毒舌ドS男への初勝利
夕食が二人分テーブルに並んだ頃、ようやく部屋に引っ込んだハルトが姿を現した。服装と髪型はいつもの通りに戻っている。
そ知らぬ顔でテーブルに着くハルトと対面したキャロルは「いただきます」を言う前に『レニ』が来るのをじっと待った。
……だが……
目の前のレニは『ハルト』のままフォークを手に取り……
「うおぉぉい!!! あんた! 何で引っ込まないのよ! 食事の時ぐらい心地よく過ごさせなさいよ!」
美味しい料理を食べながらお気に入りのレニと華麗に咲かせる雑談。その楽しみの一時がぶち壊されキャロルは両手でテーブルを叩いた。
男らしく豪快に肉を口に運ぶ『ハルト』はチラリと目の前の女をみると「はっ」と笑い飛ばし小さく呟いた。
「ざまぁねぇ」
(ざっ……ざまぇねぇって! こいつわざと……っ!)
怒りに任せぶん殴りたい気持ちだが、何せ体はレニのものだ。ゴールドのようにはいかない。
引きつった笑みでゆっくりと席に着くとキャロルは目の前のハルトをにらみ付けたままパンを勢いよく噛み千切った。
「上等よ。受けて立とうじゃないの」
ピリピリとした静寂の中、ナイフとフォークが皿にあたる音だけを響かせ、通夜のような時間が刻一刻と過ぎて行く。もう既に肉の味は感じていない。ただひたすら命の糧である物体を取り込むことに徹したキャロルの耳にとんでもない言葉が響いた。
「硬ってぇ肉…………」
かなり小さな呟きだったが、それ故にキャロルはぶち切れた。その誰に言うでもなく自然と飛び出した言葉はまさに『本音』だろう。
「わっ悪かったわねぇ! アンタが肉を焼いてる時にいちゃもんつけてきたから焼き過ぎたわ!」
「っんだと! テメェこの肉がゴムみてぇに堅くなったのは俺のせいだって言うのか? ああ?」
「ごっ…ゴム…っええ! あんたのせいよこのバカ男!」
「っざけんなよクソ女! テメェ俺の補助士だろ! 主人の体を支える食いもんぐらい、まともに作れるようになれよ!」
「昨日はまともでしたぁ。レニも喜んでくれましたぁ!」
「はぁ? レニは気ぃ使って『美味しい』つってんだよ!」
その言葉に一瞬キャロルは怯んだ。
(ええっ? マジ? うっそ美味しくなかった?)
しかし、すぐに頭を振るとその不安を拭い去る。
「おお~。あっぶない。危なかったわ。危うくアンタに騙される所だったわよ」
「っんだと?」
「レニは昨日自分からシチューを3杯もお代わりしてましたぁ。不味い料理を自分から進んで3杯もお代わりしますかぁ?」
「なっ………3………」
その瞬間キャロルは感動のあまり涙が飛び出しそうになった。
(勝った! 毒舌に絶える事三日目で初めて勝ったわ!)
心の中でガッツポーズをしながらキャロルが満足げに椅子に腰を下し、ゴムのような肉に勝利のナイフを入れる。




