50.開戦
その圧倒的な武力で名を馳せる覇王子の軍隊、
その中でも先遣隊の役目ともいえる威力偵察とは
呼べない程に初手から徹底的に壊滅的な被害を
相対する者に与える、その武勇轟き各国に恐れられている
その部隊は第3王子が自ら率い、制圧の後に
その未知の兵站を掌握して瓦解させる役目を受けた
第5王子が付き従っていた。
別動隊として館に迫る彼らが、その閉ざされた
門に迫ると、その前で一人の館の使用人らしき
女の姿が目に入った。
誰もが恐怖すべきであるその部隊を前に
知ってか知らずか・・
いや、むしろ最初から眼中にすらない様に
凛とした態度で薄く微笑むと丁寧に頭を下げた。
『申し訳ありません』
『主はただ今、出払っております・・・』
『どうか、お引き取り下さい』
一応の警告はした。
それでも害意を表すのであれば、
こちらも容赦はしない。するべきじゃない。
そうあるべきだとその丁寧な所作の中で不本意に
深く頭を下げるランカのその表情が歪み始めた
事は誰にも伺い知れるものではなかった。
その薄く浮かべていた微笑みはとうに消え、
ただ狂猛さをその貌に浮かべていたことには
誰も気づけなかった。
こいつらがもしかしたら・・・
不死者の魔物が生者に向ける憎悪を込めた
邪悪な表情をランカはその顔に浮かべ始めた。
その正面の騒動すらをも囮にして諜報部隊が
すでに館内に潜入していた。
まずは我らでこの館を抑える。
今まで相対してきた相手の、その敵の
裏側ですら丸裸にして、全ての戦局を優位に
導いてきた血の王女の腹心である諜報部隊を
その仇敵であったはずの第4王子が率いた。
まさか、これほどとはな・・・
第4王子は内心毒づいた。
あんたの副官になさいと姉から紹介を受けた
その部隊のリーダーはまるで底が知れない。
ひょっとすると自分と肩を並べる・・・
いや、それ以上の実力者かもしれない。
展開するその完璧な隠蔽の魔法は自身が誇る
魔力を以てしても見破ることは出来なかっただろう。
ぶわっとその額には嫌な脂汗が滲んだ。
もしかすると、兄と姉の勝負は実は
既についていたのかも知れない。
自身の誇る魔力で警戒はしていたつもりでも
こちらの内情はとっくにこいつに――
「王子・・・っ!!」
その思考を遮るように副官からは掠れた声が響いた。
「どうやら感づかれた様です」
迫りくる恐ろしい気配を察知して
同じように脂汗を浮かべる
その副官の言葉に耳を疑った。
「はっ?」
派手にその数を集めた陽動隊や
別動隊が向かった館の正面はおろか、
血の王女と覇王子が揃っている本隊ですら
囮にして更にその魔力で身を隠した我らに
気づくものなど――
恐怖心すら浮かび始めたその副官の目線を追えば
グルルル・・・っと隠蔽の魔法など無いように
暗闇の奥からこちらを狂暴に喉を震わせて
見据える2匹の獣の姿があった。
こ、こいつら、いつの間に・・・!?
魔術による隠蔽などを遥かに越える、
野生に生きる狩猟者として培ったその生来の
隠密能力はその場にいる者たちに相対するまで
その存在を感じ取ることを許さなかった。
エスとビーからすれば本来であれば唸り声の
威嚇などする必要もなく、さっさと獲物の首筋を
引き裂いて狩ってしまえば良いだけなのだが、
なるべく 人間は仕留めない様にね、と
ご主人様たちに教えこまれていた。
正直言って面倒な話・・・なんだけど、
きっとうまくやれば、またご主人様が
美味しいおやつをくれるんだろうなっ♪
と2匹はよだれを垂らした。
自分たちを獲物と見定め、よだれを垂れ流す
獣の姿に第4王子とその部隊は戦慄した。
あ~~~・・・・
え~・・・っと・・・・??
何と声をかければ良いんだろう?
ガクガクと小刻みにその身を震わすマグにどう
声をかけて良いか解らず、モンショ達は
困惑した。アイルもアイルで困惑しながら
その受けた衝撃からその弟を守る様に
抱きしめていたものの、え?今更・・・?
という表情を浮かべて驚愕している。
奇妙な困惑が広がり始めても尚、未だに
一触即発の空気が漂うその場を引き裂くように
ヴィーの澄んだ気品のある声が響いた。
『ふむ・・・』
『気づいていらっしゃらなかったのは
本当に意外ですが・・・』
『あなたはモンショ様が不死者だとすると
ただ、たったそれだけでモンショ様を
嫌いになるのですか?』
はぁっ!?
「なる訳ないじゃんっっ!!」
その一瞬までまるで怯える様に震えていた
その身体の震えをピタリと止めて、その言葉に
即座にマグは怒気を露わにした。
『ふふ・・・』
『そうですよね』
主からどれほど凄まじい怒気を向けられても
ヴィーは動揺することも無く涼し気に笑っていた。
だってその言葉が出てくることは解っていた。
そしてそれでこそ神竜の一角たる自身が生涯の主と
認めたものだからだ。
『ならばモンショ様が不死者であったところで
何か問題が?』
「ないッッッ!!!」
今までの流れなどまるで無かった様にマグは
力強い瞳で相対する者たちを真っ直ぐに見据えた。
「貴様らには国家転覆の疑いがかかっている」
「大人しく投降し、門を開けろっ!」
第3王子のその怒声に『そうですか・・・』と
ゆっくりとその顔を上げたその女の姿に、
その貌に誰しもがゾッとした。
青白くまるで生気のない顔色でこちらに
赤黒く酷く血走った眼を向けるその存在が
何者であるかを瞬時に理解させた。
『それでは、仕方がありませんね・・・』
生者を羨んで妬んで、そして呪うその貌は
間違いなく不死者の魔物のそれであった。
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