迫りくる音
「ん…」
身を切るような寒さでキャロルは目を覚ました。身体が重く、意識も朦朧としている。
「あれ…私…」
ヴラドが出かけた後、一人で店番をしていた所に太った客が訪れた事は覚えている。しかし、そこからの記憶が全く無い。
「何だろう…力が出ない…」
やっと立ち上がるが、足がおぼつかずに壁に倒れ込む。
「寒い…」
四方を壁に囲まれた何も無い部屋、天井は高く、七メートルはあるだろう。上の方に窓が付いてはいるがそれだけだ。
しばらくしてやっと意識がはっきりしてくるとキャロルは思わず鼻と口を塞いだ。濃い血の臭いと腐臭が部屋全体に充満している。よく見るとコンクリートの壁の至る所に抉られたような深い傷跡とどす黒い血の染みが滲み出していた。
「やだ…何これ…」
【お目覚めかな。素晴らしい精気を宿す極上の肉よ】
何処からとも無く響いた機械を通しての声にキャロルは慌てて周囲を見渡した。
【ここだよ。上だ上】
声に導かれ、上部に取り付けられている窓を見ると、その向こうで太った男が四人の狩人を従えたままキャロルを見下ろしていた。
「何…あんた…何なのよ!」
ふら付きながらも叫ぶキャロルの姿にマイク越しから笑い声が響いた。
【おお、何とも気丈なもんだ。強い薬を使っているにも関わらず、そこまで動けるのか?さすがは特Sの女】
「特Sの女って…どいつもこいつも…」
どうやらこちらの声は向こう側には聞こえては居ないようだ。
【しかし、それ程に生きがいいのならばシャドウエンペラーもさぞかし喜ぶ事だろう】
「シャドウエンペラー?」
その時後ろから重い音が響き、キャロルは後ろを振り向いた。
四方の壁の一角が砂埃を降らしながら少しずつ少しずつ上に開いている。
その先に広がる漆黒の闇から湿気を帯びた氷のような風が流れ、身体を不気味に撫でた。
「やだ・・・何?何なの?」
七メートルの壁が開ききると漆黒の闇の奥から不気味な唸りと足音が耳を掠める。




