49.不死者
『さすがは王国、我らが宿敵よ・・・』
『人はおるようだ』
手にしたコインを指先で弾き弄びながら
モンショは愉し気に呟いた。
次の日になって昼下がりといった頃にモンショが
館から数キロの範囲に張り巡らせた結界に
この森の中では異質となる侵入者の反応が現れた。
その反応の先を追ってみれば
想定より随分とまぁ数が多い。
広範囲に堅固に陣を広げる様は
一個大隊はいるだろう。
帝国と覇権を争っていた頃ならばいざ知らず
太平の世となって久しい、この時にも
どうやら順当に人材を集めていた――訳では無い。
その軍隊から感じ取られるのはただの塵芥、
雑兵どもの気配だ。
その寄せ集めがたった一日でここに辿り着けると
いうことは、それはつまり――
『転移か』
異空間を利用した転移はこちらの得手とも
言えるが、この魔法の根源はそうではない。
『400年もの間、何もしてこなかった
訳では無いのはお互い様のようだな』
400年前に王国に存在しなかった魔法を
目にしてモンショはその狂猛にも見える
笑みを深くした。
だが――
ここの位置がばれるのは想定内、
むしろそうあるべきだ。
コロシアムでの果し合いが終わり
負けはしても実に見事な戦いだっただの
何だのともてはやされてアイルは記念にと
戦いの合図となったコインを手渡された。
つまりマーキングされた品をこうして
わざわざ手元に置いてやっているのだ。
そのマーキング位置に直接兵を送り込めば
完璧な奇襲となるのにそうしないのは――
『それでも、ワシの結界を破ることは出来なんだか・・・』
これで向こうの術師の力のおおよその目途はついた。
だが、それすらこちらの眼を濁らすための策かもしれぬ。
だが・・・
『ちょっと、来たわよ!!』
『しかも思ってたよりすっごく多いわっ!!』
結界を張っている訳でもないだろうに
この距離でその存在を感じ取るのか・・・
大地の震動か何かで感知しているのか?
事実、魔力では勝っているはずのその娘たちや
その感知能力が代名詞ともいえる魔獣である
エスとビーにも何も感じ取れていない。
さすがは土竜と言うべきか・・・
ふむ、人が揃っているのもお互い様のようだ。
『慌てる必要などは無い』
ふぅ~っといつもそうするように
深く息を吐き出しながら言葉を続けた。
『やつらは動かん』
『大方、陽動であろうよ・・・』
むしろ堅固に陣を固めているのはこの魔境で
今、自身たちの身を守るため――
『だが、本命はこの機に乗じてもう動いておろう』
『ここに居を構えて初めての賓客だ』
『出迎えてやるとしよう・・・』
慎重に隠蔽の魔法で気配を消し去っていた
血の王女たちの前にディーエル・ファミリーの
一団が現れた。
その先頭を進むこの男の情報はない。
つまり、この者が・・・
まだそんな歳には到底見えないが正体不明の
存在である祖父・・・なのだろうか?
だが、それが圧倒的な何かであることだけは解る。
完全に姿を隠しても尚、その鋭い眼光で
こちらを真っ直ぐに捉えている。
「めんどくせぇ・・・」
「かったるい事は苦手なんでな」
その言葉と共に覇王子の神速の剣が
袈裟切りにモンショの腹を深く切り裂いた。
ぁあ、もうっっ!!
なんでこの子、いきなり開戦するのよ!!
こうなったらもう対話の余地はないじゃない・・・
けど、弟のその判断も決して間違いなんかじゃない。
この男は間違いなく厄介な存在だった。
ここから泥沼の争いが始まるのだとしても
初手でそれを屠れるならそれも悪くはない。
聖女と呼ばれたあの少女と違いその存在の傷が
瞬時に癒えることは無く、鮮血と共に
その臓物が無残にもその場にまき散らされた・・・が、
『舐めるでないわ、若造ごときがぁぁあっ!!』
それを意にも返さず、その男からは
血の泡を吹き出しながらの嘲笑が漏れた。
『貴様程度の力でこのワシに傷をつけられるとでも?』
手応え、ばっちし!!
いや傷どころか、完全に致命傷だっての。
そう突っ込みたかったが、これは・・・
「ディーエル家は私が命に代えても守ってみせる!!」
初めて祖父に出会った時、その姿は
本当に恐ろしいものだった。
見るからに明らかに不吉で死そのものを
その身に纏った様な不気味な存在である対峙する
相手から急に授けられてしまった本当に大事で
大切な弟を・・・愛おしい存在を守り抜くことが
あの時の自分に本当に出来るのか不安で怖くて、
どうしようもなくて、自らの想いを思わず
口にして自分を鼓舞したことを今でも覚えている。
今散乱してしまった、それを身に纏う
あの瞬間だけはギョッとしてしまったけれど
今なら解る。
肉体の一部であるはずのあの臓物ですら――
おじい様にとってはただの飾りなのだ。
「えぇぇぇええっ!?」
ガクガクと受けた衝撃にその身を震わす
マグは言葉を絞り出すように続けた。
「じ、じぃちゃん・・・」
「じいちゃん、アンデッドだったの!?」
姉の余裕な雰囲気に危機であるはずの
祖父の気配、その魔力を読み取って
その正体に気が付いたマグから言葉が漏れた。
その様に、その正体にすぐに思い当った血の王女と
覇王子のその目線と共に優しく肩に手を置く姉からも
その守護竜はおろか驚愕された当の本人からもマグに
視線が集中した。
お前・・・??
へっ?今の今まで気付いてなかったの・・・???




