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死んでも離れない?否、死んでも離れられない

幕間の使い方、あってますかね……?

赤、青、黄色、緑、紫……。


様々な色の光の塊があちこちに浮かんでいる。


光が浮いているはずなのに周囲を照らしてくれるわけではなく、自分たちの進む道は暗い。


「リィン、まだ追ってきてる?」


道かどうかもわからない真っ暗闇の中、フリーはひたすらに走り、時折同居人であるリィンに背後の確認を頼む。


『ずーっと追ってきてるよ。あきらめることは……多分ないんじゃないかな?』

「それは困る」

『もう一回一当てやっとく?』

「一応」

「ではでは、ホーリーアロー!」


代わった瞬間、事前に詠唱を済ませていた神聖魔法を叩きこむ。

こんなところにすんでいる魔獣らしく、神聖魔法は効果抜群。

突然の光による目くらましの効果もあり、一時追跡してくる魔獣たちはいなくなる。


だが、それも一時だけ。


さきほども一時は退けたものの、またすぐに集まってきたのだ。


意味はないが、それでも多少の余裕はできる。


再びフリーに代わり、身体強化を発動させてさらに走る。


進んでいるのか、どこに向かっているのか。

なにもかもわからないままの逃避行。


2人は気が付いたらここにいて。

気が付いたら周囲をよくわからない魔獣に囲まれて。


こうして逃げ回っているのだ。



「あの魔人、絶対に許さない」

『まぁでも確実に強いけどね。だって、なにされたのかもわからないもん』

「……悔しいけど同意」


油断していたことなんてない。

ずっと警戒していた。


だが、なにをされたのかわからないまま、自分たちはここにいた。


「こんなところで鬼ごっこしている場合じゃないのに」

『アルがどうなったのか気になるし、孤児院に置いてきた子供たちも心配』

「はやく戻らないと……」



暗闇の、先が見通せない闇が2人の気持ちをますます焦らせて不安にさせる。


どのくらい走ったのか、まったくわからない。

時間感覚はすでになく、ただひたすら走る、走る、走る……。


その時、不意に気配を感じて立ち止まる。


『どうしたの?』

「なにか、いる……?」


フリーにしては歯切れが悪い。

自分でもかすかに感じ取っただけで、確信があるわけではない。


『あ、確かになんかいるわ。ていうか、囲まれてるっぽい』


フリーの死角を見ていたリィンが影を見つける。

闇の中、影がすぅっと動く。


『来るよ!』


気配も極わずか。殺気もない。

静かな、死角からの一撃。


いかに感覚が鋭い獣人とはいえ、これは避けられない。

獲物に気づかれずに、一撃で仕留める。

その動きはまるで洗練された暗殺者の如く鋭く、迷いがない。


狩った……。


影がそう思ってしまうのも無理はない。

だが、自分が狙っていた獲物は普通の獣人ではない。


完全な死角からの攻撃をまるで見えているようにかわし、あまつさえ反撃を繰り出してきた。


『残念。私がいる限り、フリーに死角なんてないよ!』

「そういうこと。狩られるのは、あなたの方」


鋭く伸びたフリーの爪が、影を引き裂く。

確実にとらえた感触があったのに血がでることはなく、影は影のまま消えていく。


かわりに昇っていく、紫色の、火の玉のようなもの。


2人は火の玉に見覚えがあった。

何度か見たことがあるそれは、人とか魔獣を殺した時によくみるもの。


『魂、かな?』

「多分そうだと思う」


ふわりと昇っていく魂を見送って―――


「あ」

『あ』


2人の声が重なる。


昇っていた魂がふいに消えた。


自分たちを取り囲んでいた別の影によって食われた。


『あ~らら、なんか親近感がわくやつがでてきたね』

「確かに。親しみは感じられないけど」


昇っていく魂を喰らったのは、一頭の狼のような魔獣。

ただ、普通の狼と明確に違うのは―――


その狼には、頭が二つあった。


双頭の狼。


フリーとリィンが獣化した姿そのものだった。


『魔人の誰かも言っていたもんね、私たちの姿をみて。冥府の猟犬オルトロスって』

「ということはここは冥府ってこと?」

『そういうことに、なるのかな……?』


計らずして、自分たちの居場所がわかった2人。

だが困惑は増えるばかり。


冥府だというなら、自分たちは死んだはずで、死んだならなぜこうしてまるで生きている時と同じように動けているのかとか。


『まぁ、諸々不思議なことはあるけれども』

「まずは、こいつらを追い払う」


フリーの姿が、敵対しているものと同じ姿になる。


オルトロスがでてきたのを皮切りに、周囲を囲っていた影たちもぞろぞろとでてくる。

姿は狼型の魔獣に似ている。

だが、自分たちが相対してきたどんな魔獣たちとも違う。


溢れ出す、濃密な死の気配。

冥府という死の先の世界に住まう魔獣。


その力は、ただの魔獣とはいえ現世の魔獣とは一線を画す。


だがフリーとリィンの力も度重なる魔人との連戦で上がっている。

いくら冥府の猟犬たちが相手とはいえ、苦戦することはあまりない。


周囲の狼はさきほどと同じように一撃で処理できた。

その中で、冥府の猟犬と言われていたオルトロスは別格。


闇に紛れ、死角を狙ってくる狡猾さに合わせて闇を操る魔法まで使ってくる。


オルトロスの遠吠えに合わせて、2人の周囲に黒い爆炎の華が咲く。


体中あちこちを傷つけられ、腕を食いちぎられそうになり、その口の中にリィンが爆裂魔法をぶち込み破壊し、ようやく倒した。


「辛勝だったね」

「さすがに強い」

「でも不思議なんだけどさ、私たちの体結構傷つけられたと思うけど血が出るわけでもないし、痛みもあんまりないよね?」

「ない。それはあたしも思っていた。不思議な体になってる」

「死んでるからかな?」

「ありえる。ここが冥府だと仮定したら、あたしたちはやっぱりあの魔人に殺されたことになる」

「でもこうして獣化もできるし、魔法も使えるよね?」

「考えてもわからない。わかる人を探すしかない」

「人、だといいけどね」


リィンが苦笑しながらそう呟き、2人は1人の姿へと戻る。


「ふぅ……」

やれやれだ、とフリーは思う。

『そうだよねぇ』

リィンも同意する。


フリーの視線の先。

そこには数多の光があった。

赤や紫に光る、獰猛な目。


もう隠れる必要はなくなった。


そういうことだろう。


『一体な、わけがないか』


当然、その中にはさきほど辛勝したオルトロスも交じっている。


一体や二体ではない。

数えきれないほどの群れが濃密な死の気配を纏いながらこちらを見ている。


『みんな驚いてくれるからオルトロスってレアな魔獣なのかと思っていたけどそうでもないみたいだね』

「獣人では珍しいってだけ。冥府では普通」

『冥府での普通ってなんかおもしろいね』


リィンがはは、と乾いた笑いを響かせて。


「さて」


フリーが身体強化を発動させる。


「逃げよう」

『完全同意』


フリーは全力で、群れの反対方向へと駆けだした。


「あんな数、相手にしていられない」

『さすがにあれは無理だよ!』


再びはじまる闇の中での全力疾走。


時間感覚もなにもない闇を、ただひたすらに疾駆する。


どのくらい走ったのか全くわからない。


不思議なことに、身体強化に使っている魔力も、そしてフリー自身の体力も全く切れる気配がない。


「強くなったから?いや、それでもなにかおかしい」

『私もさっき魔法使ってて思ったけど、魔力が減ってる気配があんまりないんだよね。魔力ってそんな急に増えたりしないでしょ?』

「普通は増えないけど、私たちは普通じゃないからなにが起きても不思議じゃない」

『冥府を走りまわっている時点でそうか』


無数の猟犬に追われていても、2人は変わらない。

まるでいつものことのように自然と走る。



走って、走って、走って―――



『あれ?』


不意に、リィンがつぶやいた。


「どうしたの?」

『気のせいかもしれないけど、追っ手がいなくなった気がする』


リィンの言葉を聞き、フリーが速度を落とす。

流れていく色とりどりの球が動きを止める。


フリーも後ろを振り返ってみると、確かにあれだけ執拗に追っ手来ていた魔獣たちがいなくなっていた。


「どうして急に?」

『わかんないけど、やっとあきらめたんじゃない?』


とてもそうだと楽観視することはできないが……。


「ちょっと休めるのは助かる」

『ずっと走っていたもんね。さすがに疲れた?』

「疲れてはないけど……なんだか不思議な感じ」


体力や魔力がなくなるのとは違う、まったく別のなにかが減っているかのような……。

説明できない感覚が常にある。


赤や青、紫に黄色、緑。

色とりどりななにかは周囲にずっと浮かんでいる。


光源として機能はしておらず、相変わらず色とりどりのなにかが浮遊しているだけ。


音もなく自分たちの心音まで聞こえてきそうなほどの静寂。


もっとも、頭の中ではリィンの声が常に響いているが。


「結局ここがどこなのかいまいちわかっていない」

『そうだね。冥府っぽい感じはするけど、だったら私たちは死んだの?って話になってくるし』

「死んだことないからわからないけど、いまのところは生前となにもかわらない。リィンは一度死んだでしょ。こんなところきた?」

『いや覚えてないな~。生前のことはなんとなく思いだせるけど、死んだあとは気が付いたら下水道だったからね』

「ここがどこなのか、わかる人に出会えることを願って探すしかない」

『そういうことだね』

「もしここが死後の世界だとすると、あたしたちは死んでも離れられないってことか」

『おぉ、まさかこんなところで死んでも離れないを聞くことになるなんて……』

「死んでも離れない、じゃなくて死んでも離れられない」

「ヤンデレかな?」

『なに、やんでれって』

「なんでもないよ」


追っ手がいなくなったことで少し余裕が出てきた2人は、他愛もない会話をしながらとぺとぺと歩いて道なき道を進む。


2人は気づかない。


追っ手は、追って来なくなったのではない。


追う必要がなくなったのだ。


2人は気づかなかった。


追われていたのではなく、追い立てられていたのだということに。


深く、深く。


冥府のさらに奥へと…………



やがて二人はたどりつく。


冥府の最奥。


本物の、神が住まう神殿へ。



『おぉ~……!』

唐突に現れた物に、リィンが感嘆の声を漏らす。


それはまさに神殿というにふさわしい物だった。


傷も、汚れもついていない真白の立派な柱が数本囲まれて立つ立派な神殿。


光があるわけではないのに、神殿の様相ははっきりと見える。


神殿の入口には大きな両開きの扉があり、荘厳な彫刻がなされている。



そして―――



扉の両脇に立つ、2人の人物。


『一応、人に見えるけど』

「こんなところにいる人が、ただの人間なわけがない」

『せめて話が通じるといいね』

「期待はできない」


フリーはゆっくりと近づいていく。


徐々に、立つ2人の姿がはっきりと見えてくる。

一見すると人間の少女のように見える2人。


白を基調とした装束を着ており、神殿の静謐さを映すように柔らかな光を放っている。

胸元と袖口には淡い金糸で紋様が刺繍され、ここに住まうものへの祈りと守護が読み取れる。


2人の少女は装いは基本こそ同じだが細部が異なる。

1人は、淡い藍色を差し色にした装束で、冷静さと知恵を象徴するかのような佇まい。

もう1人は、薄紅色を帯や刺繍に忍ばせて、情熱と闘争を象徴するかのような佇まい。


長い髪は高く結い上げられ、額には神殿の印を刻んだであろう細い飾り冠。


歩み寄ってくるフリーのことを気にする様子もなく、白い床を静かに踏みしめている。


彼女たちがこの神殿を「守る者」であることを雄弁に物語っている。


門のような柱の間を通りぬけ、2人の前に立つフリー。



少女は、一瞬こちらを見据え、感情を抑えた静かな声で口を開く。


「ようこそ、フリー。そしてリィン」


藍色の少女が、穏やかに頭を下げる。

声は澄んでいて、礼儀正しい。


「あなた方をお待ちしておりました。ここまで来られた以上、お入りいただくこと自体は問題ございません」


朱色の少女が少しだけ首をかしげ、弾んだ声で続ける。


「うん!大丈夫だよ!ちゃんと中までいけるなら、ね?」


丁寧な少女が、微笑みを崩さぬまま言葉を重ねる。


「ですが……一度足を踏み入れれば、引き返すという選択肢は失われます」


子供っぽい少女は楽しそうに、手を叩く。

静かな鈴の音が、しゃらんと響く。


「途中で逃げ帰ることはできないよ?泣いても、叫んでも、助けてくれる人なんてここにはいないから!」


最後に、2人の視線が真っすぐにフリーを捕える。


「それでも進む覚悟がおありでしたら」

「入っていいよ。だって私たちは、あなたたちが来るのをずっと楽しみに待っていたんだから!」



神殿の扉が、静かに開き始める。



相談する必要なんかない。

2人に、引き返すという選択肢なんてない。


どんな時でも、自分たちは進むだけだ。


たとえこの先がなにであっても、2人でならば乗り越えられる。


今までもずっとそうして乗り越えてきたのだから。



「いこう、リィン」

『うん、フリー。私たち2人なら、なにが起きても大丈夫!』

「だね」


そうして、2人は神殿の中へと足を踏み入れる。



冥府の神―オシリスが住まう神殿へと。


読んでくださりありがとうございます。


第三部の舞台は冥府。

フリーとリィンが誘われたのは冥府の神、オシリスが住まう神殿。

これから2人はどうなってしまうのか。


お楽しみください。


……楽しんでいただけるように頑張る所存でございます!

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