↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お隣の氷姫は、ぼくにだけ微笑む  作者: こねこねこ
第3章 佐藤綾香の秘密

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/51

消えたUSB④:学園王子、アドバイスをする

 犯人を捕まえる――というのは、簡単なことではない。

 今回のような窃盗事件では、手掛かりはほぼゼロ。

 職員室内に監視カメラでもあれば話は別だが――。


「ないよ」


 前田先生は、あっさりと言った。

 まぁ、ないのが普通だろう。

 期待はしていない。


「それじゃあ、どうやって調べるんですか?」

「それは君が決めてくれればいい」


 ぼくが決めるって……。

 そんなことを言われても、どうしようもない。

 警察のような科学捜査が出来るわけでもないのだ。

 そもそも、ぼくは「以上です」と言ったのだ。

 あれは「これ以上は、警察を呼んでください」という意味だったのに。


「どうしてこんなことに……」

「無理なら無理だと言ってくれていいよ」


 前田先生が言う。

 だったら、最初からぼくの調査を提案しないでほしい。

 この流れで「無理です」とは言いにくい。

 教頭に対して色々と言ってしまった手前、即時撤退は避けたいところだ。


「それじゃあ、とりあえず、桜井先生に話を聞かせてもらいたいと思います」


     ×××


 調べ物の基本は、情報収集だ。

 そこで得られた情報を使って、結論までたどり着く。

 あるいは、結論に近づくためのするべきことを探す。

 それは事件の捜査でも変わらないはず。

 というわけで、まずは桜井先生に話を聞くことになった。

 桜井先生は、自席で真っ白に燃え尽きていた。


「悪いな、佐藤。こんなことに巻き込んで」

「いえ、どちらかというと、巻き込んだのは前田先生ですし」

「ああ、そうだな。それで、事件のことを話せばいいのか?」

「はい、お願いします」


 桜井先生は、覇気のない声で話しはじめた。


「職員が使うUSBは、共有の鍵付きロッカーに入れて保管することになっているんだ。そこのロッカーな」


 桜井先生は、ロッカーを指さした。

 ありふれた金属製のロッカーだった。

 三段の引き出しがあり、右上には小さな鍵穴があった。


「鍵は一つだけですか?」

「そのはずだよ」

「鍵の管理は誰が?」

「教頭先生がしている」

「教頭先生が?」

「うん。でも、鍵は関係ないと思うぞ。勤務時間内は、ロッカーは開けっ放しだから。こんな緩いセキュリティでは、鍵がかかっているかどうかなんて、問題にならないだろう?」


 そのとおりだ。

 今回は、たまたま桜井先生が被害に遭った。

 でも、誰が被害に遭ってもおかしくない。

 ただ――。


「いつ盗られたのかを把握するために、少しは参考になるかと思います」

「あー、そだねー」


 先生は軽い調子で言った。

 まるで、自分は関係ないと言わんばかりだ。

 既に、心は退職済みなのかもしれない。


「あの、先生。大丈夫ですか?」

「千の風になって、どこかに飛んでいきたい」

「駄目っぽい」


 早く何とかしないと、本当に教師を辞めてしまいかねない。

 この人は、悪い先生ではないのだ。

 辞めたら悲しむ生徒がいるはずだ。

 桐島先輩とか。他にも、多分いるはず。

 いるよね? いるといいな。


「そもそも、どうして桜井先生が責められているんですか?」

「どういうこと?」

「そこのロッカーに入れておいたUSBがなくなったんですよね? だとしたら、責任を問われるべきは教頭なのでは?」


 数人の教師が反応した。

 彼らも分かっているのだろう。

 だが、立場上言えないだけなのだ。


「ロッカーは適切に管理されていた」


 教頭が口を挟んできた。

 この人、どこかに行っていてくれないだろうか。

 そう思ったが――。

 考えてみれば、鍵を管理している以上、この人も事件当時者だ。

 折角いるのだから、この人からも情報を貰うことにした。


「適切? 具体的にはどのような管理を?」

「鍵が掛けられている」

「勤務時間内は、鍵がかかってないんですよね?」

「職員たちの目がある」

「四六時中見張っているわけではないですよね? 内部にいる悪意ある犯人に対しては、無意味です」


 教頭が睨みつけて来た。

 だが、そんなものをイチイチ気にしていられない。

 さて、他に何を聞いたものか――。


「桜井先生は、誰が怪しいと思っていますか?」

「え?」

「犯人はこの中にいます。ですから、この中で最も犯行に及びそうな人を教えてください」

「そ、それは分からないな」


 先生は目をそらしながら言った。

 犯人の心当たりはあるけど、証拠がないといった感じだろう。

 ただ、ここで口にすると問題になるので、言えないのだ。

 後でもう一度聞いてみることにしよう。


「教頭先生はどう思いますか?」

「私か?」

「はい。誰が犯人だと思います?」

「そもそも、これを窃盗事件だとは思っていない。これは紛失事故だ」

「ですが、脅迫状が貼られていました。USBは盗まれた。これは確定です。その前提で考えてください。誰が犯人だと思いますか?」

「見当もつかない」

「そうですか」


 まぁ、予想の範囲内。

 それどころか、予想通りの回答だ。

 そういえば、今ので思い出した。


「脅迫状はどうしました?」

「それなら、ここにあるよ」


 前田先生はクリアファイルに入った脅迫状を取り出した。

 あの時見たのと同じで、これといった特徴のないA4コピー用紙だ。

 文字も明朝体で、変わったところは一つもない。


「名簿もついていたと思いますけど」

「そちらについては、シュレッダーにかけさせてもらったよ」

「え? なんでそんなことを……」

「個人情報だからね。使わない個人情報は、即座に破棄すべきだ」


 使わない個人情報は、即座に破棄する。

 それは原理原則であり、正論でもあるのだろう。

 だけど、あの名簿は脅迫文と一セットだ。

 脅迫の証拠の一つとなる。

 もしかしたら、何か手掛かりが得られたかもしれないのに。


「破棄は、前田先生がしたのですか?」

「そうだよ」

「人目につかないように保管できるなら、破棄は必要なかったんじゃないですか?」

「いつまでも残しておくわけにも行かないだろう」


 前田先生は、平然と答えた。

 実物が存在すると困る事情でもあったのだろうか。

 考えてみたが、何思い浮かばなかった。


 ぼくは大きく息を吐いた。

 何だか、行き詰ってしまった感がある。


「……情報が少なすぎる」

「おや、そうかい?」

「そうですよ。推理をしようにも、手掛かりがありません。このままでは、全く進みません」

「ふむ」


 前田先生は腕を組む。


「だったら、少し考え方を変えてみてはどうかな?」

「考え方を変える?」

「視点を変えてみるのだよ」


 視点を変える。

 確かに、それはアリだ。

 では、誰の視点で考えればいいだろうか。

 それは勿論、犯人の視点だろう。


 もしもぼくが、この事件の犯人だったら。

 何のために、この事件を起こすだろうか。

 USBを何のために盗むだろうか。


 生徒の個人情報――正直、いらない。

 売却しようにも、売却する相手がいない。

 脅迫状が貼られたりもしていたが、どうでもいい。


 仮説――。

 この行為に、悪戯以上の意味は存在しない。


 悪戯。


 その言葉に、思い至ることがあった。

 それは、桐島先輩のスマホ入れ替え事件だ。

 スマホを壊したりするのではなく、ただ入れ替えた。

 ケースを勝手に交換し、所有者を混乱させた。

 これもまた、ただの『悪戯』と言える。

 あの事件も職員室で起きた。

 職員室で保管されている間に起きた。

 もしも犯人が同一人物だとすれば――。


 ぼくはもう一度、引き出しを開けた。

 桜井先生のUSBは、やはり引き出しの中にはないようだ。


「そこは何度も探したよ」


 桜井先生が言う。

 確かに、ロッカーの引き出しの中は探したのだろう。

 だけど、こういうロッカーにはまだスペースがあるのだ。

 ぼくは、引き出しを少しだけ持ち上げ、ロッカーから引き抜く。


 すると――。

 ロッカーの底の部分に一本のUSBメモリがあった。

 紫色のスケルトンのUSBだ。


「これじゃないですか?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。