佐藤綾香の秘密⑨:陸上少女、共感する
本棚には、持ち主の性格が出るらしい。
その意見には全面的に賛同するところだ。
だから、自分の部屋の本棚というのは、あまり人に見られたくない。
図書館で借りた本というのも、それに近いものがあるだろう。
それは、借りた者の内心を表す鏡となるのだから。
では、強制的にそれを開示されるとどうなるか。
それは、己の内心を暴露されたようなものだ。
これまでのイメージが崩壊することになるかもしれない。
それに伴い、耐えがたい恥辱を味わうこともあるだろう。
そして――。
その『惨劇』が今、始まろうとしていた。
月曜日。
図書室前に『督促状』が張り出された。
これは、毎朝司書が貸出状況をチェックしてから貼りだすものだ。
基本的には誰も気にしない。
だが、この日は違った。
この日の督促状は、対象者数が倍増していたのだ。
その督促状には、普段名前が出ていないような生徒も掲げられていた。
中には、公にしたくないようなタイトルも晒されていた。
その噂を聞きつけた生徒たちが、図書室前に集まることとなったのだ。
ぼくも澪と一緒に行ってみたが、確かに人が溢れていた。
ほぼ全員が、貼りだされた督促状を見ている。
そこで――。
「……あ」
澪は、何かに気づいたらしく、ある一点を指さした。
そこには『2B 星野カレン【BL小説の書き方】』とあった。
「あの人、私に嫌がらせをしてくる先輩」
「犠牲者になったのか」
「BL小説の書き方……」
澪に嫌がらせをした陸上部員は、己の性癖を晒されていた。
同情はするが、仕方がないだろう。
恨むなら、木曜日の担当――黒野しおりを恨んでほしいものだ。
「これでお前も溜飲が下がるんじゃないのか?」
「うん、まぁ……」
歯切れが悪かった。
虐めの主犯に同情でもしているのだろうか。
だとしたら、お人よしが過ぎる――と思っていたのだが。
「何だか、仲良くなれる気が――何でもないわ」
何かが一致したようだ。
詳しくは追及しまい。
その日以降、督促状が出た人数は高止まりとなっていた。
本を返したはずの人たちが、次々と晒されていった。
黒野しおりは不安で仕方がないだろう。
だが、同情はしない。
そもそもの原因は、彼女が仕事を澪に押し付けたことにある。
ぼくが別の場所に本を移したことで、状況の改善も出来ない。
晒上げられた生徒たちの怒りが、彼女に向けられることになるのも時間の問題だどう。
というわけで――。
これが顛末ということになる。




