ダークハーフ
バイクを飛ばし黒灯台の店に辿りついたハルトは、ドアを蹴破ると中に駆け込んだ。中は静まり返り、人の気配が感じられない。
しかし、まだ燻る暖炉の火と、室温から、今まで人が居たであろう痕跡が残っている。
「オイ! キャロル! 居んのか!」
銃を構えながら居住スペースに踏み込むとハルトはレニの為に、いけ好かない嫉妬相手の名前を呼んだ。
「おい! キャロル!」
二回の部屋を開くと見覚えのあるコートがベッドの上に脱ぎ捨てられたまま残っていた。
それを手にしながら静かな室内を見渡す。
必要最低限のものだけが置かれた部屋。恐らく客室だろうか、しかし、キャロルが居た事は確実だ。
このコートはバドルが自分の理想の女を妄想して作ったオーダーメイド式のもの。同じ型のものはない。
「クソ女が腹黒い眼鏡野郎と愛の逃避行かよ」
コートを脇に抱え、部屋を出て行こうとした時、突如変わった部屋の空気に反射的にハルトの銃が後方を向く。
後ろに立っていた男が向けられた銃を弾き、その手首を掴んだ。
それと同時に繰り出した回し蹴りが男の腹に迫り、男も反射的にその蹴りを持っている巨大な武器で受け止める。
耳をつんざく様な音と共に男がよろけた刹那…ハルトは再び男の頭に銃口を突きつけた。
「ふ、さすがは特Sのブラックホース。私の自慢の銃が曲がってしまった。その小柄な身体でこれ程のパワーがあるのですから驚きです」
ハルトの蹴りを受けた重厚な銃は使い物にならない程ひしゃげてしまっていた。
「コソコソコソコソ、まるでゴキブリだな」
背の高いヴラドに敵意剥きだしの視線を投げ、ハルトは質問を向けた。
「キャロルをどこにやりやがった」
「さあ、どこでしょうねぇ」
「とぼけるんじゃねぇ! テメェが陰で何をやってるのかはもう調査済みなんだよ!」
その言葉に眼鏡の向こうの瞳が驚きに見開かれる。
「孤児院の名を語った施設で魔族の餌を育てるなんてよ。とんだ偽善者だぜ。人間の片隅にもおけねぇゲス野朗が」
「ふふ、それはあなたも一緒ですよ」
「…んだと、テメェ…」
「あなた、本当に人間ですか? 特殊合金で出来たこの銃をここまで変形させるその力はもはや人の域を超えている。ブラックホース、あなたも混血ではありませんか?」
その意味深な言葉にハルトは眉をしかめた。
「俺も?」
「そうです。あなたも私と同じ…魔族と人の混血ではないのですか? と聞いています」
「ってめぇ! ダークハーフか!」
その言葉に不気味な笑みを零すとヴラドは後ろに飛び退き、予備の片手銃を取り出すとハルトに向けた。
「テメェ!」
「そのコートの内ポケットにキャロルを買った男の名詞が入っています。急いだ方がいいですよ。あなたの騎馬ならまだ間に合うかもしれません」
「んだと? 何の真似だ」
「もう報酬は受け取りましたから、後は商品がどうなろうとも私の関与する所ではありません。ただ、彼女をあんな下賎な者の家畜に食わせてしまうというのは…やはりもったいない気がしましてね」
そう言い放つとヴラドは微笑を浮かべたまま後方の窓をぶち破り、ハルトの視界から消えた。
「っ…」
急いで窓から身を乗り出してみるが、既にそこにはヴラドの姿はなく、遅れて来たバドルのバイクが店の前に停車していた。
「ハルト! キャロルは居たか?」
バドルの言葉に答える前にハルトも窓から下に飛び降りる。
「おいおい、普通は階段使って玄関から出て来るだろうよ…」
見事に着地を決めるハルトの姿にバドルは苦笑いを浮かべながら溜息を付いた。ハルトの身体能力の高さは分かっているつもりだが、こうも簡単に人間離れした行動をとられては、もう笑うしかない。
「眼鏡野郎を見なかったか?」
「は? いや、見てねぇけど…キャロルは…」
バドルの言葉に舌打ちをするとハルトはバイクに跨り、アクセルをふかした。
「おい何だよ。頼むぜ、俺の騎馬の馬力じゃろくに追っかけられねぇんだからよ」
そう呟くとバドルは音の余韻を残して走り去るハルトの後を追った。




