表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
74/78

忌み仕事

 キャロルが居なくなって三回目の朝を迎えたレニは、今朝も、二人分の料理をテーブルに並べ、一人で朝食を口に運んでいた。

 あまり食欲は無いが、食べなければ『ハルト』が出てきて、またケンカになりそうだったので仕方なく…と言った感じだ。

「キャロルさん、ヴラドさんと一緒なのかな」

 キャロルの部屋の机の中には四百五十万の大金が束になって残されていた。

 経済的に良くない店で服を買い揃えた事を考えると持ち金はたかが知れている。

ブラックカードを持っていればある程度安心は出来るが(勝手に金を引き出した時のハルトの事は置いておいて)その頼みの綱のカードもレニが持っていた。

 この間ヴラドが保護していると言っていたが、レニに詰め寄ってきたヴラドの顔はいまだ忘れる事が出来ない。

 ハルトの娘だと知ったときのレニを見るヴラドの目は


 商品を吟味する消費者のそれに近かった。


「キャロルさん。帰って来てよぉ。大丈夫だよ。もうハルトもあんな事しないよ…」

 そう呟きながらレニは「多分…」と自信なさげに付け加えた。

 しかし、バドルから手渡されたカードを『ハルト』がまだ持っているのだから、それなりの希望はある。それはすなわち、解雇をするつもりはないという事だ。

 完全にキャロルを見捨てたのならば『ハルト』はカードをその場で破壊していてもおかしくない。


 丸々残ってしまった一人分の朝食を寂しげに片付けていると、家の呼び鈴が押され、レニの顔が一気にバラ色に染まった。

急いで玄関に駆け下り扉を開く。

「キャロルさ…」

 しかし、目の前に立っていたのはキャロルとは程遠い汗臭い人物だった。

「よっレニちゃん。ハルト居るか?」

「バドルさん」

 少しガッカリしながらレニは首を横に振った。

「ハルトは寝てます」

「何だよ、俺が来る時はいつも寝てんな。悪ぃけどちょっくら起こして来てくんねぇかな。ちょっとお邪魔するぜ」

 家の中に入るバドルの姿に戸惑いを見せながらもレニは彼をリビングに通した。

「あのっ、あのっ…ハルト、すごく寝覚めが悪くて…レニじゃダメですか?」

 ハルトとレニが同一人物だという事は知られちゃダメだとハルトにはきつく言い聞かされていた。よほどのピンチにならないと恐らく人前で『ハルト』に変わる事は無いだろう。

 例えば…

 キャロルの時の様に、狩人殺しに追われてて、追い詰められた時とか、そういう事がない限りは…

「ん~レニちゃんじゃちょっと刺激が強すぎるんだよな。キャロルが居りゃぁキャロルでいいんだが…まだ、帰って来てねぇんだろ?」

 その言葉にレニが小さく頷く。

「レニ、もう一回ヴラドさんの所に行ってみようと思ってるんです。それでキャロルさんを返してもらって」

「ダメだ! レニちゃんはあいつには近寄っちゃなんねぇ!」

 いきなり張り上げた言葉にレニの肩がビクリと震える。

「え? バドルさん、どうしたんですか? 顔がとても怖いです」

 怯える少女の姿にハッと気付くとヴラドは「悪ぃ悪ぃ」と言いながら微笑み、ポケットから出したアメちゃんをいつものようにレニの手に握らせた。

「でもな。レニちゃんはもうアイツには会っちゃだめだぞ。俺の不注意だが、ハルトの娘だって事が知られちまったからな」

「どうしてハルトの娘じゃいけないんですか?」

 「それはな」と考えるとバドルは一人で何かを否定するように首を横に振った。

「とりあえず、ハルトを呼んでくれ。キャロルもヤベェかもしれねぇんだ!」

 キャロルの危機を示唆する言葉にレニは息を飲んだ。

「キャロルさんがどうしたんですか? だって、ヴラドさんが保護してるって…」

「あいつ、やっぱりとんでもねぇ仕事してやがってな。頼む! 寝起きが悪かったら俺がぶん殴られるだけだろ? 頼む!」

 その真剣な眼差しにレニは大きく頷くと自分の部屋に飛び込んだ。

「ハルト! ハルト起きて! キャロルさんが大変だよ! ハルト!」

 部屋の中の大きな鏡に向かってレニは鏡に映る自分の姿に呼びかけると、少女の顔が一瞬で鋭い男の表情になる。

「レニお前正気かよ。今部屋の中にはバドルも居るんだぜ。俺とお前が同一人物だってバレたらどうするつもりだ」

「そんな事言ってる場合じゃないよ! キャロルさんが危ないんだよ!」

「知ってる。お前を通して聞こえてた。でも自業自得だろ。あいつは…」

「何でそんな事言うの! キャロルさんを追い込んだのはレニとハルトだよ! きっと帰って来れなくてヴラドさんの所に行っちゃったんだよ!」

 少女の顔には怒りと悲しみが混雑したような表情が滲み出ていた。

「おま、追い込んだって…俺はともかくレニはあいつを庇おうと…」

 しかし、それ以上言うと再び泣きそうなのでハルトは言葉をぐっと押さえると自分に暗示をかけるかのように呟いた。

「くそっ落ち着け俺。あいつはレニの大切なペット…ペットペットペット…ペットなんだ。可愛げのねぇ猫だと思え! 脳みそのねぇバカ猫だバカ猫…」

「ハルト!」

 心の中で飛んだレニの追い討ちの言葉にハルトは両手に拳を握り締めながら叫んだ。

「ああ~! ったく面倒くせぇ! 分かった! 分かったから大人しくしてろ! レニ!」


 レニが引っ込んだ部屋から聞こえて来た機嫌の悪い男の叫びに緊張しながらバドルは根性を決めた。

(ヤベェな。ハルトマジであまり機嫌よくねぇぞ。あいつにぶん殴られたら痛ぇよな。いや、痛いっつーか、首折れて死ぬだろ)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ