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お隣の氷姫は、ぼくにだけ微笑む  作者: こねこねこ
第4章 桐島エリスの消失

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桐島エリスの消失⑤:氷の姫君、動揺する

 三日後――。

 ぼくはスマホを手に着信を待っていた。

 現在、姉さんが桐島家を訪問しているはずだ。

 そこで先輩に接触し、姉さんのスマホを渡してもらう。

 そう言う算段になっている。

 すると、スマホが振動する。

 姉さんからの着信かと思ってみてみると――。


『イケボかるたを作ったんだけど、販売していい?』


 澪からのメッセージだった。

 ぼくは『ダメ、ゼッタイ』とだけ返した。

 澪のことだから、既に作ってしまっているかもしれない。

 後で確認して、然るべき処置をとらねばなるまい。

 そう決心をしたところで、再度スマホが振動した。

 澪からの返事かと思ったが、着信だった。

 発信元は、姉さんのスマホだ。


「はい、佐藤です」

『……凪?』


 桐島先輩の声だった。

 姉さんはちゃんとやってくれたらしい。


「先輩、お久しぶりです」

『……お久しぶりです』

「時間がないので、端的に聞きます。隣の家に、戻って来てください」

『……それは、出来ません。無理矢理戻ったとしても、連れ戻されるだけです』

「それは、お父さんの意思ですよね?」

『はい』

「それじゃあ、戻ってください」

『話、聞いてました!?』

「勿論です。その上で言っています。先輩、戻ってきてください」


 少しの間、無言だった。

 電話の向こうで、先輩はどんな顔をしているのだろう。


『……凪』

「何ですか?」

『アナタは、どうして私に戻ってきてほしいのですか?』


 戻ってきてほしい理由。

 そんなことも言われなければ分からないのだろうか。

 秘密を共有した親友と一緒にいたいという気持ち。

 それを端的に表現するとすれば――。


「ぼくはただ、エロ本を先輩と一緒に読む時間を取り戻したいだけです!」

『ちょっ!?』


 電話の向こうで、先輩が動揺している気配がした。


『ここ、前田先生がいるのですけど』

「ああ、失礼しました」


 つい口が滑ってしまった。

 まぁ、本音も多分に含まれているからいいけど。


『お気持ちはありがたいのですが――ありがたい?』

「どうして疑問形なんですか?」

『エロ本を一緒に読みたいという気持ちをありがたがるのは、どうかと思いまして』

「それこそ先輩の望みでしょう」

『そ、そんなことはありません』


 また、無駄な意地を張っている。


『とにかく、凪に何かをしていただいたところで、無駄です。ここを出ても、また連れ戻されるだけです』

「そうかもしれませんね」

『軽い!?』

「でも、やってみなければ分かりません。だから――とりあえず、出てみましょう」

『でも――』


 先輩はまだ反論を続けるようだ。

 でも、声の勢いは明らかに衰えている。

 あと一押しだ。

 というわけで――。


「戻ってきたら、好きな本を朗読してさしあげます」

『今すぐ迎えに来てください!』


 ぼくの周り、欲望に忠実な人が多い気がする。

 まぁ、いい。これで先輩の了承は取れた。

 ご希望通り、迎えに行くことにしよう。

 今すぐ。


「というわけで、お願いします」


 ぼくは秋山さんに言った。

 メイド服を着た秋山さんは、ため息をつく。


「随分と、強引な説得でしたね」

「強制するようなことは一切ありません」

「分かっています。それでは、参りますよ」


 ぼくは使用人の服を着ていた。

 首から『研修中』と書かれたプレートを下げている。

 そう、すでにぼくは桐島家の中にいた。

 先輩の同意を得るという条件で、秋山さんに協力してもらったのだ。


「それでは、こちらがお嬢様のお部屋になります」

「ありがとうございます」


 ぼくはノックもせずに、ドアを開けた。

 部屋の中では、スマホを胸に抱いた先輩がいた。

 物思いにふけるように、目をつぶっている。

 ぼくが来たことに気づくと、先輩はスマホを落とした。


「な、凪!?」

「はい」

「早すぎます!」

「お気になさらず」

「お気になさりますよ!?」

「それよりも、何をしていたんですか?」

「……別に、何もしていません」

「そうですか。てっきり、スマホの通話が終わった後に、感極まってスマホを胸に抱くという少女漫画にありそうな行動に出ているのかと思いました」

「それで、どうやって死にたいですか? おススメは、爪の隙間に何度も針を刺されたことによる失血死ですが」

「ガチな拷問じゃないですか。しかも、死ぬまでに相当時間がかかりそう!?」

「地下牢で、私が手ずからやって差し上げます」

「遠慮します」

「あら、慎み深いのですね」


 目が笑っていなかった。

 これは、ちょっと怖い。


「それで、どうするつもりですか? 白馬に乗った王子様のように、私をここから連れ出してくれるのでしょうか」

「そうですね。ただ、考えてみれば、あの部屋って、家賃とかは親が出していますよね? でしたら、連れて行っても無駄なんじゃないでしょうか?」

「ここまで来て、何を言っているのですか?」


 怪訝そうな顔をする先輩。

 だが、ここまでは計画通りだ。

 先輩を連れ出すために必要な事。

 それは――。


「誰だ、貴様は」


 気が付けば、部屋のドアが開いていた。

 ドアの向こうにいたのは、腕を組んだ和服の男性。

 身長が高いうえに、筋骨隆々。

 まるで金剛力士像のごとき出で立ちだ。

 ただそこにいるだけで、とんでもない迫力を持っている。


 その男が何者なのか――。

 そんなことは分かり切っていた。

 彼こそが、桐島先輩の父親にして桐島重工社長。

 桐島権蔵その人だ。


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