重すぎる要求
危なかった。
あまりにも目の前の可愛らしい少女が可愛らしい笑顔と声でさらりと言うものだからスルーする所だった。
「ちょ…特Sって伝説のクラスよ?特…Sって」
狩人のクラスは大きく分けて七階級に分かれている。
まず一般の狩人はB級でその下がC級。それより劣るのがD級で駆け出し初心者はE級となる。
五年でE級から上へ上がれない者は不適切として狩人の位を剥奪されるが……(昨日の狩人のように金に物を言わせて狩人のライセンスを持っている奴もいる)A級で超一流。
S級になると億単位の獲物の紹介が可能になり、功績と一定の収入を超えた場合に限り、特Sの称号が与えられる。それ故に狩れぬものががないという程の超逸材だ。
現在特S級狩人として世に知られているのは宮廷狩人長と…噂ではその他に一人居ると聞いたが、レニの言葉が正しければ、その一人が彼女の父親という事になる。
「まっ…まさかぁ。レニちゃんの冗談に騙されちゃう所だったわぁ。特Sなんてそんなねぇ」
「本当ですよ!何回か王宮からお誘いも来ましたけど…ハルトは、そんな型にはまるタイプじゃなくて…社交的でもないから…」
ふとレニの視線がキャロルを向いた。
「あっ」
「えっ?」
「そうだ!キャロルさんハルトの専属サポーターになりませんか?」
「ちょっ…専属って…」
その場しのぎのフリーサポーターと違って専属サポーターはサポーター業の中で最も安定した職種だ。キャロルが夢にまで見たスカウトの言葉だが…
「そりゃ…今は無職だから構わない…って言うか無理でしょ」
「何でですか?お部屋も余ってるし、ここに住んでもいいですから!生活費も家賃もいらないですよ?レニだけじゃハルトの報酬使い切れないですし」
「いやっ!ものすごくあり難い言葉よ?そりゃこっちだって専属になれるものなら…だけど私じゃ役不足もいい所よ」
第一レニの言葉を聞いているとハルトという男はかなり癖のある人物らしい。そんなのと一つ屋根の下で暮らしたら
…いくら娘も一緒とは言え…
「大丈夫ですよ!ハルト、人助けなんて絶対しないタイプなんですよ?それなのに大して高額でもない魔族を狩ってまでキャロルさんを助けて、しかも家まで連れて来たなんて、きっとハルトお気に入りなんですよ」
「うわっ!大して高額じゃないって五百万の首を狩っておいて何て罰当たりな事を…」
一緒とは言え確実に貞操が危険にさらされる。
しかし…
キャロルは自分の手を掴むレニを見つめた。その瞳は切実でとても必死だった。
「ちょっと何?どうしたの?たった一人で特S級に上り詰めた狩人に、今さら補助なんていらないでしょ?」
その言葉にレニは目を見開き、しばらくキャロルを見つめると椅子に腰掛けうつむいた。
「ハルト、レニをとても大切にしてくれるんですけど…でも…」
そこで少女の言葉が止まる。
しばらくして微かな笑みを浮かべるとレニは再び「でも」と呟いた。
「すごく残酷で…魔族よりももっと怖くなる事があるんです。レニ一人じゃ止めたくても止められなくて」
微かに笑顔を浮かべているが、ひどく悲しそうなその微笑にキャロルは掛ける言葉が見つからなかった。




