ダブルストーカー
「うおおお! 何という事ざましょぉ!」
アヴェニール孤児院の門構えに隠れながら、子供達の中で遊ぶ二人の大人を盗み見ていた狩人はボディガードを引き連れながら小さく呟いた。
彼は『金の王子』……いや、『金の変態王子』ゴールドだ。
この寒空の中、とある情報を仕入れてこの地区に足を運んだ所、キャロルとヴラドの密会? に遭遇したという訳である。
「キャロリンが…特Sハルトを差し置いてSのヴラドとあんな破廉恥な事を……」
破廉恥と言っても子供たちを含めた追いかけっこである。
「ふぉっふぉっふぉっ……リリアン嬢の予定を嗅ぎつけてまでこの遠い地区に足を運んだかいがあったざぁますね」
彼が仕入れた情報は愛しのリリアン嬢が、この区のエスペランザ孤児院に寄付金を持って訪れるというものだった。
「ふぉっふぉっ。後で特Sハルトに教えて差し上げるざぁますよ。あのオレ様男が自分のガールフレンドを別の男に取られたと知ったらどうなるざますかねぇ。そうざます。あんの特Sハルトのせいでミーの資産の三分の一が水の泡となるさますから! 一年もかけて……なんてヒドイ放置プレイざますか! ハルトの特Sは特大サディストの略ざますよ絶対」
「それならばいっその事一括で払ってしまえばよろしいのですのに」
ボディガードの言葉にゴールドは彼の頬を両手でつねり上げた。
「百億なんて金額、一括で払ったらミーのパピィに何て言われるか分かったもんじゃないざましょうが!」
「は……はひ。すいまへん」
「分かったならばいいざます! それじゃ行くざますよ! リリアン嬢はこの先の喫茶通りに向かったという最新情報が入ったざぁます」
そう言うとゴールドはキャロルたちに気付かれないように喫茶通り目指して意気揚々と足を進めた。
「ふんふふーん。ふふふふふーん」
鼻歌を歌いながらゴールドと二人のお供はリリアン嬢が向かったという、とある珈琲屋を目指していた。
「ふんふふーん。ふふー…………!! ノオオオォォォォォォォォォォォォン!!!」
珈琲屋が近付いた所でゴールドの鼻歌が絶望の悲鳴に変貌を遂げた。
珈琲屋の中には確かにリリアン嬢の姿があったが、彼女の隣には小柄な男の姿まであったのである。
「ノオオォォォォォン! 特大サディスティックハルト! ユー! 何やってるざますかぁ!」
珈琲屋に飛び込むとゴールドは大粒の涙を零しながらハルトの襟首に手を伸ばした。
それと同時にハルトの靴底が顔面を直撃し、吹っ飛ぶ。
「勘弁してくれ。ストーカーは一人で十分だぜ。オイやめろ。くっつくんじゃねぇよ!」
清楚なお嬢様とは程遠い程に積極的に迫りながらリリアンはハルトと同じ濃い珈琲を口に運び、究極に苦い顔を向けた。
「ハルト様。これ、美味しいですわね。このすっごく苦い所とか……」
「美味そうな顔か? それ」
面倒くさそうな顔をしたハルトの言葉の何を勘違いしてかリリアンは目を大きく輝かせた。
「いやぁん! そんなお優しい言葉……わたくしすっごく幸せですぅ」
「おいやめろ。だからくっつくんじゃねぇよ」
執拗に腕に絡み付いてくるリリアンを引き剥がした所に再びゴールドが飛び込んで来た。
「リリアン嬢! やめるざます! 特大サディスティックハルトは女をさんざん弄んだあげくにゴミのように捨てるさいてーな………」
そこに再びハルトの一撃が飛び、ゴールドは二回目の吹っ飛びを見せた。
「何なんだ? テメェはよ。んな事ほざいてると百億一括で収めさせるぞ」
しかし、当のリリアンはもじもじして顔を赤らめたまま夢うつつで呟いた。
「わたくしハルト様になら初めてを奪われても………きゃっ!」
どうやらリリアンはハルトがエスペランザ孤児院に寄付金を納めている事を知り、カメオの恩………というよりとても私的な理由で同じ場所に寄付しに来たらしい。
要はリリアンがハルトを追い、ゴールドがリリアンを追ってここに集まったようだが、ストーキング能力としてはリリアンもゴールドも同レベルだという事だ。
「ったくうぜぇな。何でダブルストーカーに狙われてんだよ俺は。珈琲の味も楽しめやしねぇ」
二人を無視しながら珈琲代を支払うとハルトは店の扉に手を掛けた。
「ユー! 特大サディスティックハルト!! 人の恋路を邪魔してるからキャロリンにも浮気されるんざますよ! このっウーメンキラーがぁ!!!」
負け犬の如き最後の威勢の言葉にハルトが振り向いた。
「何言ってんだテメェ。キャロルがどうしたって?」
「ふっふぅ~ん! ざまぁみるざますぅ! キャロリンはSのヴラドと破廉恥な………」
「ヴラドだと?!」
いきなり機嫌が悪くなったハルトの威圧にリリアンとゴールドは短い悲鳴を上げた。
「アヴェニール孤児院か。あのクソ女、ヴラドはやめろっつったのによ!」
舌打ちをするとハルトは店を飛び出し、小走りに去っていった。
「ハルト様…何てワイルドなお方なんでしょぅ」
「りっ、リリアン嬢はワイルドなメンが好きざますか?」
うっとりするリリアンを見つめながらゴールドはワイルドな男を自分の中の目標に掲げた。




