ブラックカードの意味
「ちょっ…マジかよ。あの美人、レニちゃんの……」
すっかり恋する乙女の顔になっているキャロルに続いて出てきたのは、あの背の高い眼鏡の青年だった。
距離があり、何を話しているかは知らないが、笑顔で談笑した後にキャロルはヴラドに一礼し、店を後にする。
「キャロルさん…」
大好きなキャロルを取られた気分に狩られ、レニは弱弱しい声で通りの向こうの女の名を呟いた。
「ちょっと待てよ。こいつぁ予想外だぞ。レニちゃん、もしかして探偵ごっこのターゲットってあの補助士の事だったのか?」
「どうしよう。バドルさんどうしましょう!! もしキャロルさんがヴラドさんと結婚しちゃったらレニはどうすればいいですか? レニは…パパが二人になっちゃいます!」
物凄く気の早い不安の叫びにバドルは言葉を濁らせた。
「けっ結婚は…早いと思うけどよ……こいつぁイケねぇな」
「ううぅぅ~」
小さく唸るとレニは溜まらずに階段を下り、通りを走り抜けた。
「キャロルさん!!」
いきなり呼び止められキャロルの心臓が飛び跳ねた。
よく聞く愛らしい声に恐る恐る後ろを振り向いた彼女はレニの姿を見るなり思わず叫んだ。
「うわあぁぁ!! 何だそれ! 可愛すぎるでしょ!」
的外れな言葉を叫びながらキャロルはブルブルと首を振った。
「いやっ違う! そうじゃなくて…レニ! 何でこんな所に居るの? しかも、そんな……そんな超可愛らしい恰好で!」
「これは…ハルトが買ってくれたんです!!!」
「ハルト? あのバカ男! ちょっと! 何で女の私より可愛らしい服を選んで着せてるのよ! それって…それって卑怯じゃない? うわぁぁ! 付け尻尾まで付いてるし! ヤバ! レニ! ヤバ! ほらこっち来てごらんギュッてしてあげるから! さぁミケニャンコのレニちゃん!! ちっちっちっちっ……」
「おいおいおい! 違うだろ! 話がすげぇ逸れてるぞ!」
いつの間にか的を大きく外した会話になっている事に気付いたバドルが思わず飛び出した。
『ハルト』の言ってた通りキャロルの頭の中が思ったより軽い事を確信しながら二人の間に割って入る。
「えっ? ちょっと何で専属何でも屋までこんな所に…」
レニの予想だにしない愛らしさに鼻息を荒くしたキャロルが初めて現状に気付いた。
「えっ? えっ? 何? 何で?」
バドルの背後のレニが申し訳なさそうに下を向いていた。
「あの、キャロルさんが心配で…レニ、バドルさんと……」
(付けられてたあぁぁぁ?)
顔を真っ赤にするキャロルの心情を悟ってか、レニは「ごめんなさい」と呟くとバドルの前に歩み出てキャロルの顔を不安そうに見上げた。
「キャロルさん。ヴラドさんとあいびきしてたんですか?」
突きつけられた質問にキャロルの顔が耳まで赤く染まる。
「あ、逢引って…どこでそんな言葉覚えたの。違うのよ。そういうんじゃなくてね」
「あれは逢引だろう」
「違うわよ!! 何なのあんたは! ちょっと! レニが泣いちゃうでしょ!」
「あんたハルトの補助士っつってか、口頭契約か?」
「ちっ違うわよ! ちゃんとカードだって……」
「カード? ブラックカード取得してんのか!?」
いきなり真面目な表情になったバドルに思わずキャロルは言葉を止めた。
キャロルに変わってレニがバドルを見上げる。
「カードって…取得しちゃダメなんですか?」
「ハルトがライセンス取らせたんじゃ、尚黙ってらんねぇな」
そう言えばヴラドも専属補助士のカードについて意味深な言葉を言っていた気がするが、キャロルは気丈にもコートの内ポケットから漆黒のカードを取り出しバドルの前に提示した。
「何よ! 何か文句ある? あいつが薦めたのよ! これが無いと不便だって言ってね!」
それを確かめるように見つめるとバドルは極めて真剣な眼差しを向ける。
「あんた。特A以上の狩人がサポーターにカード持たせる意味知ってんのか?」
「えっ? だから専属の…」
最後まで聞く前にバドルが少し声を荒げた。
「よく考えろ! こいつは特Sのカードだぞ? このカードと補助士本人が居れば狩人が居なくても銀行から金を自由に下ろせるんだ!」
その言葉にキャロルとレニは身を凍えさせた。
「ちょっ…ちょっと待ってよ。紹介と換金だけじゃ……」
「違う。専属カードってのは狩人の保険なんだよ。狩人が死んでも後の事に支障をきたさないように補助士に全てを相続させるっつうとんでもねぇ契約証だ」




