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47.開戦前夜


『舐めるでないわ、若造ごときがぁぁあっ!!』


腹を大きく引き裂かれ、臓物をその場にまき散らして

即死していたとしてもおかしくない程の祖父の惨状に

瞬間、思わず駆け寄ろうとしたマグはその怒号に

ピタリと足が止まった。


『貴様程度の力ではこのワシには

 毛ほどの傷もつけられんっ!!』


いや、じいちゃん?

傷どころか中身出ちゃってるんだけど・・・?


え~っ!?と動揺し、立ちすくむマグの肩に

ポンっと優しくその姉の手が置かれた。


「大丈夫ですよ」

「おじい様はあの程度では倒れたりはしません」




「そう・・・」


共に昼食を取りながら次代の王となる

最愛の妹にその友のことをそれとなく

探ってみれば、聞いたこともなかった存在である

その姉は元はその家に仕えていただけで

実の姉ではないそうだ。

その祖父からまだ赤子だったマグと共に

養孫として引き取られ――


祖父?

あの子たちの父である先代の当主の

その父ははたして存命だっただろうか?


1人の正体を知ればその裏に

また1人知らない人物がいる様だ。


「それにしても・・・」

「ようやく身につけてくれたのね」


その最愛の存在の首元に光る輝きに血の王女は

眩しそうに目を細めた。




勝負がついて、その大歓声の中で

少女のその瞳を覗き見てみれば

悔しさにそれを潤ませているものの

魔物の眼では決して無かった。


さっきのは?


『アイル・・・』

『よく頑張りましたね』


近づいてきた女騎士の声に振り向くと

少女はその胸に顔を埋めて噛み殺すような

泣き声を上げた。


その振える身体を慰撫する様に女騎士は

優しく抱きしめた。


呆然とその様を目にする覇王子の後ろから

ゆっくりと近づいてきている気配があった。


あいつなら何かわかるんじゃねぇか!?


そう思った瞬間、振り返れば差し出された

その人差し指が覇王子の口元を塞いだ。


空いていたもう一つの手でしーっと

姉は自身の唇を指で塞いだ。


その表情は先ほどまで見せていた

懐かしい姉の顔などでは無く、

よく知る冷酷な血の王女のそれであった。


何もしゃべるな・・・か


つまりそれは――

こいつにもあれが見えたってことだ。


やはりあれは気のせいなどでは無かった。

それだけはわかる。


それでも


「そうね・・・」

「今夜は私たち姉弟だけで・・・」

「ふふ、そうね」

「久しぶりに一緒に夕食でもどうかしら?」


またその一瞬、姉の顔に戻る姿に


「ああ・・・悪くねぇな・・・」

「楽しみにしてるぜ」


覇王子は本当にそう思って答えた。




―――夜


「何であんた一人でくるのよっ!!」


「はぁ?」

「一緒にメシって言ってたじゃねーか!?」


「そうじゃなくて!!」

「仮にも昨日まで争ってた相手に・・・」

「ああ、もういいわっ!!」

「早くあの子たちを連れてきて頂戴っ!!!」


2人だけでの夕食かとも思ったがそこには第2王子がいた。

「それでこそ、兄さんだ」と大笑いしている。


「そういや・・・」


今のこの状況は結局はこいつの描いた

絵なのだろうか?

訊ねようとする覇王子のその言葉は

さっさと行きなさい!!という姉の言葉に

追い立てられた。


はぁ~

やっぱアイツとは気が合わんわ。




6人が顔を合わせるのはいつ以来だろう?

最初はぎこちなかった空気も、

いつの間にかそのテーブルからは気が合わない

はずの二人からも互いに自然と笑い声が零れた。


それは本当に久しぶりで誰もが大切に思えるこの時間を

ずっと楽しんでいたいがそうもいかない。


楽しい時間の終わりを告げる様に運ばれてきた

ドルチェを前に名残惜しそうにふぅっと短く

血の王女は息をついた。


「さてと・・・」


解ったことを弟たちに話し始めた。




「でも姉ちゃん、凄かったんだよ!!」


祖父に自らの敗北を嬉々として誇らしげに

伝えるマグの姿にアイルは照れくさそうに

苦笑いを浮かべた。


そのアイルが万が一にでも傷つくことは

許し難いモンショはずっとその影に

潜んでいたので実は全部知っている事だ。

それでも興味深そうにその話に聴き入っていた。


「よくやったな、アイル」


負けても褒めてくれる祖父の姿に少し寂しそうに

笑い返すととアイルは言葉を続けた。


「明日こそは負けません」





当然、特別な事情でもない限り

貴族のその当主が変わったのであれば

その先代は亡くなったと言うことだ。


そこに嫁いだものの父と言う事もない。


何故ならその相手は私自身が当人たちの意思を

無視して地盤固めに選んだ当主を失ってしまっていた

ある貴族家の・・・


だったはずなのに、それなのに仲睦まじい

その夫婦の姿に、誰が見ても互いに心から

愛し合っているその姿に安堵と―――

そして僅かな嫉妬を覚えた。


何故ならそれを―――

名ですら血に塗れた私がそんな姿を手にすることは

きっとないのだろうから。


「いやいやいや・・・」


「お前、割と意外なほどに皆に慕われてんだぞ?」

「見た目だってわるくねぇじゃねぇか!!」


「そうですよ!!」

「むしろ他国からは傾国の美女扱いされているんですよ!?」


「うちに有望株いるんで姉さんに紹介します」


「いや、まずは姉さんの好みを聞かないと・・・」


んんっっと大きく咳払いをした。

今、大事なのはそんな話じゃない。


ちょっと久々の家族の温かさに気が緩んで

ついちょっと要らないことを口走っちゃったようだ。


「それで、あのパーティーがギルドの

 結界にかかったことは知っているわよね」


「そんなことがあったのですか?」


ふぅ~っと大きく息を吐き出した。

あんたたちがそんなんだから私が安心できなくて

恋愛とかしてる場合じゃないんでしょうがっっ!!


「そのログを解析してみたの・・・」

「結界に引っかかったのは話通りの

 フェンリル・ウルフなんかじゃない」

「竜属よ」

「そしてその相手の気配が今どこにいると思う?」

「あの【死の森】の奥深く・・・」

「流石に頭のまわらないあなたたちにも

 その意味は解るわよね?」


「?」

「どういうことだ??」


あ~、もう~~~!!!!!!!

この子たちって本当に・・・

もしかしなくても馬鹿なの!?


この国の中枢となる場所に食らいつき始めた

正体不明の魔物たちの存在があることを

弟たちに伝えた。















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