別人格の少女に 『お譲ちゃん』 は禁句です。
「…テメェ何やってんだ?」
「うわっ! あんたナイスタイミングよ!」
キャロルの前にはサングラス姿のレニ(ハルト)が突っ立っていた。
「首はどうした」
「えっ? 首? 首なら席に…」
酒場の隅の席に五千万の首が入った箱が寂しそうに置き去りにされている。
「ちっクソ女が。誰かに盗まれたら賞金がパーだぞ」
酒場の雰囲気などお構い無しでハルトはツカツカと五千万の首が置かれているテーブルに歩み寄った。
「ちょ…ちょ…」
急いでキャロルがその後を追い、『彼』の肩を掴んだ。
「何だよ」
「何だよじゃなくって、あいつ! あいつよ!」
「あぁ? どいつがどうしたってんだよ」
「あいつ! あいつが私を餌にして、尻まで触って逃げた変態なのよ!」
男達の中心でいまだ股間を押さえるゴールドを一度見ると、ハルトは興味なさげに首の入った箱を肩に担いだ。
「次は胸でも揉ませてやれよ」
「なっ…何言ってんのよあんたは!」
「るっせぇな。それより登録しにいくぞ。ったく面倒くせぇ」
箱を手渡され、一人でスタスタと歩いていく『彼』をキャロルは急いで追いかけ、自分より一回りほど小さい背中に身を潜めた。
自分が撒いた種とはいえ、この雰囲気はどさくさにまぎれてスルーするしかない。
「おい! ちょっと待ちな」
扉を開こうとした二人の前にあの大男が立ち塞がっていた。
遥かに高い位置にある顔を見上げながらハルトはサングラスを外すとコートの胸ポケットに掛け、大男を睨み付けた。
「何だテメェ…」
「その後ろの女、置いてきな」
「あぁ?」
背中に隠れながらキャロルはその頭を首がもげる勢いで横に振る。
「別に構わねぇけど…」
その言葉に思わずキャロルが叫んだ。
「何言ってんのよ!!! バカ男! あんた私を見捨てたらレニがまた泣くわよ!」
後ろからハルトを揺さぶりながら必死で訴える。
こんな所で、こんな状態で置いて行かれるわけにはいかない。
そして、レニの名前が効いたのか『彼』はものすごく面倒くさそうに再び大男を見上げた。
「別の女捜しな」
そう呟き、ドアノブに手を掛けたハルトの肩を大男が掴む。
「うちの旦那はその女を御所望なんだよ。おじょうちゃん」
「………………」
大男の言葉にハルトの肩がピクリと動いた。
(ちょっと…ヤバくない?確かに身体はお嬢ちゃんだけど…今のレニは…)
キャロルの嫌な予感が的中した。
「てめぇ…誰の了承を得てこの身体に触ってやがる」
「ああ?」
明らかに不機嫌な『男』の声が不気味に響き渡った。
それと同時に強烈なパンチが大男の鳩尾を抉り、身体が宙を舞う。
大男の身体は数メートル吹っ飛び、狩人たちがたむろするテーブルを破壊した。
「汚ぇ手で触るんじゃねぇって言ってんだよ!」
「わわっ…ちょっ…ハル…」
ハルトの中では可愛いレニが触られた事になっているのだろう。
ぶち切れた『彼』は肩を慣らしながら武器を構える男達の元に足を進めた。




