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イケメンの再来

「喫茶通り。喫茶通り……と」

 立て看板を頼りに進みながらキャロルは『喫茶通り』と呼ばれる場所を探していた。

 孤児院の老婆が言うようにここの治安はレニが住んでいる狩人地区とは比べ物にならない程いい。

 しばらく進むとそこにもう一つの大きな施設が建っていた。通り過ぎる間際に何気に門を見てみるとそこには『アヴェニール孤児院』と記されている。

「へぇ、ここにもエスペランザと同じような規模の孤児院があるのね。『アヴェニール』……か。治安がいいからそういう施設が集まるのかしら」

 それにしても、ここの孤児院も無邪気な子供達が敷地内を走り回っている。

 これだけの子供が親を亡くしているのだから、治安がいいと言ってもあまり喜べるものではない。

 太陽の下でどんなに治安が良くても日が落ちると所詮は魔族の餌場だ。

 それを考えると狩人がどれだけ人々から頼りにされているのか分かる。

 中にはゴールドのように『なんちゃってハンター』も居るが……というか、見てきた所では『なんちゃって』の方が多い気がするが、本当の実力を持った狩人は『ハルト』と………

「え?」

 キャロルの足がアヴェニール孤児院の敷地内で子供達と戯れる一人の男の姿を見るなり止まった。

 子供達と戯れるのは『ハルト』に次いで名前を挙げようとした、あの人物だったからだ。

「ヴラド…さん?」

 ダークブルーのロングコートと背に担いだ巨大な銃。

 しかし子供達と遊ぶその顔は屈託のない笑顔だ。

 子供達から問答無用で壁を作られる『ハルト』とは似ても似つかない。

 高鳴る鼓動を押し留めながらじっと見つめていると、向こうも、その視線に気付いたのかふと顔を上げる。

「うわっ! 目が合っ……」

 彼はキャロルを見つけるなり子供達に何かを言いつけると、一人で門の外で佇む彼女に歩みを進めた。

(ヤダ。どうしよ…)

 徐々に近付いて来る背の高い男の姿にどうしていいか分からずにキャロルは一礼をするとそそくさとその場から逃げるように足を進めた。

「あなた……」

「ひっ!」

 後ろから呼び止められキャロルの心臓がより一層高鳴った。

「あなた、ブラックホースの…えっと…ああ、まだ名前を聞いてませんでしたね」

 破裂しそうな心臓に手を当て、二・三回深呼吸するとキャロルはゆっくりと後ろを振り向いた。

「あの!」

 裏返った声に自分でもビックリし、キャロルは軽く咳払いをした。

「あっ…あの、キャロル・ホワイトソードって言います。本当にこの間はどうもお世話になりまして……」

「これは失礼。私も自分から名前を名乗っていませんでしたね」

 そう言うとヴラドは自分の手をキャロルの前に差し出した。

「クロムウェル・ヴラドと申します」

 差し出された手を取れずに呆然と眺めているとヴラドは「ああ…」と小さく呟いた。

「失礼しました。女性の手をそんなに容易く……」

 引っ込めようとした時、反射的に両手でキャロルが掴む。

「え?」

「あっ……あ、ぁぁぁぁあああ、ごっご免なさい! 私っ」

 急いで手を離し、一歩後ろに飛び退く。

(お、男の手だ! 男の手だわ!)

 自分より大きな骨ばった手の感触にキャロルは心底感動していた。

 『ハルト』も男だが、体は少女だ。確かに人格が変わった瞬間に筋肉が多少変動するが、元が華奢なレニなだけにたかが知れている。

 ヴラドの手は確実に女を守ってくれる逞しい男性そのものだった。

「何かお急ぎですか?」

「えっ! いえっお急ぎって程でもないですけど……」

「そうですか」と微笑むとヴラドは子供達に目を移し、優しく語りかけた。

「それでは私と一緒にあの子達と少し遊んでくれませんか? 何せここにはあなたのように若い女性職員が居ないもので……」

「えっ! 私? 私で大丈夫ですか?」

「子供はお嫌いで?」

「そんな事ないです! 将来は子供いっぱい欲しい……なっ!! …何でもないです!」

 とんでもない事を口走りながらキャロルは首を急いで振った。

 もう心と頭は大パニックだ。

 当初の目的の『ハルト探し』はすでに記憶から飛んでいる。

「それでは…」

 遠くでは子供達が新しい遊び相手に目を輝かせていた。

「っ……と……じゃぁ少し……」

 呆けながら手を引かれ、子供達の輪の中に足を進めると、キャロルはヴラドに聞いた。

「あっあの。ここの孤児院は…」

「ブラックホースとまでは行きませんが、私も一応Sを持っているハンターなので魔族を殺して報酬を得ていると、時折自分がとても残忍な人間に思えてくるんです」

「そんな……」

「ですから、この子達は私の唯一の心の拠り所……とでもいいましょうか」

 ハルトはヴラドが裏の顔を持つ男だと言っていたが、この優しげな笑顔を見ていると、とてもそんな人間には思えない。

 大体魔族にさえ慈悲の心を持つ発言はハルトには持ち得ないものだ。

(何よ。やっぱりアイツの勘はズレまくってるじゃない)

 そう思いながらキャロルは足元に絡み付いてくる子供達に「さぁ何して遊ぶ?」と張り切って声を掛けた。


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