一人二役の親子喧嘩
「キャロルさん大丈夫かなぁ。寒い思いしてないかなぁ」
テーブルの上に置かれた二人分の夕食の内の一人分を悪戯に弄りながらレニは一人ボソリと呟いた。
キャロルと出会うまでは一人で摂るのが当たり前だった食事も、今ではとても味気なく、寂しい。
とりあえず二人分の食事を用意して待ってはみたが、既に外は夜の闇に覆われている。こうなってはもう帰ってくる見込みはゼロだ。
寂しさが一杯で食事でさえ喉を通らずに夕食の時間を終えようとしたレニは、ほとんど残った食事の食器を持って………止まった。
「何してるんだレニ! しっかり喰えよ! 体は空腹を訴えてるだろ!」
持った食器を再びテーブルに置き、『ハルト』がフォークを手に取り、冷め切った食事を口に運んだ。
「……レニ、食べたくない」
一口運び、戻ったレニが再びフォークを置く。
「お前! 育ち盛りだぞ! 我がまま言わねぇでしっかり喰え!」
「でも、レニは食べたくない」
「じゃあ引っ込んでろ! 代わりに俺が食う!」
「レニは食べたくない!」
「だから俺が食うって言ってるだろ! フォーク置くなよ!」
「レニは食べたくないの!」
「だから、お前は食わないでいい! 俺が食えば同じ事だ!」
フォークを置いたり持ったりしながら続く一人二役の少女の声と男の声の言い合いは少女の声で一時止まった。
「ハルトのせいでキャロルさん出て行っちゃったんだよ! ハルトが……ハルトがあんな酷い事するからっ!」
静まり返った広い室内…そしてレニはいきなり片手を力強くテーブルに打ちつけた。
手作りグラタンが宙を舞い、大理石のテーブルが真っ二つに割れる。
「キャロルキャロルキャロルって! お前の親は俺だろうが! あいつはお前よりあのクソ眼鏡野郎を選んだんだよ! 反抗期も度が過ぎると冗談じゃ済まされねぇぞ!」
「ハルトがもっと優しくしてくれればキャロルさんだって戻って来るもん!」
「っんだと? 俺があいつに……」
そこまで行って『ハルト』は息を飲んだ。
頬に伝う暖かい雫……これは……
「おまっ! ちょっ…待て! ちょっ…何泣いてんだ! レニお前…マジでちょっ…やめろ! 泣くな! 分かった! 今のは言い過ぎた! やめろ! マジでやめろ!」
とりあえず『愛娘?』の涙で『親子喧嘩?』に終止符が打たれるとレニは涙を拭いながら床に座り込んだ。
「分かってるもん。ヴラドさんはすごく優しいから、きっとハルトじゃ勝てないんだ。背も高いし…」
目の前の窓に映る虚像の『ハルト』がその言葉に唇を噛み締めた。
「背って……俺はお前の身体を共有してんだからそいつは無理だろ。大体ヴラドの『いい人』は表向きだけだぜ」
「バドルさんもハルトもどうしてそう思ってるの? レニは、悪い人には見えないよ」
虚像の『ハルト』が実像の『レニ』を見据えた。
「信用出来ねぇならレニで調べて来な。明日、バドルが迎えに来る。また探偵ごっこだ」
「レニが?」
「孤児院のオーナーのレニなら分かるぜ。アイツが経営するアヴェニールの裏がな……」
そう告げるとレニの中のハルトは眠りに付いた。
「レニなら分かるって……何だろ」




