黒灯台の店
レニの指示で中奈落の手前にバイクを止めたバドルは、言われるがまま、近場の建物の影に身を潜めた。
「おいおい、一体誰を探偵ごっこの餌食にするんだ?」
レニに習い、身を屈めるとバドルは視線の先に目を向けた。黒い街灯のすぐ前にある建物には見覚えがある。
「おいおい、あの店は止めとけよレニちゃんよぅ」
「え? ご存知なんですか?」
「ああ、有名だぜ。あれは『黒灯台の店』って言ってな。直接依頼人から依頼を受ける狩人が店主を勤める店だ」
「店主って…もしかしてこの間レニとキャロルさんを助けてくれた」
「おお! 覚えてっか? クロムウェル・ヴラド。紹介場を通さねぇで直に依頼を受けるからよ。どんな仕事でも請け負っちまうんだ。あいつは人助けのつもりとか言ってるが……… 人助けとは程遠い依頼を持ってくる客も居るからな。まぁ強いて言やぁ極めて好戦的な何でも屋だな」
雪に霞む店を見つめながらレニは「でも」と口を挟んだ。
「とてもいい人に見えましたけど」
「かぁ~。レニちゃんは優しいねぇ。だけどそういう純粋な心がコロッと騙されちまうんだよな。特にあいつは女受けする顔してるしな」
そう言うとバドルは
「レニちゃんのパパもまぁ、イケメンっちゃぁイケメンだけどよ。まぁ背が小っせえのは大目に見ても、女心分からなさそうだしな。ワイルドな男が好きな女はハルトの方だろうが、知的さや繊細さを求めてる女ならヴラドだと思うぜ?」
「知的…ですか? キャロルさんは知的さを求める人だと思いますか?」
レニの言葉にバドルは「う~ん」と考え込んだ。
「あのエッチな身体の補助士は気が強ぇからなぁ。ハルトとぶつかり合っちまってねぇか? まぁ、どっちかっつーとレニちゃんのパパと上手くいくタイプは…少しボケーっとした天然お嬢様って所かな」
以外に当たっている見解を述べながらバドルは迷い猫のような視線を向けるレニに向かって慌てて手を振った。
「おいおいどうしたぁ? そんな顔で見るなよ。オジサンすごく悪い事言ったみてぇじゃねぇか。一緒に住んでるって事はそこそこ上手くやってるんだろ?」
「そうなんですか? レニは分からないから」
「そりゃそうだよ。ハルトもまんざらじゃねぇみてぇだったしよ。まぁ外見的にはな……」
頭はともかく…と言っていた気がするが、とりあえずバドルはその事を触れずにレニの背中を慰めるようにポンポンと叩いた。
「しかしレニちゃんは本当にあのキャロルっつう補助士が好きなんだな」
その言葉に顔を赤らめながらレニは頷いた。
「キャロルさんは一番初めに、泣いてたレニを優しく抱き締めてくれたんです。レニ、ママの事知らないから、きっとママってあんな感じなんだろうなって思って……暖かくて、柔らかくて、キャロルさんはお姉さんにしてって言ってるけど、やっぱりレニはママがよくて」
顔を桃色に染める小柄な少女を見つめながらバドルは涙を啜った。
「ホントにいい子だなぁレニちゃんは。ほれ、飴ちゃんだ。喰え」
再びポケットから取り出した飴をその手に握らせるとバドルはうんうんと頷きながら鼻水を啜った。
「本当によぅ。あのハルトが男手一つで、娘をこんなにいい子に育てられるなんてよぅ。奇跡たぁこの事だな」
ふとバドルは涙目で霞む視界に目を落とすと素晴らしい反射神経で地面に伏せた。
「え? どうしたんですか?」
「しぃ…ほれ見てみろ。黒灯台の店から誰か出て来るぞ」
視線の先を追うと店の扉が開き、中から見覚えのある背の高い女が姿を現した。




