断片的な脅迫⑥:氷の姫君、手掛かりを得る
「おそらく、これは『メモ』です」
「……メモ?」
「思いついたことをただメモしているだけ。この人がやっていることは、創作のための『アイデア出し』なのではないでしょうか」
だとすれば、全て説明がつく。
これまでのものは脅迫文ではなかったのだ。
おそらくは、犯罪をテーマにした創作に関するメモなのだろう。
だとしたら――。
送り主であるファントムは、創作活動をしている人物ということになる。
「真っ先に思いつくのは、文藝部ですけど」
「文藝部の部員は私だけです」
「そうでした」
文藝部の部員というわけではないようだ。
だけど、方向性は間違っていないはずだ。
アイデア出しをする立場。
小説又は、それに類するものを作ろうとしている人。
小説でないなら――。
「……脚本か」
そうだ、それなら説明がつく。
スマホの所有者は、脚本を書いているのだ。
おそらくは、演劇の脚本。
送り主の名前が『ファントム』だったのも、演劇関係者だったから。
そのアイデア出しのために、SNSにメモを書き込んでいる。
「先輩、クラスに演劇部の人っていますか?」
「います! 脚本担当している人がいます。『東雲天音』さんという方で――」
「それなら、これはその人のスマホなのだと思います」
まだ、確定はしていない。
だけど、おそらく間違ってはいないだろう。
状況と推理が次々と符合していく。
「持ち主は、別のスマホを使って、思いついたことをひたすら投稿し続けているのだと思います。先輩、演劇部って、金曜日に何かしますか?」
「金曜日……。あっ」
思い当たることがあったらしい。
先輩は、期待に満ちた目を大きく開いた。
「確か、公演をする予定になっていました。クラスの演劇部の子が話していました」
だとしたら、これまで送られてきたものも『メモ』として説明がつく。
送られてきたメッセージの中に『金曜日に全部バラす』というものがあった。
これは、舞台装置を片付けることなのだろう。
他は、思いついたことを思いついたままにメモしただけ。
ここまで来れば、後は簡単だ。
本人に直接会って、話を聞けば確認できる。
「それでは、演劇部のいる場所に行きましょう」
ぼくたちは、体育館へと向かった。
演劇部の公演は金曜日に体育館で行われる。
だとしたら、まだ練習をしている可能性が高い。
そう思っていたのだが――。
×××
「今日は、もう解散しましたよ。確か、三十分くらい前だったと思います」
体育館に行くと、演劇部の活動は終わっていた。
残っていた部員に話を聞くと、桐島先輩の同級生――東雲さんは、もういないとのことだった。
「毎週水曜日は、軽いミーティングのみ行うことになっています。その後も校内に残って話をしている人もいますけど」
「東雲さんが、どこにいるか分かりませんか?」
「すみません。私には分かりません」
「……ありがとうございます」
先輩の声は少し暗かった。
これで解決できると思っていたのだろう。
当てが外れた落胆は、よく分かる。
「先輩。その、東雲さんという人がどこにいるか、心当たりはありませんか?」
「分かりません。私は、東雲さんとは親しくありませんので」
それなら、どうしようもない。
後は、何度も電話をかけるしかないだろう。
明日の朝までに、一度もスマホを見ないということはないだろうし。
電話が通じたら、適当な言い訳をして電源を切ってもらう。
いや――。
「校内にいるのであれば――心当たりがあります」
そうだ。
これまでの状況を考えれば、居場所に心当たりがある。
東雲さんとやらは、演劇部が解散した直後からずっとメッセージを送って来ていたのだ。
自分のスマホが使えない状況で。
だとしたら、校内の『ある場所』にいる可能性が高い。
その場所は――。




