補助士カードのランク
「はぁ! 走った走ったぁ。子供って凄いですよねぇ」
孤児院の子供達としばらく走り回っていたキャロルは息を整えながら空を見上げた。
どんよりと曇っているが心はやけに清清しい。
「やっぱり女性がいらっしゃると華がありますね。子供達もすごく喜んでました」
後ろから声を掛けられ、キャロルは顔を真っ赤にしながら俯いた。
子供達との追いかけっこで夢中だったが、改めてヴラドを見るとやはり心が跳ね上がる。
「おにぃちゃん。コレ」
ヴラドの足元に駆け寄ってきた少年が漆黒のカードを持ちながら立っていた。
「おや、これは?」
「あっ! ヤダそれ、私のライセンスです。内ポケットにしっかり入れといたのに落としたんだ」
カードの後ろを眺めるヴラドの眼鏡の奥の瞳が一瞬揺らいだ気がしてキャロルは首を傾げた。
「あ、あの、ヴラドさん?」
「ああ、すいません。はいどうぞ」
再び微笑む瞳にキャロルが頭を下げ、カードをコートの胸ポケットにしまう。
「ブラックホースは大切にしてくれますか?」
「えっ?」
いきなり問われてキャロルは顔を上げた。
「彼は結構アクの強い方だと聞いてますから」
「そっ、そうなんですよ! 性格も口調も超ドSで、私なんかクソ女呼ばわりですよ! 名前を呼ばれたのだって初めの夜だけで………いやっ! 夜ってそんな色っぽい意味じゃなくて初めて出会ったというか…」
「それでも彼はあなたにこのカードを持たせる事を許可したんですよね」
「えっ? それは、色々不便だとかで…」
時折向けられる意味深な瞳に戸惑いながらキャロルはハルトとの関係を必死で弁解しようとしていた。
『ハルト』が『レニ』だとは口が裂けても言えない。
ハルトはともかくレニは戦う事を知らないひ弱な少女だ。
「補助士…ですか」
そう呟くとヴラドはフッと微笑んだ。
「あなたはまだこのカードの本当の意味を知らないみたいですね」
「えっ? だから専属補助士の………」
「そうですね。ただの『専属補助士』としての証明と言われればそうですが、それはシルバーカードまでに限られます」
「えっ? えっ? シルバーカードって?」
「ふふ、ご存知ではないのですか?」
意味深な言葉にキャロルは心のときめきも忘れヴラドの瞳を見つめ返した。
言われてみれば専属補助士としてのカードが存在する事も『ハルト』に言われるまで分からなかったが、カードにも色があるという事だろうか……
「補助士許可証があるのはシルバーから…つまりA級狩人から存在するものなのです。まぁ、A級でもなれる者は数多い狩人の一掴みですけどね。Aはシルバー。特Aはゴールド。そして私のSになるとプラチナになり、特Sになると、その通り、ブラックになります」
(ええ? マジ? 全然知らない……)
自分の無知さ加減に自己嫌悪に陥っているとキャロルの肩を大きな手がポンと叩いた。
「えっ! 何…ですか?」
「出遅れましたね。あなたがこのカードを持っていなければ、プラチナのカードを私が手渡してましたのに……残念です」
「えっ? えっ?」
訳も分からずおろおろしていると不意に遠くから耳障りな轟が響き、キャロルは身体を凍えさせた。
この音は…あのナイトストーカーと呼ばれるバイクの音だ。
「うわっヤバッ! す、すいません! 私、もう行かないと!」
ヴラドには近付くなと言われていたが、こんな所を見られたらとんでもない拷問にかけられそうだ。
キャロルは急いでお辞儀をすると門の外に走り出した。
「キャロル」
「!」
後ろからの声にキャロルの足が止まる。振り向くとヴラドが微笑みを浮かべながら優しく言った。
「時間があったらまた会いましょう。私は大抵中奈落近くの『黒灯台の店』に居ますから」
その言葉にキャロルは大きく頷いた。
急いでアヴェニール孤児院の門を出るとキャロルは急いで喫茶通りに走った。
数メートル行った所で何もなかったかのように歩いていると物の数秒で後ろから重苦しい音を立てる騎馬が横に付く。
「テメェ。いつ起きた」
「い、いつって数分前よ! だからアンタを探してこの通りに来たんじゃない!」
ヴラドに言われた言葉に浮き立つ心を抑えながらキャロルはいつもの調子で答える。
「数分前…か。…………まあいい。乗れ。帰るぜ」
いつものポジションにまたがるキャロルをしばらく横目で見つめるとハルトはそれ以上の事は触れずにバイクを急旋回させて家路に着いた。




