狩人の勘
「くっ」と悔しそうに唇を噛み締めるも、ハルトも仕方無しに椅子に腰を下した。
「全く、あんたはもう少し紳士になれないの? 彼とは雲泥の差だわね」
「彼?」
自然と飛び出した言葉を聞き返され、思わずキャロルの顔が真っ赤に染まる。しかし、その意味深な言葉をスルーしてくれるほど目の前の人物は優しくはない。
「テメェ、俺が寝てる間にレニに変な遊び教えたわけじゃねぇだろうな」
「へっ変な遊びって! 教えないわよ! ただ、ちょっと絡まれた所をヴラドって狩人に助けられただけで…」
耳まで真っ赤にしながらぼそぼそと小さく答える。あの爽やかな笑顔は思い出すたびに幸せな気持ちになる。
しかし、それとは対照的にレニの姿をした『青年』はさらに眉を吊り上げた。
「ヴラド? あの眼鏡野郎と接触したのかテメェ」
「め、眼鏡野郎って失礼ね! 彼が居なかったらレニも…」
その言葉を遮るようにハルトはナイフとフォークを乱暴に置いた。その衝撃で皿が真っ二つに割れる。
「いよいよになったらレニは俺が守る! あんな腐れ野郎に恩なんか作るんじゃねぇよ!」
「よく言うわよ! ゴールドが来ても目を覚まさなかったあんたが…」
はっとしてキャロルは口を噤む。
今のはヤバイ! 勢いとはいえヤバい事を言った。
「ゴールド? テメェ! あの変態野郎を部屋に入れたのか?!」
「いっ入れないわよ! 入れるわけ無いでしょ!」
しばしの沈黙、目の前のハルトの視線を避けるように堅い肉をひたすら切り続けていた彼女は「はぁ……」と息を整えると、とうとう今の空気に耐えられずに顔をあげた。
(ちょ……何なのよ。その一方的な敵意は……私、何か悪い事言った?)
ゴールドの事を暴露したのは失敗したが、どうやらハルトはあの変態よりもヴラドの事が気に食わないようだ。名前を出した途端に一気に機嫌が最悪の状態になった気がする。
「そ…そんなに毛嫌いしなくてもいいじゃない」
「ああ? 何だと?」
鋭い視線を交わすようにキャロルは再び下を向きながらぶちぶちと文句を並べまくった。
それをしばらく眺めると、ハルトは舌打ちをし、コップの水を一気に飲み干す。
「テメェがどんな男に惚れようが構わねぇ…」
「ほっ惚れっ…………」
思いも寄らない言葉にキャロルは思わず真っ赤に染まった顔を上げた。
「だが、ヴラドはやめろ」
今まで見たことが無いほど真剣な眼差しにキャロルは生唾を飲み込む。
「ほっ惚れたってわけじゃないけど、何を根拠にそんな事言うのよ」
「根拠なんてねぇよ。強いて言やぁ狩人としての勘だ。奴は腹の下にどす黒いもんを隠してる目をしてやがる。おおやけに正体は現さねぇがな…」
「かっ、勘って!」
「とりあえず…」と呟くとハルトは最後に一つ、鋭い視線でキャロルを突き刺すように言い放った。
「レニを悲しませるような事だけはするんじゃねぇぞ。その時は冗談抜きで排除するからな」




