記憶の行動
家路の中でキャロルはハンドルを握る男に語りかけた。
「あんた。ハルト・ブラックホースって言うのね。それは、レニの苗字なの? それともあんたの…」
「誰からか聞いたのか?」
言葉を遮られるように聞き返され、キャロルはぐっと口を噤んだ。ヴラドに聞いたなんて言ったら間違いなく振り落とされる核心がある。
しばらく押し黙っていると以外にもハルトから話し始めた。
「餌として生を受けた人間には苗字はもちろん名前なんてもんもねぇんだよ。レニの名前も苗字も全部俺が命名した。特に考えて付けた名前でもねぇ。俺の中の俺にも分からねぇ記憶がそう言ってただけだ」
「記憶………」
「テメェみてぇなクソ女を拾っちまった理由も分からねぇんだ。くだらねぇ事検索するんじゃねぇ」
『ハルト』が身に付いた記憶を頼りに行動しているのなら、私もその記憶の一つに組み込まれているのだろうか…? でも私には物心ついた時からの記憶しかないし、こんなドS男の存在も知らない。そう思いながらキャロルは改めて前の『男』に言った。
「私の苗字は…」
「ホワイトソード」
キャロルの言葉が終わる前にハルトが答え、彼女は「えっ?」と聞き返した。
「テメェ、ライセンス取得する時にそういう風に書いてただろ。俺のこともライセンスで知ったんじゃねぇのか?」
言われてキャロルは初めて気付き、コートの内ポケットから黒いカードを出してみる。後ろには、写真の横に『Halto.Blackhors』『Carol.Whitsword』の名が堂々と書き記されていた。
(うおぉ! 全然気付かなかった! そう言えば私普通にフルネームで署名したじゃない!)
「どうした。気付かなかったんじゃねぇだろうな。それならやっぱり誰かに…」
その言葉にキャロルは「はぁ?」と言い返した。
「きっ、気付かなかったわけないじゃない! そうよ! カードを見て改めて思っただけよ! ホ…ホホホホホホ!」
明らかにその場を誤魔化そうとした不自然な笑いが日の暮れかかった夜空に響いた。




