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思い出せない過去

 キャロルがカードをじっと見つめていると大きな息を吐きながらレニが隣に腰を下した。

「ふう、楽になったぁ」

「あら? レニ? レニに戻ってくれたのね! ハルトは? ハルトはもう出ない? 出ないわよね!」

「えっ? は…はい…ハルトは寝ちゃいました。何か今日はとっても疲れたみたいで、多分今夜は起きないと思いますよ」

 見た感じ、レニにも疲労の影が伺えるが、それは当然の事だろう。人格が

変わるだけで身体はずっと起きたままなのだから仕方がない。

「あなたも疲れちゃってるわね」

「はい、基本的にハルトが街を歩く時はこう、胸をギュッて締め付けるんで、よく苦しくないなーって思うんですけど…レニはちょっと苦しくて、多分キャロルさんみたいにオッパイが大きくならない原因はここにあると思うんですよね」

「オッパイって…あまり大きくても不便よ。気に入った洋服があっても胸がきつかったり、太ってるように見えないような服を選ぶ手間もあるし…」

 少年のようにシャープな身体は、それはそれで魅力があるものだが、どうやらレニは胸が大きい女性に憧れているらしい。

「あなたはそれが可愛いのよ」

 キャロルの言葉にレニが顔を赤らめて「へへへ…」と笑みを零した。

「あの、キャロルさん、そのカード、レニにも見せてくれますか?」

「ええ! いいわよ。専属サポーターって夢だったけど、まさか特S級の相方になるとは思わなかったわ」


(いけ好かない男だけど…)


 と心の中で呟きながらキャロルは黒いカードを手渡した。

 レニは一通り眺めるとカードの後ろの写真を見ながらそこに写っている自分の姿にそっと指を滑らした。

「どうしたの?」

「いいえ、あの、レニ、こんな風にハルト見るの初めてだから…」


 確かにそうだ。

 レニとハルトは同一人物な訳だから、互いに顔を合わせる事はないだろう。


「どう見える?」

 キャロルの質問にレニは静かに微笑んだ。

「何か…懐かしい感じがします」

「懐かしい?」

「はい。あまりよく分からないんですけど…何かすごく懐かしい…」


 意外な言葉だった。

「不思議」なら分かるが、懐かしいなんて…


 キャロルは思わず『ハルト』には聞けない質問をレニに投げかけた。

「レニ、ハルトの過去って…知ってる?」

 しばらくキャロルの顔を見つめるとレニは静かに首を横に振った。

「レニには分かりません。…だけど、ハルトが言うには…レニのパパはやっぱりハルトで…でも、それはレニが生まれるずっと前の過去の記憶で…」

「あなたが生まれるずっと前って…」

「それは、レニにもハルトにも分からなくて…ただ、初めてあった時にこう言ってくれたんです『俺は何があってもお前を守らなくちゃいけねぇ』って……」

 自分の胸に手を当てながら彼女は拳をギュッと握り締めた。

 息が荒くなり、歯を食いしばる彼女の姿に慌ててキャロルが背中をさする。

「ちょ…ちょっとどうしたの? どこか苦しいの?」

「い、いいえ。でもハルトの過去を探ろうとするとここがいつも苦しくなって…」

 自分の心臓に手を当てながら彼女はキャロルに苦しそうな笑みを向けた。

「でも、きっと…ハルトの過去はレニなんかよりもっと辛い過去だったと思うんです。ハルトも詳しい過去は思い出せないみたいだけど、今、レニとハルトは一つだから…何となく分かるんです」

(どういうこと? これもレニが作り出したハルトとしての幻影なのかしら)


 生まれながらに魔族の餌となる事を運命付けられた過酷な境遇から自分を守るために、レニがそれより辛い過去を持つもう一人の人格を作り出した。…そう考えられなくもない。


 全てをハルトという別の人間に置き換えて?


 …しかし、やはりただの多重人格症としては片付けられないような変化をレニは見せている。


 ハルトが『レニ』と『俺』を混同するなと言っていたが、やはり『彼』の言葉は謎が多すぎる。


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