはまるで違い

本当に楽しそうに微笑んだ。


『あなたたち、本当に良い子ですね・・・』


完璧に仕事をこなしたエスとビーのその頭を

優しく撫でて褒めるランカに2匹の獣は

大喜びで飛び掛かった。


『ちょっ・・・!?』


押し倒されたバンシーは驚愕の色を

露わにしていたが2匹の獣は

『もっと褒めて~』と言いたい様に

その困惑する顔を舐めて親愛の情を

表していた。

その姿に『も~う・・・』と仕方ないなと

その頭を下から撫でて応えていた。

その顔には不死者には似合わない

とびっきりの笑顔が浮かんでいた。




完全に舐められている。

確かにこちらは劣勢と言える。

だが、こうして王国最強の近接部隊と遠隔部隊が

完全に合流したのだ。

ここから一気に巻き返す・・・


『あ』


今のこの状況など、まるで興味が無いように

ランカは一瞬、その考えを読み取ったかの様に

べろべろと顔を舐められ続けている目線を

ボールに移した。


『では、あとはお任せしますね』

『土竜さん』


その言葉と共に部隊の誰もが急にその大地を失い、

まるで奈落へと落ちる様にズブズブと地中に

引きずりこまれた。


『任されたわ』


飄々と大地の上に姿を現したその竜族を前に

身構ることすら誰もが許されなかった。

ただ一瞬で顔だけを畑に実った玉菜の様に

豊かに大地に実らすそれらの部隊に

出来ることなどはあるはずも無かった。


『ほん・・・うぷっ・・・っと・・・』

『この地べた・・・こらっ!やめなさい・・・!!』

『も~、ぷぁっ・・・』

『埋まるくらいお好き・・ぷぅ・・・ですのね』


2匹の親愛の嵐に巻き込まれて決め台詞が

なかなか決まらないランカに変わって


『あんたらには地べたに埋まっているくらいが

 お似合いよ』


と土竜がその場を締めた。





バンシー本人曰く、ただ恐怖に泣き叫んだだけ

という声は遠く離れたモンショ達にも届いていた。


『さて・・・』


それが合図とばかりに散乱した臓物の中で

モンショは笑った。

それを吐き出すようにまき散らした引き裂かれた

腹がうねうねと蠢くとも瞬時にその臓物ごと

切り裂かれた腹を創りなおした。


『やるとするか』


不死者と解っても尚、その様には目を見開く。


『はは・・・』

『この身体には種と仕掛けしかないのだがな』


邪悪に微笑むその姿に背筋が凍った。









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