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42.洞察

こうなってしまっては正直、私にここで戦う理由はない。

コロシアムの舞台に降り立とうとしていた私は

ふう、と静かにドレスの裾を払って腰を降ろした。


私たちが互いにあの娘を王として戴くつもり

なのであれば、もう私たちの争いでこの国を

いたずらに疲弊させる必要は無い。


私たちが争ったせいでこの国は酷く傷ついている。

王宮の中はおろか、軍隊や商会、その物流・・・

利権の奪い合いは多くの命を奪い、ただの一市民

にですら強い派閥意識を植え付けた。


そのしがらみを解くには本来であれば

多大な労力と時間を要するものではある。

だけどあの娘が王位につくのであればそれも

きっと難しくはない。


なんせ私たちの自慢の妹だ。


視線を弟に向ける。


「よく聞いて」

「あなたには苦戦すら許されない」


別にこいつがあいつが負けたところで・・・

勿論、それが不確定な要素を王宮に齎すことに

なることは理解している。


そうなれば「あの覇王子を苦しめた」という

枕詞で語られことになるであろうこの少女と

その仲間である冒険者の一団はそれ相応の

立場で王宮に迎え入れられることになるだろう。


彼女たちはその名の通りディーエル家に

名を連ねるものであることも、その英雄譚の

様な活躍で民衆から支持を得ていることも

報告を受けている。

それを従えることはこれから王位につく

あの娘にとっても利を成すものではある。


けれど――

あまりにも都合が良くて奇跡の様なお話。


何か裏があってもおかしくない。

不確定な要素は排除するべきだ。


ただ・・・


王宮で、国中で、他国とすら権謀術数渦巻く、

それらを相手に私はたった一人で戦ってきた。

お気に入りのドレスはおろか私のこの名が

鮮血に染まりきるまで。

その中で培った私の人を見る眼には絶対の

自信がある。


その私から見ても、というか誰が見ても

どう見てもその不確定な要素であるあの少女の

その思考はこいつと大差ない単細胞。

一見明白、単純明快そのものだ。


ふふ、むしろ案外気が合いそうじゃない?


私からすれば御しやすい相手にしか見えない。

そうなれば完璧な盤面を描ける。


でも、何でだろう?

それでもこいつが負けるのは

どうしようもなく腹が立つのは・・・


「わーってるわ!!」

「いちいち昔から口うるさいんだよ、おまえ・・・」

「王を支える最強の武を示せってことだろ?」

「そこでお前が何かかっこよくまとめて

 最強の知をしめして、めでたしめでたしだ」

「こうなったらお前にも恰好ぐらいつけさせてやるさ!」


やっぱり思慮が全く足りない愚弟を相手に血の王女は

軽くため息をついた。

その口元は薄く緩んでいたがその目は少女の後を

追うようにして現れたその仲間たちの姿を冷徹に

捉えていた。


「うわっすっげぇ!!」

『なかなかに壮観ですわね』

『あれ?誰もいないって言ってなかった!?』

『確かに観客席には人がいる様だ・・・それにあれは』


一人目立つ女が妖艶な笑みを浮かべて手招きしている。


「じゃ、アイル、頑張ってね!!」


妹はその友だちに応援の言葉を残すと

不審に思って身構えていたその仲間たちを

連れて観客席に登ってきた。


「お姉さま、紹介しますね」


「おねぇさまっっ!?」


次の瞬間マグは素っ頓狂な声を上げて慌てふためいた。


「それって王女様じゃんっ!血の王女じゃんっ!!!」


失礼極まりないその様は一目で血の王女に気づいていた

3人のヴィーヴルたちの反応をうまく濁した。


『申し訳ありません』

『この子世間知らずで・・・』


「いいのよ」

「堅苦しい挨拶は抜きにしましょう」

「今日は本当にそういうのはいいの」

「ほら、この子だって緊張しちゃうじゃない?」


予想外の出来事にガチガチに緊張しまくっている

マグに血の王女は微笑みながら目線を移した。


―――敵意は感じない


3人のヴィーヴルたちはひとまず

警戒を解いた。


妹から各々の紹介を受けながら言葉を交わした。

王族の長姉として子供の扱いには手慣れていた

血の王女にマグは早々に懐いたようだ。


「ねぇねぇ、ここの術式って王女様がつくったの?」

「これならねぇちゃんも安心だね」


へぇ?やるじゃない・・・

この術式があることに気づくなんて。

報告通り、確かな力を持っている様ね。


コロシアムでは戦う者たちが致命傷を受けない様、

私、自ら防護の術式を張り巡らせている。

本来、常人には目にすることも難しいはずだ。


『はい、流石に見事なものです』

『致命判定のやり方などは・・・』


ヴィーと同じ魔術師として専門的な言葉を交わしながら

私は戦いの開始を待った。




本当に奇跡でも起きたのかしら?


頬杖をつきながら私は少女の仲間たちを

じっと見定めた。

鮮血に染まりきった私の目をもってしても

この者たちの裏に陰謀があるとはどうしても

思えなかった。


















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