これは馬じゃない!!!(byキャロル)
漆黒の鎧で覆われたそれは前後に一つずつ車輪が付いていおり、鋼鉄のボディの隙間から複雑な作りの機械が覗いていた。
そのやたらに重そうな馬の後ろにレニがチョコンと座っている。
「ハルトの騎馬なんですけど『ナイトストーカー』って名前で…えっと、ばいく?ばいくって言ってました!」
「ばいくって何?こんな得体の知れ無いものをどうやって動かせっていうの!」
「機械仕掛けの騎馬だと思って下さい!さぁ、ここに乗ってそこに足を掛けて!その手綱を両手で…」
「騎馬あぁぁ?どこが騎馬よ!つぶらな可愛い瞳は?スレンダーな四本足は?手綱って何?これ?これが手綱?」
二本のタイヤとハンドルを指差しキャロルがレニに馬とバイクなるものの違いを必死で教授しようとするものの、レニは拳を握り締めて自分の前の空いたシートに目配せした。
「大丈夫です!燃料の補給は昨日の夜済ませたみたいですし!キャロルさんでも走らせられます!さぁ早く!追いつかれちゃいますよ!」
「違…違うでしょ!この騎馬の主人はハルトでしょ?ねぇパパ置いてきちゃったわよ?ほら、彼を起こして…彼に…」
優しく諭すように語り掛けるもレニは黙ってシートを指差していた。
「ちょっと…何で私が…」
気付いた時キャロルはその鋼鉄の騎馬にいつの間にか跨っていた。
「ふふ…レニ、この子…どうやって動かすの?」
心臓が破裂しそうなほど脈打っている。
得体の知れない乗り物に問答無用で乗らされ、しかも操れと言われているのだから当然だ。
「えっと、レニは何だっけ…えっと、あっそうだ!『しゅっぱぁつ』」
「しゅっぱぁつ」の掛け声とともに大きな唸りをあげた物体にキャロルの体は硬直した。
決して馬とは言いがたいような重苦しい音が振動と共に断続して襲ってくる。
「そしたらそのハンドルの隣のボタンを…」
後ろで指示されるままにハンドルの隣のボタンを押した瞬間、その騎馬はとんでもない速度で発進した。
「ぎゃぁーーーーーーーーーーーーーーー!」
前輪からハンドルまでを覆う盾のようなボディが車庫の扉をぶち破り騎馬に乗った二人は外に飛び出した。
「ぎょえぇぇぇぇ!早っ早っ早過ぎるぅ!こんなの馬じゃなぁ~い!」
目の前の階段を凄まじく駆け下りる騎馬にキャロルは必死で喰らい付いていた。ハンドルを一度離せば間違えなく一瞬で天に召されてしまう事だろう。
「あのですね、それでハンドルを回すと…」
レニの言葉にキャロルが反射的にハンドルを回した途端、鋼鉄の騎馬はさらに速度を上げる。
「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ダメですよ!ハンドルを回すともっとスピードが出ちゃいます!」
「おっそ!おっそ!遅すぎるでしょ!そう言う事は先に言って…」
アクセルをフルに入れた状態の中、レニが悲鳴を上げた。
「キャロルさん!前っ前えぇぇ!」
必死で腰にしがみ付くレニの言葉に、前を見てみると巨大な壁がすぐ先に立ち塞がっている。
「ちょっちょっちょっ…うるあぁぁぁぁぁぁ!」
何とも男らしい雄叫びを上げながらキャロルがハンドルを目一杯左に切った。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
騎馬が大きく傾き、地面擦れ擦れで方向を変え、体制を立て直す。
「すっ凄いです!キャロルさん凄すぎます!」
「ひっひぃ~ひぃ~レニ!あんたは操れないの?」
「レニは無理なんです。運動音痴だし、重くて支えられないから。ハルトにダメッて言われてるんです」
「私だって無理だっつーの!」
夜の街に重厚な機械音と悲鳴が響き渡る中、魔族は大きな翼を広げ夜空に羽ばたいた。




