変態と淑女
家から相乗りの馬車を引き継いで一時間、高級住宅街から離れるように中奈落と呼ばれる場所がある。
キャロルたちが住んでいる場所は、遥か昔に魔族たちが『闘神種』と呼ばれる脅威から逃れるために建造した巨大遺跡の頂上にある。
魔族から身を守るために、古代の人々は高層ビルのように乱立する巨大遺跡の集合体の上に土を盛り、家を建て、街を作り、国が出来たのだ。
そして『奈落』と呼ばれる場所は、遺跡と遺跡の間隔が五十メートルを越える広い隙間を差す。
橋が掛けられている場所以外は高さ五十メートルのコンクリート壁に囲まれており、隣区間の街に移動できる橋の通行が許可されているのも日が昇っている時間帯に限られていた。
その橋の手前にゴールドと、屈強なボディガード、そして清楚な感じの女性がキャロルの到着を待っていた。
「キャァロリン! ここざますよ! ここ!」
言わなくても分かっている。…というかそんな大声で呼ばないでくれ。恥ずかしい………
そう思いながらキャロルは小走りで三人のもとに駆け寄った。
「おっそいざますよレイディを待たせるなんて失礼千万もいい所ざます!」
(まだ約束の時間の五分前だろうがぁ!)
今日一度目のムカツク台詞に顔をしかめながら、キャロルはゴールドの隣に立つ女性に目を移した。
「この方はどちら様よ」
その言葉に顔を真っ赤に染めたゴールドが上ずった声で答える。
「こ、このお方は、リリアン嬢ざぁますよ! こっ…今回の依頼主の娘さんざぁます」
女性が淑やかに頭を下げる。
「今回はご足労いただき。誠にありがとうございます。私事で申し訳ございませんが、中奈落という危険な場所へ降りてまで探して下さるとの事で…何とお礼を申し上げればよいのか…」
「えっ?」
寝耳に水とはこういう事だ。自分はこの依頼を断るために来たのだが、リリアンという女性の話を聞く限り、すでに話は付いてしまっているように思えた。




