43.主従
・・・何で俺たちはここにいるんだ?
宿敵であるはずの姉
袂を分かったはずの次兄
そしてその横に大人しく3人で座る王子たちは
あまりにも異常な状況に混乱を極め
脳の理解が少しも追いつかなかった。
「おう、来たなっ!!」
「てめぇらも大人しくそっちに座ってろ!!」
かなり早く着いたつもりでも、とっくに
戦闘準備万端と言った様子で圧倒的ではあっても
自分たちにとっては心地の良い覇気を放つ
長兄の姿に頬が緩む。
「兄さん、いくら何でも早すぎだよ・・・」
笑みを浮かべながらその長兄の剣先が
指し示す観客席を何気なく見た瞬間――――
3人の思考が同時に停止した。
そこは本来誰もいないはずの観客席。
今日は兄の戦いを見届ける自分たちだけの特等席。
それなのに、そこにいる大勢の人々の中で
ただ一人の姿にその目が釘付けになった。
よりにもよって―――何故ここに血の王女がいる。
「あん?」
ただならぬ弟たちの気配に覇王子は
不思議そうに眉をひそめた。
凍り付いたように動かない弟たちの
その視線を追ってみれば、ずっとその冷酷な笑み
以外の表情を見せることが無くなっていた姉が
楽しそうに談笑している姿が見えた。
「あ~・・・まぁ、その何だ」
ああ、とその原因に思い当ると固まっている
3人の弟たちにボリボリと頭を掻きながら
言葉をかけた。
「詳しくは後で話すが・・・」
「とりあえず停戦したぞ?」
何が?何で??どうしてそうなったの???
今度はパニックに陥った弟たちを
「悪ぃが今は集中してぇんだ・・・」
「あいつも油断すんな、すんなって
うっせーしよ・・・」
ほれ、いったいったと3人を覇王子は観客席に
追い立てた。
「あら、随分と遅かったじゃない」
「今日は来ないのかと思っていたわ」
「とんだ失態だね」
「ここが戦場なら兄さんは大ピンチになってたよ?」
3人に気づくと姉と兄はまるで敵意のない・・・
それどころか親し気すら感じさせるほどの
笑顔を向けてきた。
「ご、ご忠告、痛み入ります・・・」
もう、どうしていいか解らず畏まりながら
空いていた席に3人は腰を降ろした。
誰か、誰か頼むからこの状況を説明してくれ―――
「いつまで待たせんの・・・!?」
『このコロシアムの術式はある一定の時間に
ならないと発動しないそうです』
「そんなの見ればわかる―――」
「必要ないと思わない?」
振り返りながらもその愛らしい見た目に見合わない
狂暴な殺気を隠そうともしないアイルに
ふふっとヴィヴィは笑みを浮かべた。
本人曰く、くそ野郎と対峙しているのに
いつまでたっても始まらない戦いに
もどかしさを募らせていたアイルはその後ろに
いつの間にか立っていたヴィヴィのその気配に
気が付いて当然と言った様子で言葉を続けた。
「大丈夫・・・」
「私はちゃんと冷静・・」
『だと、良いんですが』
その言葉にキッとした瞳を向けて、
ふと我に返った様に視線を逸らすと
大きくため息をついた。
「ごめんなさい・・・」
『良いんですよ』
『私はそんなあなただからこそ』
『あなたを主と選んだのですから』
その言葉にふぅ、と深く息を吐き出すと
その目はいつものアイルに戻っていた。
「おじい様の言うことは勿論ちゃんと覚えてる」
「でも・・・」
『・・・』
ヴィヴィは誰も気がつかない間であろう
その一瞬だけ言葉に詰まった。
まだ幼い主でも対峙する相手との絶対的な
実力差が解らない訳では無いだろう。
でもその相手は最愛の弟を危険に晒した。
それは・・・主にとって許し難い暴挙
だったことだろう。
『モンショ様の考えを聞いて』
『あなたはそれに疑いを持ちましたか?』
「そんな訳ないじゃない」
「おじい様が言うことはいつでも正しいわ」
『そうですね・・・』
『そしてそれを理解した上で尚、あなたは実力の
全てを出し切れますか?』
『・・・・』
アイルは答えなかった。
『そういう事です』
『状況は私たちが思っていなかった程に
良い方向へと向かっています』
正直に言えば覇王子との実力差は明確だ。
もちろん互いにそれが解らない訳じゃない。
『それでも・・・』
『あなたならきっと・・・』
でも、その絶対的な距離をきっと詰めて見せる。
あのくそ野郎に一泡吹かせてやる。
そして自分がそれを成せることを1ミリも疑っていない
アイルのその瞳をヴィヴィは真っ直ぐに見つめ返した。
『勝てますよ』
「・・・ありがとう」
ほんの少しの二人の間にある沈黙の末にアイルは
決意に満ちた声で応えた。




