変態依頼と男(?)の勘
「うわっヒッドイ顔」
翌朝、洗面台に立ったキャロルは鏡の中の自分を見て、悲嘆の声を上げた。髪はボサボサで顔は疲れきり、目は寝不足のために腫れぼったくなってしまっている。
昨晩、ハルトに言われた事が頭の中をグルグル回ってしてまい、一睡も出来なかった。
「ヴラドさんがそんなわけないじゃない。……いやっ別に一目惚れとかそういうものじゃないのよ。ただ私の周りにはいけ好かない男だらけだから、久しぶりに異性に癒されたというか……」
一人でぶちぶちと文句を垂れながらキャロルは昨日購入したばっかりの歯ブラシに歯磨き粉をニュッと押し出した。
「勘って何なのよ。女の勘じゃヴラドさんはとてもいい人に決まってる」
そこまで呟くとキャロルは歯を磨きながら「ん?」と考えた。
(ハルトの勘は……男の勘って事になるのかしら)
考え込んでいると鏡に映る自分の後ろから白いシャツ姿のレニが欠伸をしながら姿を現した。キャロルに比べると、解いた髪にこれといった寝癖も無く、顔もすっきりとしている。
「あぁ。おはよーございます。キャロルさーん」
目をごしごしと擦りながら隣に並んだ少女の顔を鏡越しにキャロルは口をすすぐと、はぁ……と溜息をついた。
「レニ、あなたは寝起きもしっかりしてるわね」
「そうですかぁ? キャロルさんだって綺麗ですよ」
「そっそれはお世辞?」
その言葉にレニは首を横に振った。この顔はお世辞を言っている顔ではない。
「ほんと、ハルトとは全然違うわね」
洗った顔を拭きながらレニは現実のキャロルを見上げた。
「キャロルさん。今日、レニお家で待ってていいですか?」
「え? 何か用事あったっけ?」
「ほら、昨日のゴールドさんと北の中奈落上って所で待ち合わせてたじゃないですか!」
そういえば……そうだった。頭の記憶から完全に欠落していた約束を思い出すとキャロルは思わず頭を抱えた。
「あぁ。そうだったわね」
(何が悲しくてあの変態と待ち合わせなくてはならないのだろう)
「えっでも、どうしたの? 体調が良くない?」
心配そうに少女を見下ろしながら、その額に手を当ててみるが、熱はないようだ。
「えっと、違うんですけど。あの、何かハルトが待機してるような感じがして………昨日みたいな事があったら多分すぐに出てくる気だと思うんです」
つまり、いつでも動けるようにスタンバってるという事だろうか………
「こういう時はレニから入る情報が全部ハルトに筒抜けになるんで、その、ゴールドさんはとても独特な人だから……」
「そうね。完璧に出て来るわね」
酒場でハルトが言っていた物騒な言葉が頭を過ぎる。「今度会ったらぶち殺す……」今日がゴールドの命日になる可能性大だ。
「いいわよ。私はパッパッと断ってすぐに帰ってくるから」
申し訳なさそうに「すいません」と呟く少女の頭をポンポンと撫で、キャロルは「気にしないで」と微笑んだ。
そもそもキャロルもいつ出てくるか分からない『ハルト爆弾』を抱えて街を歩く勇気はない。しかも、完璧な起爆装置になる要因の一つとの待ち合わせだ。




