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46.勝敗


アイルは実の両親を知らない。


でも両親と慕える優しい主に出会い、

悲しいその別離の後にも敬愛する祖父と

出会って、そして最愛の本当に大事な大切な弟を

授けられた。

その後にもかけがえのない家族は増えていった。


そして、だからこそアイルは昨日初めて

その愛する存在たちに自身の感情をぶっ放していた。


祖父はその孫の姿に間を置くようにして

大きく息を吐き出した。


『お前に勝ち目はあるまい』


キッと鋭い目がアイルからモンショに

向けられた。


――私が負ける?


アイルが反論の言葉を発する前に、

その猛り狂う姿を意にも返さぬように

祖父からは言葉が続けられた。


『怒りにまかせて冷静でいられないので

 ならば、それはそうなるであろう?』

『よく周りを見て見ることだ』


見れば自身の姿に困惑する大切な家族たちが

困惑して―――そして自分自身を自らの様に

案じている大切な家族たちの顔が目に映った。


咄嗟にハッとしてアイルからは血の気が引いた。


私はなんてことを―――


「ご・・・」


『謝る必要などはない』


バッと思わず頭を下げたアイルの言葉を

食い気味にモンショが遮った。


『お前のその怒りをワシらが理解できぬとでも?』


自分が大切に思っている家族が目の前で突然

害意に晒されたのだ。

その怒りは至極当然のことで・・・

ここにいる誰もが同じ気持ちだ。


『だからまずは落ち着け・・・』


アイルは祖父がいつもそうする様に深く息を

吐き出すと一緒にその狂気も吐き出したかのように

それが抜けた力強い瞳で顔をしゃんと上げた。




それからはより一方的な時間が続いた。


アイルが攻めあぐねているのに対し覇王子は

基本とばかりに小さく鋭くその剣を振うだけで

それはアイルにとって不可避の斬撃となった。


それを受けたところで少女はその痕跡すら

その身に残さなかったが―――

致命傷を避けるだけで精一杯になっていた。


やっぱり強い・・・!


わかっていたことだ。

昨夜、祖父からも言われていたことだ。




「私が負ける前提なのですか・・・?」


『力量差が解らぬお前ではあるまい』

『それにお前は全力を出すことが叶わぬのだからな』


モンショはトントンっと指で自身の額を叩いてみせた。


魔法の適正が神聖な方向を向いていたアイルは

適性のない魔力・・・隠蔽の力で額の宝石を隠すのに

自身の魔力を大きく削いでいる。


もう冷静さを取り戻した今なら、アイルは

その言葉の意味が解ってしまう。

思わず言葉が詰まった。


確かに―――


『私が隠す・・・』


ヴィヴィから声が上がった。


『元は私のものなのだから隠すことなんて容易い』

『だから貴女は何も気にせず全力を出して・・!』 


徐々にヴィヴィの言葉はモンショの作戦に異議を

唱える様に強くなっていった。


『別に目的を達成するだけなら勝敗など

 どうでも良いことでしょう?』


『それは勿論そうだ』

『そしてそうあればこそ、だ』

『死力を尽くして力を示せ』


祖父は孫を真っ直ぐに見据えた。

その生来の鋭い目つきはそのままに、だけど優しい

その瞳にゾクッとした熱い何かをアイルは感じとったた。


『アイル、負けるな』


その瞳に、自らの勝利を信じてくれている

その眼を前にアイルは背筋を正し「はい」と短く答えた。




アイルは大きく間合いを取る様に後方に跳ねると

俯くようにしてふぅ~っと大きく息を吐き出した。


そしてスッと顔を上げて相対する者を

見据える少女のその瞳は――


――竜眼っ!?


出会ったその日からその力を授けられた

アイルは身体をその存在に近づけていた。


アイルがどんなに間を取ろうとしても

いとも簡単にその間合いを詰めて

追撃しようとした覇王子が静止した。


竜属のみが持つはずのその瞳――

その眼光に捕らえられ覇王子は

一瞬その動きを止めた。


その刹那の瞬間を、その一瞬の隙を

見逃さなかったアイルは大剣を大きく

振りかぶりながら自らその絶対的な

相対する者との距離を詰めた。




パァンっと術式が展開されたのが解った。


『そこまで・・・』


観客席から血の王女の声がコロシアムに響いた。


その顔からは何も感情も読み取れない。

まるで能面の様な表情を浮かべて勝負が

ついたことをただ宣言した。


その血にまみれた瞳は同じ観客席に身を置くマグに

向けられていた。


そういえば・・・

この子に、ディーエル家の嫡子に姉がいるなんて

報告は聞いことがない・・・




『王族どもにワシらの存在を意識させることが肝心だ』


何年たっても仇敵は見つけることが出来ない。

ならば、いっそ―――炙り出してやるとしよう。


迫りくる聖女と言う名の獣の心臓を覇王子の

神速の突きが貫いていた。


その数舜の前に一瞬だけ見せた少女のその瞳を

その異形な瞳を観客席の中の重鎮たちは目に

することはなかった。


それでも2人の王たる存在はそれを見逃すはずはない。


その瞬間に完遂されたモンショの策は

その勝敗の行方を決していた。








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