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お隣の氷姫は、ぼくにだけ微笑む  作者: こねこねこ
第2章 朝比奈澪の秘密

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図書室の謎②:氷の姫君、困惑する

 木曜日。

 放課後になると、ぼくはすぐに図書室に向かった。

 図書室はまだ開いていなかった。

 少し待つと、鍵を持った女子生徒がやって来た。

 彼女が木曜日担当の図書委員なのだろう。

 図書委員は何も言わず、図書室の鍵を開けた。

 ぼくは、その後姿を蹴り上げてやりたくなった。

 だけど、今のところは我慢する。


 ぼくは図書室に入らず、先輩の到着を待った。

 そして五分ほどが経った頃、小走りで先輩は現れた。

 急いできてくれたのか、少し息が荒くなっている。


「お待たせしました」

「いえ。来ていただいて、ありがとうございます」

「それでは、早速中に入りましょう」

「はい」


 ぼくと桐島先輩は、図書室に入った。

 すると、図書室の中にいた生徒たちが、こちらに注目した。

 桐島先輩は、ただそこにいるだけで注目を集める人だ。

 ぼくと一緒にいられるところを見られるのはあまりよくないはずだが――。

 その点については、もう諦めた。

 先輩は頻繁にぼくのところに来るようになった。

 後は、ぼくが口を滑らせなければいいだけだ。

 先輩が口を滑らせた場合は、自己責任ということで。


「先輩、図書室は利用しますか?」

「たまに。凪は?」

「一度だけ利用したことがあります。『自動貸出機』を使ってみたくて」


 ぼくがそう答えると、桐島先輩は苦笑した。

 この学校が所蔵する図書には、ICチップが組み込まれている。

 そのチップを自動貸出機で読み取ることで、貸出の処理をしてくれるのだ。

 ぼくも初めて使った時は、未来の技術って感じがしていた。

 まぁ、慣れてしまえば、ただの便利な装置程度にしか思わないけれど。

 それに――『人に見られたくない本』を借りたい時は、とても便利だ。


 ぼくは図書室の中を見回す。

 以前来た時と内装は変わっていない。

 ドアから入った正面には、カウンターがある。

 先ほどの図書委員がそこに陣取っていた。


 少し離れた場所には『自動貸出機』が一台ある。

 今も数人がそちらに並んで居る。

 並行して、カウンターにも数人が列を作っていた。

 そちらでも貸出しの手続きを行うことは出来るのだ。


「それじゃあ、借りる本を選びましょう」


 今回の目的は、借りた本を読むことではない。

 借りた本を読まずに返却ボックスに入れることだ。

 ぼくは、本棚から分厚くて重い本を三冊適当に取り出した。

 自動貸出機は空いていたが、敢えてカウンターに向かった。


 カウンターにいた図書委員は、怪訝そうにしていた。

 自動貸出機が開いているのに、わざわざカウンターに来る人が珍しいのだろう。

 実を言えば、ぼくの目的の達成のためには、自動貸出機でもよかった。

 でも、この図書委員の顔と名前を見ておきたかったのだ。


 名札には『黒野しおり』という名前があった。


 貸出処理が終わると、桐島先輩を探した。

 先輩は、ちょうど自動貸出機で本を借りているところだった。

 それを終えると、ぼくの側にやって来た。


「任務完了ですね」


 先輩は悪戯っぽく微笑んだ。

 その手に持っていたのは『夏への扉』。

 猫が表紙に描かれているSF小説だ。

 読んだことがなくても、この表紙を見たことがある人は多いだろう。

 ぼくも猫目当てで読んだことがある。

 名作であり、是非一読してほしいものなのだが――。


「いえ、まだです」


 ぼくの計画では、それは出来ない。

 少なくとも、今回は諦めてもらうしかない。


 ぼくは、先輩と一緒に図書室を出た。

 ドアを閉めてから、返却ボックスの前に立つ。

 そして、借りたばかりの本をその中に入れた。

 返却ボックスの内部は、斜面になっている。

 本が滑り落ち、箱の中でドスンという鈍い音がした。


「先輩もお願いします」

「……本当にやるのですか?」


 先輩は手に持った本を見た。

 そして、ぼくを見て――もう一度本を見る。

 だが、とりあえず従ってくれた。

 先輩は、借りたばかりの本を返却ボックスに入れた。

 これで『下準備』は完了だ。


「これで任務完了、ですか?」

「はい、ありがとうございます」

「結局コレは、何の意味があったのですか?」

「何だと思います?」

「……私と一緒にいたかったとか?」


 先輩はぼくの顔を覗き込んだ。

 油断しているところに、こういうことをしないでほしい。

 うっかり、勘違いしそうになってしまう。


「家で嫌というほど一緒にいられますよね」

「嫌なのですか?」

「光栄に思います」

「ありがとうございます。でも、期待していた答えとは違いますね」

「どういうのを期待していたんですか?」

「素直に『嬉しい』と言って欲しかったです」

「……嬉しいです」

「よろしい」


 先輩は満足げに頷いた。

 そんな彼女に、ぼくは用事を告げる。


「今日は少し遅くなると思います。帰ったら連絡しますね」


     ×××


 それからしばらく、ぼくは学校に残った。

 目立たない場所で、持ってきた文庫本を読む。

 そして、それを読み終えた頃――ぼくは行動に出た。


 窓からは夕日が差し込み、校内を橙に染めている。

 周囲に生徒の姿は見えない。

 辺りは静かそのもの。

 聞こえてくるのは、外から入りこむ部活の音くらいだ。


 そんな中――。

 ぼくは、計画を実行するための『ひと手間』を実行に移した。

 あるいは、こう言った方がいいのかもしれない。


『犯行に及んだ』

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