ドS女装
「落し物を拾って一億って、どういうことですかね」
ゴールドが帰った後、レニとキャロルは二人で夕食の準備をしながら一方的に託された依頼に頭を捻っていた。
ゴールドの話に寄ると、依頼の主はこの街でも有名な大富豪の娘からのもので、落としたカメオを拾って来て貰いたい…との事だが…
「アイツの依頼は無理でしょ。ハルトは絶対受けないわよ」
あの変態の依頼はとんでもないものだった。
何とハルトに同行してもらいたいとふざけた事を言い出したのだ。カメオは自分が探すから、その間だけ守ってもらいたい…と。
要は変態のボディガードをハルトがするわけだが……
「無理よねぇ」
「レニもそう思います」
ハルトは守るタイプではない。高い賞金の掛かった魔族の首を片っ端から狩っていく破壊タイプだという事は嫌でも分かる。
答えは明日、キャロルが特定の場所で待っているゴールドに届ける手筈だが、こんな馬鹿げた依頼をハルトに持ちかけるだけで、下手をすれば専属サポーター解雇を言い渡されかねない。
「絶対無理。もう独断で断るしかないわね」
こんがりと焼き色のついた分厚い肉を裏返しながらそう決断付けた時である。すぐ後ろから「おい」という低い声がこだまし、キャロルはフライ返しを床に落とした。
恐る恐る後ろを振り向くと、あきらかに不機嫌なレニ…いや、『ハルト』が鋭い眼光で彼女を睨みつけていた。
「お、起きなくていいのに…」
「テメェ。俺が寝てる間に何しやがった」
「な、何って…何?」
「見て分かんだろ! このふざけた服と髪型は何だって言ってんだよ!」
「えっと…え…ぷっ」
ハルトの全身を見ながら、キャロルは思わず吹き出した。レニの時にあんなに可愛らしかった姿が、ハルトになると完全に…
「ニュー…」
そう言いかけたキャロルの口をハルトが思い切り押さえつけた。
「おいクソ女。俺を妙な『ハーフ』にしやがったら奈落の底に突き落とすぞ」
眉間に深い皺を刻む『男』の言葉に何度か頷くとハルトはようやくその手を離し、横目でにらみつけたまま部屋に引っ込んでいった。
扉が閉まり、しばらく部屋から出てこないのを確認するとキャロルは腹を抱えて声を殺しながら笑った。
「ぷっくっくっ…ヤバ、何が一番って、声がヤバ…あの恰好であの声はマジヤバ…」
落としたフライ返しをすすぎ、焼けた肉を皿に盛り付けながら、湧きあがる爆笑を必死で押し留める。
素直でいい子なレニの時にあのいけ好かないドS男が絶対に着ないような服を着せてしまえば、それはそれで面白い。ささやかな復讐になる気がしないでもない。
下手をすれば命に関わるようなとんでもない悪戯だが、これは、癖になりそうだ。




