高給取りは支出も莫大
しばらくしてやっと胸の動悸が治まったのかレニは大きく息を吸い込んだ。
「もう大丈夫です。心配かけちゃってご免なさい。やっぱりレニじゃハルトの過去には触れられないみたい」
「いいのよ。私ももう聞かないわ」
微笑みの後ろに再び垣間見たレニの悲しみにキャロルは慰めるようにその頭を優しく撫でた。
そして、その頭を一度胸に抱き締めると勢いよく立ち上がり、袖をまくる。
「さってと…お腹空いたわね。今夜は私がご飯を作ったげるから、何か食べたいものはある?」
しばらくキャロルを見上げるとレニは再び屈託の無い笑顔を浮かべながら大きく頷く。
「レニ、何でもいいです。いつも自分で作ってたから…でも、キャロルさんが得意なお料理食べてみたいです!」
「オッケーよ! 任せなさい!」
腕まくりをしながら微笑み返すとキャロルはきょろきょろと周りを見渡した。
「えっ…と…こっちが第二キッチンだったわよね」
昨日の夜キッチンの壁が破壊されたため、今朝からは少し小さい第二キッチンの方を使っていた。
主要キッチンは現在分厚い鉄扉で隔離されているはずだ。
さすがは一流狩人の家で、昨日のような緊急事態を想定して建設されている事には驚いた。
何と一部屋一部屋が区間ごとに別れ、非常事態のときは天井から鉄扉が下り、その部屋を隔絶してしまうらしい。
キッチンもトイレもバスルームも全て各階に二個ずつ常備されており、配電も部屋ごとに独立している。いわば小型の要塞に近かった。
恐らく昨日のような隠し扉もあちこちに備えられているのだろう。
第二キッチンの方角へ踏み出したキャロルをレニの声が止めた。
「あっ大丈夫ですよ。多分、もう壁直ってます」
「えっ?」
「ハルト、多分修理を依頼したと思いますよ。外にある結界柱も四本全部新しくなってたし…」
「うそぉ!」
あれ程破壊された部屋が、半日足らずで元通りになっているはずがないと思いつつ、キャロルは主要キッチンに足を進めた。
今朝方まで閉じていた鉄扉が天井に収まっていた。
そして、木っ端微塵に破壊され、滅茶苦茶にされた場所は…
「マジ?」
何事も無かったかのように存在していた。
破壊された壁はもちろん、使い物にならなくなっていたシンクやオーブンも新しく備えられ、綺麗に片付いている。
「これって…」
「ハルトには専属の何でも屋さんが居るみたいで、家が壊された時に優先して修復してくれるんです。…レニはいくらか知らないんですけど、お金が結構高いみたいで…」
壁の修復代と新しい結界、二つ合わせて九億と知ったら恐らくキャロルは再び昏倒する事だろう。
(なるほどね…特Sともなると、こういう維持費が頻繁に出て行くのね。五千万で顔色一つ変えないわけだわ)
妙に納得しながらキャロルは冷蔵庫を開いた。
中身もしっかり補充されている。
そこから食材を何点か取り出すと彼女は後ろの少女を振り向いた。
「キャロルちゃん特製のシチューを作ってあげるからね」
自慢じゃないがキャロルも料理にはそこそこ自信がある。
何せここ数年、独身の貧乏一人暮らしで、どれだけ安い食材でどれだけ美味い物を作れるかを試行錯誤して来たのだ。
(大丈夫。見たことも無い高級食材ばっかしだけど…大丈夫)
そう心で唱えながらキャロルは包丁を手に持った。




