国単位で一時間!!
「ん?」
「お気づきになりましたか?」
聞き覚えのある老婆の声にキャロルは目を覚ました。
頭には冷えたタオルが乗り、暖炉が赤々と燃えている。
「うわっウソ! また私やっちゃった?」
とんでもない金額が出てくる事は覚悟していたが、まさか国単位で金額を出してくるとは、油断した。
柱時計に何気に目を移すと意識が途切れてから大体一時間が経過していた。
(おお! 一時間! 国単位の金額で一時間! 何だ。私も進歩してるじゃない)
初めは五千万で半日近く、次に自分に割り振られた報酬の五百万で五時間気を失っていたが、それに比べると国規模で一時間は素晴らしい進歩だ。
百億でも意識を失わなかったし、それを考えると耐性が出来てきてるという証だろう。
「どうぞ。紅茶でも飲んで心を落ち着けて下さいな」
老婆が差し出してきた暖かい紅茶を口にしながらキャロルは自分の順応性に感心していた。
「うんうん。すごいすごい。私すご………」
紅茶を一口飲んで一人で頷いていると…………
「うわああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ひゃっ」
雄叫びを上げて立ち上がったキャロルに老婆も尻餅を付いた。
「ちょ、あいつは!? ハルトは何処に行ったの?」
「ブラックホース様なら、あなたが気付くまで外で時間を潰していると……」
腰を摩る老婆の手助けをしながらキャロルはホッと胸を撫で下ろした。
何故なら家からここまでバイクを飛ばして結構時間がかかったのを覚えている。
馬車を乗り継いで家路に着く事は出来るが、太陽の光りが弱いこの天気だと魔族の活動時間も早まる。
そうすると途中で足を失い、闇の中を再びさ迷い歩くしかなくなってしまうからだ。
念には念を入れて窓の外を見てみるとバイクだけが敷地内にひっそりと置き去りにされ、その周りで子供達がはしゃいでいるのが伺えた。
「うわわわわ! 危ない危ない! アレが倒れたらペシャンコに潰されちゃう!」
急いで外に飛び出すとキャロルはバイクの周りから子供達を遠ざけた。
「全く。アイツ徒歩で何処に行ったのよ」
バイクを見てみると大剣を備えられたままだが、銃は『彼』が持っていったらしく、無くなっていた。
「ホワイトソードさん。ブラックホース様なら多分ここから南に五百メートル程の所にある喫茶通りに行ったと思いますよ。美味しい珈琲屋さんがあるみたいですし。何ヶ月かに一度娘さんがそこで豆を調達していくんですよ」
「喫茶通り?」
「ええ。ここら辺は治安もいい方ですし、行ってみたらいかがかしら?」
ニコニコと微笑む老婆に頭を下げるとキャロルは重いバイクを端に寄せ、
「これ、危ないから小さい子に触らせないで下さい」と告げると案内された方角に歩き出した。
「まぁまぁ、献身的な奥さんだこと……」
キャロルの後姿を見送りながら老婆がホホホ……と微笑ましく呟いた。
どうやらキャロルの否定はやはり彼女には届いていなかったようだ。




