48.テラス
『アイル、本当によくやってくれた』
聖女・・・だったか?
まぁ、そんな肩書はどうでもよい。
覇王子はおろか血の王女、さらには国中の重鎮にすら
強烈に存在を認識されたとすれば、とてつもない
予想外の収穫だ。
そしてその存在が魔物につながりがあるとすれば
王族どもは黙ってはいられまい。
『だが・・・』
『しばらくお前たちは王都へは行かせられぬな』
「はい」
「あの子には予定通り、力を使いすぎたから
しばらくは療養すると伝えてあります」
街中でやり合うのはお互い都合の良いものではない。
特に相手にとってはそうであろう。
ならば確実に打ってくるはずだ。
そうすべき御膳立てもしてあげたのだから。
「でも、いつまでここで待てばいいの?」
マグが缶詰め状態を嫌うように訊ねた。
確かにここには常人ならならば辿り着くことは
いつまで待ったところで出来はしまい。
軍隊でも動かすのであれば兵站を維持しながらの
行軍は下手をすればここにたどり着くまでに
数か月はかかり、そしてその行軍は多大な犠牲を
伴うだろう。
別に狙ってはいなかったが根を張ったここは
なかなかに大した魔境だった様だ。
それ故に赤子だったころから周囲を気にせず
ここでアイルとマグをのびのびと育てることが
できたのだが、まさかここにいることを退屈と
感じる様になってしまった事は・・・
本当に寂しいことなのだが。
だがそれは孫が外の世界を知り、人として
成長したことを表している。
そしてそれを寂しいと感じる事は自身の成長をも。
死んでいても長く存在するという
それだけで人は成長していくものらしい。
だが、まだまだマグには成長の余地があるようだ。
『あまり甘く見るな・・・』
『明日にでも現れるかも知れん』
相手を低く見積もりすぎている。
あの血の王女の事だ。
ここの場所はとっくに探知していることだろう。
そして軍師気質の者どもが傍らに控えていると
なればその議論の決着は見えている。
少数精鋭での突破だ。
「違うよ?じいちゃん・・・」
「そうじゃなくて」
「倒したらそれで終わり」
「そうじゃないんでしょ?」
その言葉にふぅ~っとモンショは大きく
息を吐き出した。
子供の成長と言うものは時に大きく予想を
越えるものらしい。
どうやら低く見積もっていたのはワシの方か・・・
それから迎撃態勢の話をした。
まぁ、刃を交えずに済むのであれば
それが最上だが人の魔物への本能的な恐怖を考えれば
恐らくそれは難しかろうな。
間違いなく訪れるのはこの国の精鋭部隊であろう。
それもこの国の覇権を争っていた血の王女と覇王子が
それぞれ率いていた部隊が同時にだ。
結果的に一度に相対する相手が増えてしまったが
面倒ごとをまとめたと言えば悪くはない。
『さすがに今回はワシも出よう』
『留守はお前たちに任せるぞ?』
ワシの存在は元々隠す気も無かったのだ。
アイルやマグからの話でもうとっくに
知っていることだろう。
ならば謎の存在として後ろに控えるのも
戦術としてはアリであろうが、
今回は堂々と前に出た方が良い。
その方が奴らの注意がこちらに向くだろう。
従魔契約を結んでいても尚、傍に在れば
孫たちの想定外の危険を回避しやすい。
幼いころから鍛え上げたアイルとマグの
この国では異質となるその力を破ることは
並大抵のことではできまい。
そして神龍たるヴィーヴルが3人もいる。
・・・いや、どう考えてもオーバースペック
が過ぎる気もするが、それでも相手を
過小評価する気などは無い。
『お任せください、旦那様』
ランカは丁寧に完璧な所作でカーテシーを捧げながら
強い決意をその目に宿した。
今度こそ私がこの家を守るんだ。
『任れたわ』
『竜属は契約なんてしなくても約束は
守るものよ』
『この子たちのことは頼んだわよ』
土竜にとってこの子たちは我が子以外にも
幼いころからその成長を見届けてきた
アイルとマグも当然のように含まれている。
『『わんわんっ』』
普段はただ愛くるしいだけでも戦うとなれば
頼りになる番犬たちも『任せて』と吠えた。
それから少しだけ戦術を議論を続けると
『よし・・・』
『それでは今は、冷めぬうちに食事を続けるとしよう』
館に入れない土竜とも一緒に食事をとるために
設けられた中庭のテラスの食卓からは
先ほどまでの真面目な空気から一転して
いつも通りの温かく賑やかな家族の笑い声が
響くようになっていた。




