表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
45/48

45.聖女


誰をもの予想を裏切り、最強の武を持つ

覇王子を前に相対する少女がすぐに

倒れることは無かった。


圧倒的に劣勢であることは疑いようもない。


致命に至ることこそは無いであろうが

大小の傷をその身に負い続けた。


むしろ致命傷にならないと判断した剣筋を

少女は受けようとも躱そうともせず

その身で受け止めながら剣閃を振るった。


それでもその捨て身の剣が覇王子に届くことは無い。


しかし―――


何の冗談だ、こいつっ!!


覇王子は内心毒づいていた。


その手に残る確かな手ごたえと少女の身体から

吹きあがる血しぶきは自身の剣が相手を

斬り裂いたことを教えてくれている。


しかし、相対する少女にはその滴る血液の源など――

傷どころか何の痕跡すら見当たらない。


そこまでするつもりは全く無かったのだが

捨て身で自らに迫りくる少女の大剣を咄嗟に

その腕ごと斬り飛ばした―――はずだった。


少女は意にも返さぬ様にその断面から

血を吹き出しながらそのままに大剣を

覇王子に振り下ろした。

振りぬいたその剣を即座に返して

それを受け止めた覇王子の手がジンジンと痛む。

見れば、少女の腕には相変わらず何の痕跡すら無い。


こいつ、斬ったと同時に再生してんのか?


その戦いのスピードを目で捕えられない

観客席の中でもその腕を斬り飛ばすほどの

ひと際鋭い剣閃はその観客の目にそれを

写すことは無くとも何が起きたかを理解させる

ことは出来ていた。


ざわざわと驚愕と困惑の声が広がり始める。


四肢の欠損すら瞬時に治すことなど

この国の司教ですら不可能なことだ。


そんな高度な回復魔法など聞いたことがない。


聖職者ですら不可能なそれを自在に操りながら

常人には持ち上げる事すらできないであろう

大剣を振るってあの覇王子に挑むこの少女は

一体何者だ?


不滅の聖女―――


それを受けた者が死すら覚悟するほどの怪我ですら

瞬時に癒し、かつてはかの帝国に属していたはずでも

真の正義に目覚め、その慈愛に満ちたその力で

この国をその大戦で勝利に導いた存在。


「聖女・・・」


おとぎ話にしか存在しないはずの存在の名が

口にされ始めた。


そんな言葉すら囁かれ始めた観客席の中で

血の王女は鋭く目を細めた。


何て術式を張るの、この娘・・・


そっち方面の魔法は得意ではない。

それでもその少女が身に纏う神聖な魔力の奔流すら

目にすることが出来る血の王女はその精密さに

素直に感嘆の息を漏らした。


それでも―――

その気になればそれを打ち破ることは自身にも

あの弟にもきっと容易い。


だが、それをすれば、一介の無名の冒険者相手に

本気の姿など見せてしまえば、その苦戦をむざむざ

さらけ出す結果になりかねない。


「何とかしてみせなさいよ・・・」

「あなた、最強なんでしょ?」


小さく独り言つ王女のその言葉は誰の耳にも

届かなかった。




届かないはずの言葉を耳にしたように

覇王子はその瞬間、受けた大剣をその持ち主ごと

弾き飛ばした。


「やるじゃねぇか・・・」


殺気はそのままにニッと笑うと余裕そうに

手にする剣で自らの肩をポンポンっと叩いた。


確かに大したもんだ。

ま~だガキだってのにおっそろしい力を

身につけやがったもんだ―――が


しかし勿体ないというか何というか

その才を持ってしてもその太刀筋は

覇王子から言わせればもはや剣技とすら言えない。


まるで基本の練習といった様子で剣術の

基本と言った教科書通りの構えをしてみせた。


たったそれだけで狂猛に捨て身の剣を

放ち続けたアイルは動きを止めた。


その無難な隙のない構えに対してどこに

どう打ち込んでいいのかが全くわからない。


剣術という長い時間をかけて人が昇華した

その技術に対応する術をアイルは持っていなかった。


アイルは正当な剣術など学んだことは無い。


スラムを生き抜く嗜みとして最低限の武器の扱いはできた。

幼い頃は実の両親と慕った主を守るために、

最近ではもはや第2の母親の様に慕っている

土竜に食事を届けるために、

常人では辿り着くことすらできない

ダンジョンの深いところでマグとともに

狩りを行い続けてその剣を独自に磨いてきた。


そうして磨き上げられたその太刀筋は

もはや野生の呼吸となり―――

人の技術を前に聖女と言う名の獣は

沈黙することしかできなかった。














評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ