レニのとんでもない我がまま
レニの最大の我がままを見せる。と言われてキャロルが連れて来られた場所は、以外にも彼女がよく知る建物だった。
高価な結界柱を敷地四隅と五階建ての建物の屋上に一本。
計五本の結界で万全に守護された広い敷地には子供が好きそうな遊具が置かれ、この寒風吹きすさぶ寒空にも関わらずに元気な声が響き渡っている。
ここは一年半前に完成した『魔族によって孤児となった子供達』の家。
すなわち孤児院だ。名前は確か……
「エスペランザ孤児院?」
キャロルは頭に浮かんだ『希望』を意味する名の付いた最新の施設の名前を口にした。
一年半前、ここが完成した時は世界でも大きく報道された。
噂では狩人たちが金を出し合って建てたとか、世の子供好きな大富豪が建てたなど、数多くの逸話が残っている。
門の前でバイクを止めると『ハルト』はキャロルに持たせた大きなジェラルミンケースを受け取り、スタスタとその敷地内に足を踏み入れた。
急いでキャロルがそれを追う。
「ちょっと何? ここ孤児院よ?」
口も性格も悪いドS男とは不釣合いな聖地に彼女は戸惑っていた。
敷地で遊ぶ子供達もいきなり入って来たサングラス姿のガラの悪い男に敬遠の視線を向ける。
「あぁ、天使のような子供の警戒しまくってる視線がものすごい痛いんですけど」
危険人物扱いのハルトと一緒に居るキャロルにもその視線がチクチクと突き刺さる。
しばらくすると建物の中から物腰のいい老婆が現れ、ニコニコしながらこちらに近付いて来た。
「ブラックホース様。お久しぶりです」
ハルトに向かって愛想良く声を掛ける老婆にキャロルは目を丸めた。
「え? ええっ? 何? ちょっと状況が……」
老婆は後ろのキャロルに目を移すと深々と頭を下げた。
それに釣られ彼女も頭を垂れる。
「こちらのお綺麗な方は新しい奥様………」
「違います!」
考えるより早くキャロルがキッパリと答えた。
「キャロル・ホワイトソードです。こいつの補助士です! それ以上でも以下でもありません!」
相変わらずニコニコと笑いながら老婆は「そうですか」と答えるが、本当に分かっているのかは疑わしい。
「それで今日はどうなさいました? 自ら足をお運びになられまして……」
「今月分を持ってくるついでにこいつに教えておこうと思ってな。」
視線が向けられキャロルは「えっ?」と再び首を捻った。
大金の詰まったケースを受け取るとどこから見ていたのか、老婆の手助けに教員の男が現れ、一礼すると大切そうにそれを建物の中へ運んでいった。
「ブラックホース様、お茶でも…」
「いらねぇよ。適当に見て適当に帰る。アンタも引っ込んでな。この寒空じゃ老体に堪えるぜ」
年長者に対して物凄い物言いだが、老婆は顔色一つ変える事無く再び深々と頭を下げると教員の男に付き添われ、建物の中に姿を消した。
敷地内の隅に残されたキャロルはしばらくして隣の小柄な『ハルト』に訝しげに声を掛けた。
「ここ、何?」
「こいつがレニの史上最大の我がままだ」
「え? こいつって…どいつ?」
キャロルの言葉にハルトは広大な敷地に視線を泳がせた。
「ここのオーナーは『レニ』だ。俺が建ててやった」
その答えに一瞬キャロルの思考回路が停止する。
そして考える事数分キャロルはとんでもない悲鳴を張り上げた。
「えええぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「るっせぇな。耳元で騒ぐんじゃねぇよ」
「いやっ! そりゃ騒ぐでしょ! オーナーって……え? わけ分かんないんだけど! だってここは大富豪とか……」
そしてキャロルはハッと気付いた。
リリアンやゴールドと言ったきらびやかな大富豪に隠れてあまり分からなかったが、一回の仕事で億以上を稼ぐ特S狩人の称号を持つ『ハルト』も、要は大富豪の一人だ。
(そうだったわ。こいつ、私が来て五日足らずで既に百億五千五百万を稼いでるんだった)
妙に納得しながらキャロルは生唾を飲み込むと、恐る恐るハルトに聞いた。
「あんた…総資産って…どれくらいあるの?」
「……出て行く金もデカイからな。色々差し引いても……ん?」
しばらく考えると『彼』はいつものようにさらりととんでもない事を言い放った。
「小っせぇ国なら買えるんじゃねぇか?」
(くにぃ? 国単位? いやっ単位じゃないでしょ! 国って国……)
「! オイ! クソ女! ちょっと待て、テメェ………」
ハルトの叫びも空しくお決まりのパターンでキャロルは地面に突っ伏した。




